
事の発端は、昨年12月半ばの週刊誌報道でした。2023年6月、人気男性タレントと芸能関係者の女性との間にトラブルが起き、男性側が巨額の示談金を支払って解決したというのです。さらに後日、トラブルの内容が性的なものだったとも報道されました。
世間の関心が「フジテレビのコンプライアンス姿勢」に移った出来事
当初はもっぱら、なぜトラブルが起きたのか、男性タレントは何をしたのか、いつ彼が会見などを開いて本人の口から何が語られるのかなどに注目が集まっていましたが、ある時期を境としてフジテレビにその注目が移り、同局が激しい批判にさらされることになったのです。なぜ、フジテレビがやり玉に挙がってしまったのか。その再発防止ポイントはどこにあるのか、考えてみましょう。
批判の矛先がフジテレビに移ったのは、1月17日に開かれた記者会見がきっかけでした。この会見についてはマスメディアでさんざん叩かれたので、ご存じの人も多いでしょう。
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この会見を機に、フジテレビに番組提供、広告出稿をしていた企業たちが続々、広告スポンサーを降りるという事態に発展しました。そして世間の関心事は、発端となった不祥事の当事者のことよりも、むしろ「フジテレビのコンプライアンス姿勢」という点に移っていったのです。
激しい批判を受けて1月27日に行われた2回目の会見は、フジテレビ自身がそのすべてを生中継する中、10時間以上にわたる異様なものになりました。
一貫して感じる“周りの人間に不信感を与える何か”
一連の流れを受けて現在、フジテレビの信頼、イメージは地に堕ちたといえる状況になっています。なぜなら、起死回生の2回目の会見では「回答は差し控える」という受け答えこそ減ったものの、「被害者の擁護」を理由にして直接的な回答を避ける場面も多く、前回の悪いイメージの払しょくからは程遠いものになったからです。不祥事発生を知っての対応、あるいは2回の会見対応にみる同社の姿勢には、一貫して“周りの人間に不信感を与える何か”があるように感じられました。その不信感を与える何かは、一言で言うならば「配慮のなさ」であるように思うのです。
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一方で、不祥事情報は経営トップにまで上がったことを認めており、同社の一連の対応はトラブルを隠ぺいする行動であったとも受け取られかねないことが、会見から明らかになりました。
これだけでも十分重大なコンプライアンス違反行動ですが、被害者に配慮した結果とはいえ、人権侵害の可能性がある事案が社内に適切に共有されず、当該タレントを“キャスティングし続けた”ことは、さらに重大なコンプライアンス違反行動であると考えます。
これら同社の一連の行動には、被害者に対する「配慮のなさ」ばかりが感じられるのです。
一方で、昨年12月に自社管理職が当該トラブルに関わっていたと報道されたことに対し、第三者の調査などを経ることなくいち早く完全否定したことも、被害者心理を勘案すればここにも「配慮のなさ」がうかがわれます。2回目の会見でさかんに口にしていた「被害者の擁護優先」は、いささか空虚に響く言い訳であると感じるところです。
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さらにこの会見では、すでに国民の重大関心事となっていた自社関連トラブルについて、日本弁護士連合会のガイドラインに準拠していない独自の外部調査でお茶を濁そうとしたことも、大きな批判を浴びました。国民心理に対する「配慮のなさ」が、さらなる大きな批判を呼んだといえるでしょう。
悪しき組織風土が払しょくされない限り難しい
組織ぐるみの企業不祥事では、その「組織風土」に問題ありとされるケースが多く存在します。先ほど指摘した終始一貫した「配慮のなさ」が組織風土に起因するものであるのなら、その組織風土を変えるような再発防止策を講じる必要があるでしょう。今回のケースでは、長年権力の座に居座って組織を牛耳っている現相談役が、その組織風土を操り幹部社員たちを誤った行動に走らせた元凶だったのではないか、ともいわれています。
事の真偽は、第三者委員会による調査結果を待つ以外にありませんが、たとえどのような結論が出ようとも、その調査結果を厳粛に受け止めて人心一新を図り、悪しき組織風土の払しょくがなされない限り、地に堕ちたフジテレビの信用回復は難しいと考えます。
大関 暁夫プロフィール
経営コンサルタント。横浜銀行入行後、支店長として数多くの企業の組織活動のアドバイザリーを務めるとともに、本部勤務時代には経営企画部門、マーケティング部門を歴任し自社の組織運営にも腕をふるった。独立後は、企業コンサルタントや企業アナリストとして、多くのメディアで執筆中。(文:大関 暁夫(組織マネジメントガイド))