※写真はイメージです。 孤独死現場などを清掃していると、感情を揺さぶられてしまうことが時々あるという。
たとえば、見つけてしまった遺書を憔悴している親族などの依頼主にどう報告するかといった問題だ。傷ついた心に追い討ちをかけてしまう可能性もあるので、清掃業者は葛藤を抱えることになる。
都内を中心にさまざまな現場で特殊清掃を手がけるブルークリーン株式会社で働きながら、特殊清掃の実態を伝える登録者5万3000人以上のYouTubeチャンネル「特殊清掃チャンネル」を運営している鈴木亮太さんに、複雑な感情を覚えた出来事について話を聞いた。
◆自殺現場の遺品整理を依頼されて…
鈴木さんが自殺現場を清掃していた時の経験である。これは“プロ”としての在り方を考えるきっかけにもなったという。
「家で亡くなられた方のお姉さんからお問い合わせをもらいました。その時点で涙を堪えながら話しているのがよくわかりました。『弟が亡くなったので遺品整理をして欲しい』といった依頼で、現場は見たくないようで『郵送で鍵を送るので見に行ってもらえませんか?』と言われました。
依頼主はかなり精神的に参っている感じで、電話先でもわかるくらい、いまにも壊れてしまいそうな印象。その時期は繁忙期でなかなか見積もりにいけず、別の現場が終わってから直接その足で車で向かったところ、ついたのは夜でした」
車で北関東の方に走らせること2時間弱。現場につくと、すっと水を打ったような静けさがあり、不思議な感覚があったという。
「築5年くらいのきれいな一軒家で、天井から首を吊ったわけじゃなく、腰の高さくらいのクローゼットの取っ手に紐をくくりつけて亡くなった現場だったんです。血は床に溜まっていて、血を踏んで歩いたような肉球の跡が大量にありました。おそらく亡くなった時に飼っていた犬がしばらく家の中で歩き回っていたのかなと。
依頼主のお姉さんは現場の状態を知りたくなかったようなので、簡潔にどういった作業が必要で、見積もり金額はこのくらいですと伝えました」
◆机の上に遺書を発見、内容を親族に伝えるべきか?
業務当日、自殺現場の清掃を終え最終点検にはいっていた。清掃現場とは別の部屋、玄関を開けてまっすぐ行ったところに、リビングとダイニングキッチンが広がっており、机の上にノートが置いてあった。
「通常なら、ノートなどプライベートなものを開くのは野暮なので、見ないで貴重品リストに入れて依頼主に渡すんですが、依頼主のお姉さんの悲嘆に暮れた様子を見る限り、親族には見せるべきではないかなと思いました。でも言葉で伝えられそうな内容なら自分から直接伝えようと思い、開いて読んでみたんです。
中身は、事故を起こして会社に迷惑をかけてしまったなどの贖罪の言葉が書いてあり、ページをめくるにつれてどんどん語彙力が下がっていき、『今日は何を食べた。美味しかった。散歩に行った。楽しかった。』のように文章が稚拙になっていったんです。最後の書き込みには『生きるのに疲れた、もう嫌だ。』といった言葉が謎の絵とともに書いてあり、ページも破れかけていました」
全部見終わった後、見なければよかったと感じたという。これを親族に見せるか否かすごく悩んだ。見せてしまったら心をさらに病んでしまうかもしれないと思ったからだ。
◆感謝の言葉に救われた
「考えた結果、依頼主に作業の全工程が終わったという報告と合わせて、遺書が見つかったと伝えました。読むべきではないと思いつつも読んでしまったことを謝罪しつつ、『見ない方がいいと思いますが、どうしますか?』と尋ねました。言葉で説明してほしいなら今伝えますと。2分くらいの沈黙があった後に、『送ってください』と言われたので、郵送でお送りしました。
すると数ヶ月後にご連絡をいただいて、『あの時、遺書のことを教えてもらわなければ、立ち直れていなかったかもしれません』とお礼の電話をいただきました。弟が生前どう過ごしていたのかを知れてよかったと。なるべく仕事に感情移入しないというのがプロだと思っていたのですが、今回ばかりは胸に来るものがありました」
鈴木さんは、葛藤しながら行動した結果が依頼主の心に悪影響を与えることになったのではないかと危惧していたが、一本のお礼の電話によって、自らも救われたのだ。
「ブルークリーン株式会社としては『心をきれいに地球をきれいに』といった社訓があります。今回の自分の動きは会社のビジョンとは逆の動き、お客様の心を抉ってしまったのではないかと思いましたが、結果的に人の心を救うことができたので、かなり自分の中でも大切な経験になりました。働くにあたって、ただ作業をこなすだけではなく、お客様の心を拾うところまで考えていくのがプロとして重要なのではないかと考えさせられた案件でした」
◆ゴミ屋敷と化した家
このような、仕事中に心を抉られるような体験は何度もあるという。
「他には宗教関係の理事をされている女性が孤独死し、掃除にうかがったことがありました。遺体の発見が遅れ、かなりひどい状態になっていたそうで、ご家族の方が遺体の面会ができないくらいの悲惨な状況でした。
3LDKの一人暮らしで、荷物が多く玄関からダンボールが道を塞ぐように積んでありました。過去には両親と暮らしていたようなのですが、先立たれてしまったあとの孤独死のようでした。なので、ご依頼の内容としては部屋全体を整理して全て綺麗にしてくれと」
宗教関連の仕事以外に他のお仕事もしていたようで、仕事部屋は足の踏み場がなかったようだ。亡くなった女性は足が悪く、外での移動は車椅子を使用していた。
「おそらく、一人暮らしで足が悪く掃除などがあまりできなかったので、あそこまで散らかってしまったのだと思います。玄関も通れないくらいにダンボールなどが積まれていて、足が不自由な方の一人暮らしはかなり大変なんだろうなと思いました。死後の発見が遅れたことでウジ虫もかなり湧いてしまって、ハエなどが換気扇をつたって隣の家や共用部の通路にまで行ってしまってるようなひどい状態でしたね。
ゴミ屋敷のような状態の場合、普段はテンポよくゴミを仕分けしていくのですが、今回は宗教関係の品物や資料で部屋がいっぱいになっているので、何を捨てていいのか判断がむずかしかったです。なので一個一個、依頼主である弟さんに確認しながら捨てていきました。その時、弟さんが『なんでこんな亡くなり方をしたんだろうな』って心境を吐露していて。ただ、こちらも同情をするとあまりよくありません。同情をしすぎると自分の精神が病んでしまったり、悪影響が出るんですよ。なので、この仕事においてはやはり多少ドライな感性というのは必要なのです」
◆お経にだんだん熱がこもっていき…
清掃を終えて遺品も整理し、綺麗になった家で、依頼主が現役のお坊さんということでお経をあげて供養をすることとなった。
「実の弟が姉の供養をする現場に初めて立ち会いました。本来は立ち会うべきではないのかもしれませんが、掃除が終わってすぐのことだったので、亡くなった場所に向かってお経を唱える姿を見ていたんですね。
実の姉のためにお経をあげる弟さんがどんどん辛そうな表情に、そして感極まっていき……。お経にだんだん熱がこもっていくのを感じたんです。それを見て私も思わず目頭が熱くなってしまいました。
不思議とお経が終わった後は部屋の空気が軽くなった気がしたんですよね。モヤが晴れたような感じです。最初から最後まで立ち会えて本当によかったなと思いました。あまり関係ないかもしれませんが、車での帰り道、信号がずっと青で、赤信号に引っ掛からなかったんです。自分の中で“流れ”のようなものが変わったような気がしました」
<取材・文/山崎尚哉>
【特殊清掃王すーさん】
(公社)日本ペストコントロール協会認証技能師。1992年、東京都大田区生まれ。地元の進学校を卒業後、様々な業種を経験し、孤独死・災害現場復旧のリーディングカンパニーである「ブルークリーン」の創業に参画。これまで官公庁から五つ星ホテルまで、さまざまな取引先から依頼を受け、現場作業を実施した経験を基に、YouTubeチャンネル「BLUE CLEAN【公式】」にて特殊清掃現場のリアルを配信中!趣味はプロレス観戦