日本の皆さん、諦めない「ど根性」を持ってください

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2025年03月18日 07:21  @IT

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4th.ai エンジニア パトリック・ベイさん

 グローバルに活躍するエンジニアを紹介する本連載。今回も4th.aiでロボティクスとAI(人工知能)の開発研究に携わっているPatrick BAYIM(パトリック・バイム)さんにお話を伺う。フランス語と英語で学び育ったパトリックさんは、あえて未知の言語「日本語」で勉強する道を選ぶ。


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 聞き手は、AppleやDisneyなどの外資系企業でマーケティングを担当し、グローバルでのビジネス展開に深い知見を持つ阿部川“Go”久広。


●日本語、話せますよ


阿部川“Go”久広(以下、阿部川) なぜ来日することになったのですか。


Patrick BAYIM(パトリック・バイム、以下パトリックさん) 大学生の時に、日本への派遣をあっせんする団体から成績優秀ということで表彰され、奨学金をもらいながら日本に行く機会をオファーされました。ただそれは、6カ月間日本語を勉強し、その成績によって奨学金を与えるかどうか判断するというものでした。


 当時、それ以外の国のことも考えていました。一つはカナダ、もう一つはモロッコです。しかしカナダもモロッコもフランス語圏なので、どちらも私にとって快適過ぎる、別の言葉で言えばチャレンジのない生活となります。


 日本は子どもの頃からアニメで親しんだ国です。とはいえ日本のことは言語も文化も何も知らない。ならば日本に行って新しいことを学ぼうと思いました。そこで6カ月日本語を勉強し、どうにか合格しました。


阿部川 なるほど。でも言うのは簡単ですが、実際はなかなか難しいですよね。


パトリックさん そうですね。実は海外も日本が初めてでしたし、平仮名や片仮名も全く知りませんでした。ただやはりアニメで、日本語のパターンみたいなものは分かっていました。


阿部川 今は、どうですか。


パトリックさん はい。(ここから素晴らしく流ちょうな日本語で)日本語はある程度話せます。まあ、専門用語が出てくると頭がパンクすることはありますが。


阿部川 うわー、完璧な日本語です、すごいですね。そこまで話せれば何でもできるでしょう! 仕事でも日本語ですか。


パトリックさん たいてい日本語です。ただわが社はグローバル企業を目指していますので、エンジニア同士は英語でも会話します。またクライアントが日本企業の場合は日本語ですが、外資系企業であれば英語でコミュニケーションします。


●鉱物探査などへのAI利用に興味がある


阿部川 4th.aiに入社して3年ですね。現在の仕事内容を教えてください。


パトリックさん 主にロボティクスとAIの2つに取り組んでいます。ロボティクスでは、移動ロボットの循環化、センサーデータの前処理、センサーフュージョン、経路計画などに取り組んでいます。AIでは、3Dポイントクラウドを使った環境再構築やテキストの感情分析、AIアシスタントのための表情生成などに取り組んでいます。


阿部川 幅広い分野に取り組んでいるのですね。これらの技術はどのような用途に活用されているのですか?


パトリックさん 私たち4thaiは、MaaC(Mobility as a Commodity)とMoT(Mobility of Things)を主要なコンセプトに掲げ、MaaS(Mobility as a Service)、LaaS(Logistics as a Service)、RaaS(Robotics as a Service)などの先端技術サービスを提供しています。これらは自動車に限らず、あらゆる「移動する乗り物」全般に応用可能であると考えており、IoT(Internet of Things)の枠組みをさらに拡張した新たな価値創造を目指しています。


 具体的には、倉庫内で稼働する自律移動ロボットや屋外の自動配送ロボットなど、移動ロボットシステムが主な用途です。また、自動運転の研究開発にも取り組んでおり、認識技術や、言語理解、ARなどのAI技術を幅広く適用しています。これらの技術を通じて、MaaCやMoTの概念を社会に広く提供し、新たなモビリティの可能性を切り開いていきたいと考えています。


阿部川 今後、カメルーンに戻る予定はありますか?


パトリックさん 当初は日本に長く滞在したいと考えていました。非常に安全であり、日本の文化が好きですから、日本での生活に魅力を感じていました。ただ最近は、カメルーンとの絆を保ちながら、日本とカメルーンをつなぐ架け橋になりたいと考えるようになりました。


阿部川 それは素晴らしいことですね。ぜひカメルーンと日本の絆になってください。今後はご自身の専門、ロボティックスやAI、AR(拡張現実)などの分野を深めたいとお考えですか。


パトリックさん ロボティックスとAIは既に専門知識がありますが、今後は工業分野におけるAIのアルゴリズムの最適化に興味があります。具体的には鉱物探査などへのAI利用、それと地理や地勢のイメージ分析にも興味があります。鉱物の探索には多くのコストと時間がかかっていますから、それを解決したいのです。


 特に、アフリカは鉱物資源が豊富ではありますが、テクノロジーが十分ではない。他方日本はテクノロジーやAIがある。これらを融合し、オートメーションや最適化を実現したいと思っています。


編集部 鈴木 @ITの読者、特に若手の方には、パトリックさんのようなAIやロボット関連の仕事に就きたいと思っているエンジニアがたくさんいます。ですが、どんなことを勉強したらいいのか、どうしたらそのような職業に就けるのか分からない、という声をよく聞きます。彼らはAIやロボットに関してどのような経験を積んだらよいのか、教えてください。


パトリックさん 現在AIと言われている言葉は、どちらかというとマーケティングの用語的なもので、「AIとは何か」を言っている人が分かっていないことが多いという前提でお話しさせてください。


 まず大切なのは、AIの歴史を理解することだと思います。方法や技術の前に、歴史がどうだったかを知らないといけません。特に、どのようなことが起源となってAIが誕生したかを知るべきです。これは個人で勉強できることです。それには基本的な数学や幾何学の知識も必要です。線形アルゴリズム、微積分、解析、確率などです。


 また、自分で時間を見つけて読書したり、大学に行って勉強したりすることも大切です。純粋に統計やソフトウェアをやってきた人たちも、AI技術者と同じような科学的な視点や基本的な素養があると思います。


 AI関連企業への就職活動では、AIをどのような分野に応用しているかに注目してください。プロジェクトの概要やポートフォリオなどを見るとよいと思います。具体的なプロジェクトを見ると、実際のところが分かると思います。それでも探せない場合は、やってみたいプロジェクトなどを想定して見るのもよいと思います。


 AIを使う場合には、必ずしも数学的な知見が必要ではありません。それよりもクリティカル思考や既存のAIモデルの使い手、導入方法などを知ることが必要です。いわゆるAIアプリケーション開発ですね。ですから「自分が求めるものは何か」も明快にした方がいいと思います。


●ど根性を持って一歩ずつやっていけば、良いものになっていく


阿部川 パトリックさん自身もまだ27歳とお若いのですが、現在までのアカデミックや仕事での経験を基にして、日本の若いエンジニアにメッセージを頂けますか。


パトリックさん (流ちょうな日本語で)ここからは日本語でお話しします。おっしゃる通り、まだ私は若造で(笑)、何ともいえないところがありますが。


 「人生は1回しかない」という言葉があります。しかし、それぞれのシーンは1回しかないかもしれませんが、生き方そのものは、いくらでもあると思うのです。


 ですから、まずは自分の好きなものを明確にすることだと思います。その道の中で、迷ったり、つまずいたりするけれど、諦めない「ど根性」を必ず持つ。人生は数学ではないので、そのど根性で負けたら、また次のことを考えたらいいので。だから、取りあえず好きなことを明確にして、ど根性を持って一歩ずつやっていけば5年後10年後には知らず知らずに良いものになっていくと思います。言えることはそれしかないかなあ。


阿部川 (日本語で)素晴らしいですね。(英語で)なぜわざわざ日本語でお話しになったのですか。


パトリックさん (日本語で)気持ちを伝えることが必要なので。英語にするとニュアンスが変わってしまうのではないかと思い、気持ちを直接日本語にしました。


阿部川 ありがとうございます。


Go’s thinking aloud


 カメルーンは、英語の地域とフランス語の地域が明確に分かれている。英語でインタビューしたが、パトリックさんはフランス語で育てられた。


 インタビューの最後にメッセージをお願いしたとき、わざわざ日本語で話してくれた。フランス語で考え、英語で話し、それが日本語に訳されると、表現したい真意が伝わらないと配慮してくれたのだと思う。「ど根性」という日本語を久しぶりに聞いた。


 今どき「ど根性で仕事しろ」などと言おうものなら、ハラスメントだし、非論理的で伝わらない。根性論を振りかざす私たちの世代が一番厄介だと自覚、自戒している。もちろん実際に使うことはまずない。


 そんな中パトリックさんは、どこで、誰から、いつ、この単語を仕入れたのだろうか(平面ガエルのピョン吉=『ど根性ガエル』から?)。その彼がAIを専門にしているのが何とも不思議、というかむしろとても頼もしく思えた。



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