
大人気アクション『ベイビーわるきゅーれ』シリーズの生みの親・阪元裕吾監督が、石黒正数氏の同名コミックを映画化した『ネムルバカ』が、3月20日に公開となる。大学の女子寮で同居生活を送る後輩・入巣柚実と先輩・鯨井ルカの日常をユーモラスかつヴィヴィッドに描いた青春映画だ。後輩・入巣役と先輩・ルカ役でダブル主演を務めるのは、久保史緒里(乃木坂46)と平祐奈。初共演ながら、お互いを「しーちゃん」「たいちゃん」と呼ぶほどに関係を深めた2人が、その舞台裏を語ってくれた。
−お二人は今回が初共演だそうですが、お互いの印象はいかがでしたか。
久保 本読みの段階では不安が大きかったんです。でも、初対面にもかかわらず、現場でたいちゃんを一目見ただけで「先輩だ」と思えて。その瞬間に不安が吹き飛び、入巣として向き合うことが楽しくなりました。
平 それは私も同じ。2人で共同生活している役だから、クランクイン前は「仲良くしなきゃ」と、身構えていたんです。だけど、現場で想像以上に入巣を作り上げてきたしーちゃんを見たとき、「入巣だ!」と思えて。本読みで初めて会ったときは、「出身はどこですか?」、「宮城です………」…終了…みたいな感じで会話が続かず、「どうしよう?」と心配だったんだけど(笑)。
久保 気を遣って色々と話しかけてくれたのに、私が人見知りなせいで(笑)。
平 でも、女子寮のセットで一緒に過ごすうち、距離がだんだん縮まって。
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久保 すごく親しみやすい人だとわかったから、今では何でも話せるし、プライベートでも会うようになりました。
−そういうお二人の空気感が、劇中の入巣とルカの関係を魅力的にしていますね。ところで、熱中するものがなく、なんとなくアルバイト生活を送る入巣と、インディーズバンド“ピートモス”のギター・ボーカルとして音楽の夢を追うルカを演じるお2人の今までにない姿も新鮮な見どころですが、出演が決まったときのお気持ちはいかがでしたか。
久保 阪元監督の作品が大好きだったので、ご一緒できることがうれしかったです。しかも、原作を読み、これを阪元監督が映画化するのかと思ったら、さらにテンションが上がりました。その上、今まで経験のない役柄だったので、絶対に挑戦したいと。
平 私も、阪元監督とご一緒できることがうれしかったです。ギターや歌、金髪など、今までにないチャレンジもたくさんできる役でしたし。
−阪元監督といえば、『ベイビーわるきゅーれ』(略称『ベビわる』)シリーズが代表作ですが…。
久保 『ベビわる』は、アクションだけでなく、主人公のちさととまひろの2人が、どこにでもいるような女の子の会話をするところが、すごく魅力的なんです。洗濯機の前でしゃべったり、ご飯食べながしゃべったりする様子が、本当に何年も一緒に暮らしてきたように思えて。あの空気感は唯一無二です。
平 ちさととまひろって、本当の日常生活のように自然な言い回しでせりふをしゃべるんですよね。私も、そういうお芝居をしてみたくて。そうしたら、脚本も担当された阪元監督が、脚本作成の段階から一緒に読み合わせを行い、私たちが言いやすいようにせりふを書いてくださったんです。おかげで、会話がすごくリアルになって。現場でも、段取りを丁寧にやってくださったおかげで、安心して本番に臨めました。
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久保 阪元監督は、2人の関係性から生まれるものを大事にしてくださる印象で、現場で何げなく言った言葉を、「それいいですね」と拾ってくださるんです。それがすごく新鮮で。入巣とルカの居酒屋のやりとりなんて、ほとんど台本通りじゃない(笑)。メニューを見て、「なに頼みます?」から入って。
平 「なに頼んでもいいんだ?」と思って(笑)。しかも、それを長回しで撮っているから、なかなか「カット」がかからなくて。


−泥酔してルカにくだを巻く入巣がユーモラスでした。
久保 気が付いたらものすごく楽しくて、ハイになっていました。呂律が回っていないのに、言葉もスルスル出てきて。本読みのとき、監督から「酔うシーンをきちんとやりたい」と言われ、心配していたんですけど(笑)。
平 本当にお酒を飲んでいるのかと錯覚するほどで、「しーちゃん、すごく酔ってるな」と思っていた(笑)。
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久保 完成した映画を見たとき、自分でも「こんなに酔っていたんだ!?」と驚いたくらい(笑)。
平 ほっぺも赤くなって、すごくかわいかった。本当に入巣が酔ったら、こんな感じなんだろうなとリアルに感じられて。
久保 でも、現場では監督が一番楽しそうなんですよね。「カット!」の声が笑っていて、それを聞くたびに「監督のいいゾーンにはまったな」と思えて。おかげで私も楽しかったですし、自由度がすごく高かったので、「どれだけ監督を楽しませることができるか?」という気持ちで撮影期間を過ごしていました。
−平さんは、ライブシーンのご苦労もあったのではありませんか。
平 ギターや歌など、初挑戦が多く、その期間ががむしゃらすぎて、撮影の記憶がなくなるほどでした。だから、完成した映画を見たとき、他人事のように思えて。ルカとして生きた期間は、それくらい必死だったんだなと。おかげで自分のお芝居の引き出しもたくさん増えましたし、すごくいい経験になりました。
久保 現場で「この後、歌の練習がある」と言っているたいちゃんの姿が、そのまま音楽の夢に向かっていく先輩に重なり、すごく魅力的でした。ライブシーンもかっこよくて。おかげで、撮影が終わって1年くらい経つ今も、毎日(平が劇中で歌った)「ネムルバカ」を聴いているんです。曲もすてきですし、たいちゃんの声が大好きで。
平 うれしい…。ありがとう。
久保 あのライブシーンは、ぜひ劇場で味わってほしいです。
−さまざまなチャレンジを経て、俳優業に対する新たな意欲が生まれてきた部分はありますか。
久保 ありました。新しいことを始めるたいちゃんを間近で見ているのが、入巣の先輩に対する感覚にすごく近かったんです。撮影が終わった今もその気持ちが残っていて、自分ももっとチャレンジしなくちゃ、と。
平 阪元ワールドに見事にハマっているしーちゃんを見た時、ものすごく衝撃を受け、しーちゃんの役との向き合い方をリスペクトするようになりました。そういう意味では、阪元監督やしーちゃんとの出会いは、すごくいい刺激になりました。
−それでは最後に、お2人が感じた『ネムルバカ』という作品の魅力を教えてください。
平 何げない日常を描きながらも、すべての登場人物が、日々を過ごす中でとても大事なことを言っているんですよね。だから、胸に響く言葉がたくさんあって。私たちは「何かしなきゃ」、「好きなことをやらなきゃ」と思いがちだけど、「毎日生きているだけで偉いんだよ」とただ生きていることを肯定してくれるメッセージも込められている。そこがすごく魅力的な作品です。
久保 本当にその通り。音楽という夢を持つ先輩と違って、「自分は何がしたいんだろう?」と考えながら日々を過ごしているのが入巣です。そんな入巣は、先輩にとって本当に必要な存在なのか、すごく考えました。でも、先輩は「私はお前が大事だよ」と言ってくれる。その言葉に、入巣を演じた自分まで生きていることを肯定してもらえた気がしました。この映画をご覧になった皆さんにも、そういうメッセージが伝わったらうれしいです。
(取材・文・写真/井上健一)

映画『ネムルバカ』3月20日(木・祝)全国公開