
だいぶあとになって、新卒で入社した会社が異常だったと気づくこともある。埼玉県の40代女性は、「高卒で、正社員として入った事務職の仕事でした」と、数十年前の出来事を振り返った。
事務の先輩が退職する1週間前に入社した女性は、
「1週間で私はワンオペで職場を回せるようにならねばありませんでした」
と入社早々、窮地に立たされたようだ。(文:天音琴葉)
「トイレに行くのも我慢するような日々でした」
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主な1日の職務内容は、「電話やFAXでの受注から在庫管理、そして到着日の連絡を電話で行い、伝票を制作して発送するまで」だった。
「その他にもお茶くみや掃除など多々ありましたが……昼休みだろうと何だろうと、電話が鳴れば出なければならず、昼食を食べに行くことも買いに行くことも出来ず、トイレに行くのも我慢するような日々でした」
月に一度の棚卸しが、忙しさのピークだったようだ。
「全て一人で在庫の確認です。何百とある小さなケースに入った商品を全て数え、データと照合することを繰り返していました。駅まではひたすらに全速力で走り、終電に体を捩じ込む生活でした」
棚卸しの人手がなかったわけではないそう。営業担当者も「残業扱い」で居残っていたが、棚卸しを手伝うことはなかった。目的は他にあったようだ。
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「その人達が残っていた理由は『夜食代が経費で出るから』というだけでした。手伝ってくれることもなく、この後どこに飲みに行くかと雑談に花を咲かせ、ここぞとばかりに近所の弁当屋の高い弁当を頼み、味噌汁まで付けて、夜食時間を楽しんでいました」
おそらく会社は棚卸しの日に、従業員を労う意味合いで夜食代を出していたのだろう。だが手伝いもしない人たちが、その恩恵に預かっていたと知っていただろうか。当然、女性は夜食を楽しむ余裕はなく……
「営業の人は『貴方は作業しながら片手で食べられる物がいいよね? おにぎり? サンドイッチ?』と、私にその二択を聞いてきました。自分達が高級な焼肉弁当を食べて談笑しているその横で、私は片手でコンビニのおにぎりを食べながら、ひたすら作業をしていました」
平静さを装っていたが、心はボロボロだったようだ。「悔しくて帰りの電車で泣いたこともありました」とつらい胸の内を打ち明けた。
「実家の廊下で倒れているところを親に発見されて……」
ある日、就業後に女性の歓迎会が行われた。未成年であることを誰もが知っていたというが「乾杯はビール」を強要されたそうだ。
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「私は、法律違反であることも気にして『まだ未成年なのですが……』と断ろうとしても、上司は『貴方のための歓迎会なのだから、一杯はビールを飲みなさい』と、ソフトドリンクを許してくれませんでした」
コンプライアンスに厳しい今はさすがにないだろうが、少し前にはよくあった光景だ。結局、乾杯でグラスに唇を触れさせただけで、一口も飲むことはなかったというが、「法律すら守れないこんな会社はダメだ」と自身の歓迎会で悟ったそうだ。
結局、ハードワークで心身を壊した女性は退職した。
「出勤日の朝に実家の廊下で倒れているところを親に発見されて退職をしたのですが……本当に辛い職場でした」
思い返せば「他にも変なところは多々ありました」というが、「初めての正社員で初めての事務職だった私は当時、気づけていませんでした」と後悔を口にする。倒れる前に辞められたらよかったが、社会人とはこんなものだと無理して合わせていたのだろう。
女性は少し前に履歴書を作った際、この会社の正式名称を調べようとスマホで検索してみたそうだ。すると……
「もう会社は無くなっていました。全国にシェアを持ち、病院や患者さんのために医療器具を卸す会社だったのに、需要が無くなるとは思えません。潰れるべくして潰れたのかもしれない、などと今は考えています」
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