撮影/関口佳代―[メンズファッションバイヤーMB]―
「人生のマラソン」を走るためのロードマップを、わかりやすく提示した『ロードマップ』(MB著・扶桑社)は、人生の目標設定から具体的な行動プランまでを、マラソンになぞらえて説明しています。「地方で年収200万円」だったというメンズファッションバイヤーのMB氏に、独立して「MB」として成功するに至った経緯、また人生を豊かに生きるためのヒントを聞いてみました。
◆マラソンのゴールのない人生を走っていませんか?
突然ですが皆さんは、理想の人生を歩んでいますか? 今の働き方や生活、人間関係に不満なく幸福に生きていますか?
当然ほとんどの人はNOと答えるでしょう。通勤電車では暗い面持ちで会社に向かい、SNSでは殺伐とした投稿があふれています。日本社会は沈鬱とした閉塞感に満ちています。そんな中で自信を持ってYESと答えられる人はごく稀でしょう。
しかし皆、一所懸命生きています。多少サボりはしたかもしれないけれど、親から言われたとおりに勉強して進学し、就職までして社会の歯車として必死に頑張ってきました。上司に逆らうこともなく、言われたことをしっかりこなしています。努力してきました。
それなのになぜ幸せをつかめないのでしょうか。それなのになぜ日々は暗く感じるのでしょうか。
それは「ロードマップ」がないからです。ロードマップとは、何を目的にどう頑張るかといった人生の指針となるものです。マラソンでいえばゴールがあるから、人は42.195kmという長距離を走ることができます。このゴールと走る道筋の設定がロードマップです。マラソンにゴールがなければあなたは走ることができるでしょうか? 皆さんは自分の人生のゴールを設定していますか? なんのために働いているのですか? なんのために努力しているのですか?
◆他人の基準で生きる人生は奴隷に近い?
お金? 会社? 出世?
それらが幸せにつながると漠然と考えているのかもしれません。しかし、幸せとは人それぞれ違うものです。幸せとは主観的なもので、自分が感じるものです。しかしながらお金や地位や出世は他人が決めた物差しであり基準です。ここに矛盾があります。
お金をたくさん稼いでも幸せになれるとは限りませんし、出世しても幸せになれるとは限りません。実際に、20代と比べて30代、40代とお金も地位も向上しているかと思いますが、幸せになっているでしょうか。
他人の基準に従って努力しても、それが実際に幸せにつながるわけではありません。その生き方は奴隷に近いと思います。むしろそうした他人が決めた生き方に隷属して生きているから、いつまでも幸せになれないのです。肝心なのは自分で決めた「ゴール」を定めることです。そしてゴールが決まれば走り方が見えてきます。
このロードマップの設計作業こそが、多くの日本人に欠けている要素です。皆、他人に操られ、他人の決めた価値観に踊らされている。それはまるでゴールのないマラソンをひたすら走っているようなものです。
◆自分の「個性」を深掘りして生存領域を見つけよう
我々は自分が何を好きか、何が得意かを見定めることをせずに、条件で仕事を決めています。だからどんぐりの背比べになるのです。大事なのは、自分の基礎ステータス値をあらかじめ把握しておくことです。
RPG(ロールプレイングゲーム)で魔法使いを最前線で戦わせても活躍しません。同様に戦士を後方でバックアップに任命しても薬草を使うのが関の山でしょう。自分の強みを知らないまま、他人と競争している状態が不思議でなりません。
では具体的に個性はどのように探していけばいいのでしょうか。好きなことを仕事にすればいいとは言いますが、「好きなことはなんですか?」と問われて5秒以内に何個あげることができますか? 私は幾多のセミナーやワークショップに参加し、自分でも教鞭を執ることもありますが、ほとんどの人は答えに窮します。
しかし断言しますが、答えに困った方は嘘つきです。本当は好きなことが山ほどあるくせに、自覚のないままに嘘をついているのです。
例えば、好みの食べ物を問われたら、すぐに答えられるでしょう?
その食べる時間は好きではないのでしょうか。私は、ゆかりご飯が信じられないほど好きなのですが、好きなことはなんですかと問われたら6、7番目くらいに「ゆかりご飯を食べること」をあげると思います。無論それ以外にも寝ることが好き、セックスすることが好き、音楽を聴くことが好きと無限にあげることができます。
このように好きなことは誰しも無限にあるはずなのに、どうして悩んでまで答えに窮するのか。それは「好きなことは何か?」という問いを、勝手に「(仕事になりそうなことで)好きなことは何か?」に置き換えてしまっているからです。私は今、個性を知ろうとしています。仕事になりそうで好きなことは聞いていません。好きなことを知ることから個性を把握し、そこから仕事につなげるように思考を展開していけばいいのであって、前提条件をつける必要はありません。好きなことがわかれば、それを活かしてあなたの生存領域を見つけてください。
◆奴隷の戦い方で王様に勝つ方法とは?
王様にとってお客様は数万人いる中の一人ですが、奴隷にとっては一人ひとりが大事なパートナーです。時間の使い方を王様より多くとることで信頼を獲得し、長くお付き合いしてくれる関係を構築することができます。そうしてはじめて顧客のLTV(ライフタイムバリュー。生涯にわたってその顧客が貢献してくれる価値のこと)を高めることができます。
王様は「規模」で勝負します。しかし、奴隷である我々は、王様にはできない戦い方をする必要があります。それは例えば「人」を打ち出すことです。
例えば、私はアパレルショップの販売員だった時代に、新規事業としてECサイトを立ち上げたことがあります。当時、ZOZOTOWNがようやく認知されはじめたタイミングで、洋服をオンラインで買うことは一般的ではありませんでした。私の勤めていた会社でも、HPすらなく、オンライン販売など、誰も成功するとは思っていませんでした。
洋服は昔から「人」で売るものです。店頭ではお客様と仲良くなったスタッフが商品を提案する姿をよく見かけます。スタッフの人となりがわかり、友達関係のように感じられるからこそ購買につながることがよくあります。人柄が伝わると親近感が生まれて信頼につながりセールスが通りやすくなるのです。確かにオンライン販売とは反対のビジネスです。
そこで私はオンライン販売にも「人」を導入しました。ブログで販売員としての日常を面白おかしく書き連ね、見ているユーザーとの距離を縮める努力をしました。同時にブランドのファンに向けて専門的な情報をプロならではの視点で伝えます。
また、他社の通販サイトが動画を取り入れていない時代に、地方店ながらいち早く動画マーケティングを採用しました。スタッフが楽しそうに会話しながら画面の向こうにいるお客様に語りかけ、ときにはPVのように見栄えのいい動画を作って商品に付加価値をつけていったのです。
すると購買時の備考欄に「○○○さん大好きです!」「○△さんいつも見ています!」とスタッフに対してコメントがつくようになりました。そういった購入者には手書きでお礼メッセージを書いて商品に添えて発送することにしました。これはZOZOにはできないサービスです。こうした努力のかいあって、地方の遠隔地で、実際には会ったこともないスタッフ個人にファンがつくようになったのです。そして、在職中にECサイトを社内ベンチャーとして正式に立ち上げ、ゼロから年商3億円を達成することができました。
こうした成功体験は、すべて私が最初にロードマップを描いたことに基づいています。具体的なロードマップの描き方については、本書を参考にしていただけると幸いです。
―[メンズファッションバイヤーMB]―
【MB】
ファッションバイヤー。最新刊『ロードマップ』のほか、『MBの偏愛ブランド図鑑』『最速でおしゃれに見せる方法 』『最速でおしゃれに見せる方法』『幸服論――人生は服で簡単に変えられる』など関連書籍が累計200万部を突破。ブログ「Knower Mag現役メンズバイヤーが伝えるオシャレになる方法」、ユーチューブ「MBチャンネル」も話題に。年間の被服費は1000万円超! (Xアカウント:@MBKnowerMag)