
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。
そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!
第122回のテーマは、福西崇史の好きなスタジアムについて。現役時代や解説者として、全国津々浦々のスタジアムを巡ってきた中で、福西崇史が特別な思いを持っていたり、ワクワクするほど好きなスタジアムを紹介してもらった。
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■吹田は解説をしていてワクワクするスタジアム
――福西さんは現役時代も含め、全国さまざまなスタジアムを見てきたと思います。今回は、その中で解説者の福西さんが、個人的に好きなスタジアムについてお聞きしたいと思います。好きなスタジアムと聞いて、最初に思い浮かぶスタジアムはありますか?
福西 それはもちろん個人的に好きで特別な思い入れがあるのはジュビロ磐田のホームであるヤマハスタジアムですが、それ以外に真っ先に思い浮かぶのは、ガンバ大阪のホームスタジアム「パナソニック スタジアム 吹田」ですね。解説をしていて、サッカーの臨場感は伝わってほしいと思いながら話しているので、ピッチとスタンドの距離が近いサッカー専用スタジアムはやっぱり違いますよね。
――吹田は専用スタジアムの中でもとくにピッチと近いですよね。
福西 吹田は本当にピッチと近いですよね。それからなによりサポーターの声の圧力がすごい。スタンドが声を反響する構造になっているので、サポーターの声援がピッチを覆うように反響しますよね。G大阪サポーターの熱狂度もすごくて、解説席も一体になれるような感覚があります。
解説席もピッチを上から俯瞰(ふかん)するように見えるので非常に見やすいし、雰囲気はまるでヨーロッパので、総合的に非常に良いスタジアムだと思います。吹田での解説の仕事が決まると、解説という仕事としてもそうですが、純粋にサッカーを楽しむという意味でもワクワクします。
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■日本代表でもお馴染みの埼スタや日産に感じる別格感
――吹田の次に思い浮かぶスタジアムとしてはどこになりますか?
福西 浦和レッズのホームであり、日本代表戦でもお馴染みの「埼玉スタジアム2002」ですね。埼スタは何度もプレーさせてもらって、ピッチからの雰囲気も知っているし、全体を見通せる解説席からの見やすさ、浦和サポーターの圧倒的な熱量。それからこれは裏の事情にはなりますけど、解説ブースを出ると広場があって、他のブースの方々、関係者の方とも触れ合える場所があって好きですね。
――選手時代にピッチから見た埼スタの魅力はどんなところに感じました?
福西 2002年日韓W杯のベルギー戦、階段を上がって真っ青に染まったスタンドとサポーターの大声援、あれは忘れもしない記憶として残っていますし、浦和レッズとの対戦でサポーターからの威圧感は本物のアウェイの雰囲気を感じていました。そういうものを感じられるから埼スタは好きですね。
――専用スタジアムというところでは、吹田と埼スタの違いはどう感じますか?
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福西 声の反響という面では、吹田のほうが優れていると思いますが、埼スタの収容人数6万人以上という規模感はちょっと別格だと思います。とくに日本代表戦で満員の中でプレーをさせてもらったので、あの6万人に包まれる感覚は他では味わえないと思います。
ゴール裏の屋根が開いているので、吹田のように反響はしないんですが、あの圧倒的な人数の声援はそんなこと関係ないですね。ピッチの中も解説席もスタジアムが一体になれる埼スタの雰囲気が大好きです。
――日韓W杯はもちろんですが、これまで日本代表の試合を数多く行ってきた「日産スタジアム」はどうでしょう?
福西 トラックがあることでスタンドとピッチとの距離が非常に遠いというのは、誰しもが感じるところだと思います。解説をしていてもモニターがなければ選手の判別も難しいことが多々あるので、見やすさという面では厳しいところがあります。ただ、あの日産の迫力、重厚感は、なかなか他のスタジアムで感じられるものではないんですよね。
これは埼スタのときもそうですが、日本代表で満員の中でプレーさせてもらったことが大きいと思います。7万人規模を埋められる日本代表戦は、Jリーグの試合とは違った雰囲気があります。個人的に数々の代表戦をやってきた日産は、埼スタと並んで重厚感や特別な場所というイメージがどうしてもありますね。
■ヨーロッパの雰囲気を感じるコンパクトな専用スタジアム
――専用スタジアムでほかに好きなスタジアムはありますか?
福西 ジェフユナイテッド市原・千葉のホームの「フクダ電子アリーナ」は、キャパシティとしてはコンパクトではありますが、他にはないヨーロッパチックな雰囲気が好きですね。専用スタジアムなので当然見やすいですし、程よい距離感で声援もよく反響するし、あの規模感のスタジアムはもっと増えたら良いなと思います。
――ベガルタ仙台のホームの「ユアテックスタジアム仙台」も近いものを感じますが、どうでしょう?
福西 ユアスタも好きですね。それこそフクアリと同じくらい好きです。規模感からスタジアムの雰囲気も似ているところがあると思います。ユアスタのほうがピッチの位置が高く見えて、フクアリのほうがより上から見ている感覚があって、2つの違いはそのくらいですね。どちらも非常に良いスタジアムだと思います。
――ほかにも専用スタジアムではサンフレッチェ広島の「エディオンピースウイング広島」やV・ファーレン長崎の「ピーススタジアム」もあります。
福西 その2つはまだ解説で訪れたことがなく、これから非常に楽しみにしているスタジアムですね。
■旧国立に感じた"聖地"という唯一無二の特別感
――埼スタや日産のように特別感があるスタジアムは、その2つだけですか?
福西 特別感で言えば、もうないですが旧国立競技場は、その2つよりもさらに特別感のあるスタジアムでしたね。何度も試合をさせてもらいましたが、正直ロッカールームは古くて狭い。他のスタジアムであれば居心地の悪さをすごく感じたと思います。ウォーミングアップ場がないから外のタータンの狭いところで、一般の人が通れば普通に見えるような場所でやっていました。
それでも少しも不満に思ったことがなくて、むしろすごく"やってる感"というか、あの感じがよかったんですよね。聖地と言われるだけの歴史や雰囲気、子どもの頃からテレビで見ていた憧れなのか、それがなぜかはわからないんですが、埼スタや日産にも出せない特別な雰囲気がありました。
――旧国立はトラックがあるのに見づらさを感じませんでしたよね。
福西 あれは不思議ですよね。トラックがあると基本的にどのスタジアムでも見づらさを感じるんですが、旧国立だけはそれを感じなくて、スタンドの傾斜の作りなのか、むしろ見やすく感じていました。昔の建造物らしい扉や柱、装飾などもちょっと重厚感があって、現代のスタジアムにはないクラシックな雰囲気も好きでしたね。
埼スタや日産のようにスタンドに屋根がないんですが、満員のサポーターによる大歓声や熱狂は、国立でなければ感じられないものがありました。
――今は新国立となりましたが、あれは旧国立でなければ再現できないものなんでしょうね。
福西 そうですね。もちろん、埼スタや日産も素晴らしいスタジアムで、日本サッカーにとって特別な場所ですが、あの歴史も含めた"聖地・国立"のあの雰囲気は他ではもう味わえないのかもしれないですね。
構成/篠 幸彦 撮影/鈴木大喜