人間なし、猫あり。セリフなし、鳴き声あり。アカデミー賞受賞映画『Flow』はハンパない没入感に大感動!

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2025年03月14日 20:20  Pouch[ポーチ]

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【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、第97回アカデミー賞長編アニメーション映画賞を受賞した『Flow』(2025年3月14日公開)です。ラトビア出身のギンツ・ジルバロディス監督の作品で、ラトビア初のアカデミー賞受賞作でもあるのです。試写で鑑賞しましたが、これが想像以上にとーっても素晴らしかった!

では、物語から。

【物語】

世界が大洪水に飲み込まれ、今にも街が消えようとしている中、ある一匹の猫は流れてきたボートに乗り込むことを決意。その道中でほかの動物たちも次々とボートに乗り合わせ、旅が始まります。

衝突したり、助け合ったりしながらもサバイバルしていく動物たち。彼らは、この荒れ果てた地で生き抜くことができるのでしょうか……。

【人間が出てこない動物たちの世界】

この映画には大きな特徴が2つあります。

1つ目は、人間がひとりも出てこないこと。

動物たちは流れ流れて、荒れ果てた街にたどり着きます。その街は人間がつくり、生活していた場所ですが、人の気配はゼロ。もしかしたら人類が絶滅した未来なのかもしれません。とはいえ、人間が残したものは動物たちのサバイバルを助けていた! 猫たちが乗り込んだボートもそのひとつです。

【動物たちの鳴き声と大自然の音で構成された映画】

2つ目は、セリフがないこと。

アニメーション映画の動物は擬人化されて言葉を発し、セリフのある作品が多いですが、本作に登場する動物たちは鳴き声以外、発しません。つまり、この映画は動物たちの鳴き声や風、波、ボートがすすんだり、物が落ちたりするときの音のみ。

これがとても心地よいのです。

「猫が主人公」ということ以外は情報を得ずに観た私は、映画を見ているうちに自分も彼らと同じ世界で生きているような感覚になり、そのハンパない没入感に大感動!

また動物たちそれぞれのキャラクターが行動から伝わってくるのもいいんですよ〜。

こんなにも美しく、楽しく、心に染みる映画とは思いませんでした。

【キツネザルのコレクター癖が愛おしい!】

個人的に好きだったのはキツネザル。コレクターの一面があり、いろんなところで見つけたガラクタみたいな小物を集めて大事にしているんです。ずっと「僕のだからね」という感じで抱え込んでいるのですが、アクシデントで小物がバーンと散らばったときの慌てようったら! とてもかわいかったです。

いっぽう、群れていることが多い白い鳥の中の一羽は猫と仲良くなります。でもその子がボス鳥(?)を怒らせてしまったのか、いじめられてしまい……。このシーンはいちばん胸が痛かった。心の中で「やめてやめて!」と叫んじゃいましたよ。

【宮崎駿ファンの監督が作った映画】

ジルバロディス監督は宮崎駿監督が大好きだそうで、たしかに影響を受けているかも……と感じました。また監督はデビュー作『Rush』(2010)のときからセリフなしの映像作品を作り続けているそうです。その理由は、

「私にとって、セリフは自然なものではないからです」(公式プレスより抜粋)

とのこと。セリフに頼らず、映像で物語を紡いでいくのがジルバロディス監督のポリシー。だからこそアニメーション作品を作るのだとか。また、

「実写よりもはるかに細部まで映像をデザインできますから」(公式プレスより抜粋)

とも。なるほど!アニメーションを制作するのは、自分の世界を守るためでもあるのかもしれません。

とても作家性の強い監督で、ドラマチックな物語があるわけではありません。説明もないので、動物たちの行動を見ながら「何を考えてるのか」「何をしようとしているのか」を見ている私たちが読み取っていく作品なのです。

とはいえ、わかりにくい映画ではなく、セリフがないからこそ小さなお子さんも楽しめると思います。ボートに旅の仲間たちが次々集まってくる感じは絵本の中の世界みたいですもん。

ぜひ大きなスクリーンで観てほしい。動物たちの大冒険を体感してください!

執筆:斎藤 香(c)Pouch

『Flow』

2025年3月14日(金)より全国ロードショー
監督・脚本・音楽:ギンツ・ジルバロディス 音楽:リハルズ・ザリュペ 2024/ラトビア、フランス、ベルギー/カラー/85分
配給:ファインフィルムズ 原題:Flow  映倫:G 後援:駐日ラトビア共和国大使館
©Dream Well Studio, Sacrebleu Productions & Take Five.

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