
ヴィッセル神戸
山川哲史インタビュー(後編)
ヴィッセル神戸の山川哲史がキャプテンを預かるのは、ヴィッセルジュニアユース時代の中学3年生以来。プロキャリアでは初めてだ。理想のキャプテン像については、「引き受けたことで自分も成長していきたいし、これからいろんな試行錯誤しながら見つけていきたい」と話すにとどめたが、"リーダーシップ"については思うところがあるという。手本にするのはチームメイト、酒井高徳だ。
「(酒井)高徳さんの言葉にはいつも、"よくなってほしい"という愛情をすごく感じるというか。だから、どれだけ厳しいことを言われていても、すんなり入ってくるし、チームにもすごく響く。それはきっと、高徳さんの、普段からの振る舞いや人間性があってこそ。常に相手を慮る気持ちを持って接してくれるのもわかりますしね。そういった、人としての部分は、自分がキャプテンを預かるうえでもすごく参考にしているところ。
言葉ってすごく難しくて、言い方、伝え方次第で相手の受け取り方も全然違ってくるというか。本当にみんなが勝つことに執着して戦っているからこそ、時に自分のひと言が反感を買ってしまうことにもなりかねない。それを踏まえても、これまで以上に普段からの振る舞い、言動には責任を持たなければいけないと思っていますし、ピッチでも説得力のあるプレーをしていかなくちゃいけないと思っています」
昨年以上の自分を求めるうえで心掛けているのが、"チャレンジ"だ。昨年の後半戦は特に、僅差の戦いが続くプレッシャーのなかで安パイなプレーに終始してしまった反省からも、今年はどんな状況に置かれても、ポジティブな選択をしていきたいと胸に誓う。
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「肩書きに関係なく、まずはチームの勝利に貢献するプレーをするのが、選手としての使命。去年の終盤は、1試合も落とせないという状況下、プレー選択のところで後ろに下げる回数が増えたり、相手FWを潰しに行くべきシーンで少し躊躇して距離を開けてしまったり......。チャレンジのプレーが減ってしまった。
でもそういうところで、ひとりで剥がせたり、パスで相手をひとり置いていければ、局面はかなり変わっていくはずなので。"2連覇"によってチームとしても相当マークされるし、対策を講じられるはずですけど、今年はよりチャレンジの選択をすることで、チームの士気を高めていきたい。その成功体験を繰り返すことで、自信をより揺るぎないものにしていきたいと思います」
また、自分の"弱さ"を自覚していることも、力にしたいと言葉を続けた。
「昨年の最終節もしかり、僕は決してメンタルが強いわけではなく......いつも自信満々でもないし、どちらかというと、いいことより悪いことを想像してしまうことが多いんです(苦笑)。でも、その弱さを自覚しているから、強くいようともするし、準備もするし、最善の状態でピッチに立とうともする。それが、昨年も大きなケガなくシーズンを通して試合に出続けられたことにも繋がったと思うので。
だからこそ、これからもこの自分を受け入れ、うまくつき合っていこうと思っているし、緊張やプレッシャーを反骨心とか、『やってやる』という気持ちに変えて戦っていこうと思っています」
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クラブ創設30年目、阪神・淡路大震災からも30年を数えるシーズンに、ともに復興の歴史を歩んできたたくさんのファン、サポーターとより大きな歓喜をつかむためにも。
「僕は阪神・淡路大震災後に生まれた世代ですが、ヴィッセルが復興とともに歩んできたクラブだということは、ジュニアユース時代からずっと意識してきたし、今も自分の核に据えています。毎年1月17日が近づくと、映像を通して記憶している当時のことが蘇ります。
また、2011年の東日本大震災をはじめとする日本で発生した震災を通して、阪神・淡路大震災のことを考えることもあります。東日本大震災からも10年以上の時間が過ぎた今も、苦しんでいる人たちがたくさんいるということを目の当たりにするたびに、神戸の復興もきっと大変な道のりを歩んできたんだなと想像することもあります。
だからこそ、こうしてすばらしい環境でサッカーをさせてもらっていることに感謝しながら、ヴィッセルのエンブレムをつけてプレーする責任をしっかり担っていきたいし、いいニュースを届け続けられるクラブでありたいとも思う。今シーズンもできるだけ多くのタイトルを獲得することで、30年という長い歴史を支えてくれた人たちに、今も応援し、支えてくれているたくさんの人たちにいいニュースを届けたいと思います」
百戦錬磨の選手が集うチャンピオンチームに誕生した若きリーダーは、弱い自分を知り、受け入れることで、強く、逞しく、先頭に立つ。
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(おわり)
山川哲史(やまかわ・てつし)
1997年10月1日生まれ。兵庫県出身。中学、高校とヴィッセル神戸のアカデミーに在籍し、筑波大学に進学。2020年に卒業後、ヴィッセル入り。入団当初はサイドバックを任されるが、2023シーズンからは本職のセンターバックで起用される。持ち前の高さと強さを生かしてレギュラーに定着。今季からキャプテンを務める。