そろそろ、忖度抜きで「iPhone 16e」の話をしよう

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2025年03月17日 11:01  ITmedia NEWS

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 2月28日に発売になった「iPhone16e」は、10万円を切る価格であったものの、従来の廉価モデルであったSEシリーズと比べれば高いということで「そんな価値あんの?」という話になっている。


【写真を見る】自腹で購入した「iPhone 16e」(全4枚)


 多くのライターがAppleからiPhone16eを借りて、16や15、あるいはベースモデルと言われている14との比較記事を掲載しており、「うん、まあいいんじゃないかな」的な、「でもカメラにこだわるなら16か16Proをお勧め」、的な、まあそらそやろ的な話しか出てこなくて、食傷気味になっている。


 かく言う筆者は、iPhone16eを発売日に購入しており、今手元にある。前のモデルはiPhone12 miniだったのだが、もうminiは出そうにないこと、バッテリーの劣化が気になってきたこと、そろそろUSB-Cモデルじゃないと周辺機器類の動作検証ができなくなったという理由から、買い換えとなった。もちろん出たばかりなので、ニュースバリューもある。今ここで筆者のようなオジサンがiPhone16に買い換えました! と宣言しても、「ほーん(鼻ほじ)」で終わりなのである。


 とはいえ、カメラがショボい、Wi-Fi 6しか対応しない、MagSafe非対応、ディスプレイがやや暗いとマイナス点が多く指摘されており、それで2.5万円しか安くないのはどうなの、という声も聞かれる。スマホのスペックにこだわる人ほど、わざわざこれを選んで買わないだろう。多くの記事が指摘する、「価格差が2.5万円ならiPhone16も検討に値する」というまとめは、16eには価格に見合う価値が見いだせなかった、という意味だ。


 そこまで分かっていて、何で筆者が16eを買ったかというと、他の人と評価点が違うからである。


●16eは別にダメじゃない


 16 Proがトリプルカメラ、16がダブルカメラであることからすれば、16eのシングルカメラが見劣りするのは当然だ。だが筆者は以前、iPhone XRを所有していたこともあり、これもシングルカメラだったが、特に困った事はなかった。


 そもそも筆者は、iPhoneではあまり写真も動画も撮らない。いちいち人に会うたびに記念写真を撮ることもないし、出てきた料理を撮ってインスタに上げることもない。店の中でいちいち「ビシャー」と疑似シャッター音を出して撮影し、みんなで楽しくおしゃべりしながら会食しようというときに1人だけ箸も付けずにiPhoneをいつまでもポチポチしているのは、マナーとしてどうなのかなと思っている。まあ写真を撮るぐらいはいいとして、投稿するのは後にするべきだ。


 ちゃんと撮らないといけないときには、一眼カメラにレンズ数本を持っていく。iPhoneのカメラで撮るのは、参考資料としての記録がほとんどなので、そこそこのカメラであれば十分である。


 今、スマートフォンでいい写真を撮ろうと思ったら、Androidのほうが断然面白い。Lieca、Zeiss、Hasselbladといった高額レンズブランドとのコラボモデルがそれほど高くない価格で出回っており、AIによる補正機能もどんどん進んでいる。


 カメラのためにAndroidに乗り換えろというわけではない。iPhoneとAndroid2台持ちすればいいんじゃんか、という話である。写真はAndroidに任せて、iPhoneのカメラに投資するのはやめるという選択をするなら、16eは最適解だ。


 AIという点では、AppleのApple Intelligenceもようやく4月から日本でサービスが始まる。16e搭載のA18プロセッサは、Neural Engineに関しては上位モデルと同じレベルであり、遜色なく使えるだろう。


 Wi-Fi 7が使えないという指摘もあるが、そもそもうちのルーターはWi-Fi 6までしか対応しておらず、個人的には意味がなかった。加えてホテルや空港などの公共空間、あるいはイベント会場のプレスルームなどでWi-Fi 7を吹くようになるまでには、相当の時間がかかるだろう。


 第一、スマートフォンでそんなに大容量のデータ通信をやる可能性があるだろうか。一応iPhone13以降のProモデルではApple ProResをサポートしているので、動画データが巨大になる可能性はある。ただ出先でiPhoneで動画撮影して大容量の高画質素材をクラウドに今すぐアップするみたいな必要性は、プロでもあまりない。そもそもそれは、一般の人には関係ない世界である。


 「MagSafe非対応」に関しては、単に磁石が内蔵されていないというだけで、ワイヤレス充電には対応している。これはMagSafe対応ケースを付ければ解決だ。すでにAmazonなどでは16e用のMagSafe機能を付加したケースが1000円ちょっとで売られており、これを導入して問題なく使えている。


 充電速度が最大7.5Wと上位モデルの半分だが、iPhone 12 miniでは7.5Wで運用して何も問題なかった。そもそも寝る時に充電器にセットするだけだったり、運転時にカーナビとしてMagSafeスタンドにくっつけて給電しながら、という使い方なので、十分である。


 ディスプレイは上位モデルが最大輝度1,000ニト(標準)、ピーク輝度1,600ニト(HDR)なのに対し、16eは輝度800ニト(標準)、ピーク輝度1,200ニト(HDR)とおよそ2割減で、ちょっと暗い。HDRコンテンツには対応するものの、他のHDR対応ディスプレイで見た経験があると、もう少し輝度が欲しいところだ。HDR動画撮影時にも、日中での撮影時にはモニターとしてもう少し輝度があったら、と思う。


 しかし単にNetflixやAmazon Prime VideoでHDRコンテンツを見るだけなら、それはもうスマホじゃなくて、4K Dolby Vision対応プロジェクタやテレビで見た方が、体験としては上質だ。スマホとして利用するにあたっては、日常的にHDR表示が必要なシーンというのはあまりなく、晴天時の屋外でスマホアプリの画面を見るという用途であれば、何の問題もない。


●iPhoneの本当に評価すべきところ


 個人的にはAndroidと2台持ちなわけだが、その状態において、iPhoneにはきちんとiPhoneの役割がある。それは、セキュリティやプライバシー保護の面で、Androidよりも頼りになるということだ。


 決済関係、例えば交通系カードとかクレジットカード、タッチ決済などの機能はiPhoneにしか設定していない。また銀行アプリやトークンも、iPhoneだけにしか入れていない。またマイナポータルやデジタルヘルスなどの個人情報サービスも、iPhoneのみでしか使わない。


 これはGoogleよりAppleのほうが信頼できるという、ある意味宗教的な信心という事ではない。もともとiOSでは、いわゆる野良アプリをインストールする手段がなく、勝手に妙なものが入る余地がない設計であることはよく知られているところだ。


 逆にAndroid機は野良アプリもインストールできるので、検証などを行うためにさまざまなバックグラウンドを持つアプリを入れ替わり立ち替わりインストールしたりアンインストールしたりしまくっている。また動作検証のために常時開発者モードで動かしているため、セキュリティが甘くなりがちという、使用環境的な問題もある。


 もちろん中にはiPhone用しか存在しないアプリや、両対応しているがAndroidでは挙動が変というものもあるので、そういう場合は仕方なくiPhoneを使う事になる。ただそれはあまり多くない。


 家族のスマホも皆iPhoneである。家族のスマホの不調・不具合のサポートは父親に回ってくるという家庭は多いと思うが、iPhoneはその点でもあまり面倒がない。


 OSや本体、アプリのバージョン違いが発生したり、アプリの機能が使える、使えないが違ってくることも、特にこれまで経験がない。これはiOSのアプリ内でHTMLレンダリングエンジンを参照する場合、Safari系のWebKitを必ず経由することになっているので、iOSのアップデート時にこのエンジンも一斉に最新版に更新されるという構造になっているからだ。


 ところが、だ。2025年12月までに施行される「スマホソフトウェア競争促進法」によって、この安定構造が崩れることになる。iOSアプリのWebKit統一というルールを解放しろ、さらにApp Store以外からもインストールできるようにしろというのだ。


 その他のエンジンと言えばGeckoとかBlinkとかになると思うが、これらはiOSとリンクしないので、OSのアップデートと一緒には更新されない。つまりiOS内にインストールされたサードパーティーエンジンを自分で探して更新しない限り、ある日を境にアプリが突然動かなくなるようなことが起こる。しかもそのサードパーティーエンジンはApp Store以外からもインストールできるようになるので、そっちから入れたらアプリの自動更新も働かない。


 「なんにもしてないのに壊れた案件」が来年あたりからiPhoneで発生することになる。全国の無償家族サポート係たる父ちゃんたちからしてみれば、「めんどくさ!」という話であり、「誰がそんなことしてくれって頼んだ?」という話である。


 iPhoneのメリットは、純正のままで十分役に立ち、仕組みがよく分かってない人に使わせても問題がおこりにくいという事に尽きる。子供に初めて持たせるスマホとしても、妥当である。カメラが2つだ3つだとか、そういうところは問題ではない。


 まったく当たり前すぎるようなところに、実は本質的な価値がある。もはや10万超え当たり前で高止まりしていたiPhoneだが、型落ちや3年も4年も前の廉価モデルを探して買わなくても、10万円を切る価格でOSサポート期間も長い最新モデルですよ、という点に16eの価値がある。


 日本には、iPhone以外の情報機器を使ったことがないという人がたくさんいる。OSの意味が分からない人も大勢いるのだ。そういう人達にも公平に情報にアクセスできる機器として、iPhoneが果たしている役割は大きい。「スマホソフトウェア競争促進法」がどういう施行になり、それに対応したiOSがどのようになるのかまだ不透明ではあるが、このメリットを維持するには、従来通りの純正のままでいられる、という選択肢が消費者に提供されるべきだ。



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