
山中慎介インタビュー 中編
(前編:中谷潤人を「難攻不落」と絶賛 防衛戦でダウンを奪ったシーンも「普通の選手にはできません」>>)
2月24日に中谷潤人(M.T)がダビド・クエジャル(メキシコ)を下した試合後のリングに、同級のIBF王者・西田凌佑(六島)が登場。日本人王者4人がひしめくバンタム級で統一戦の機運が高まってきたが、中谷vs西田が実現すれば、サウスポー同士のハイレベルな攻防が予想される。
解説席で試合を見守った元WBC世界バンタム級王者・山中慎介氏は「西田はバンタム級で一番の強敵」と語る。その理由と、統一戦の先に噂されるモンスター・井上尚弥とのビッグマッチについて聞いた。
【中谷は6階級制覇もできる?】
――中谷選手は、バンタム級に上げてからの全4試合をKOで勝っています。
|
|
「階級を上げてさらにパンチが強くなりましたね。スーパーフライ級の時とはパンチを当てた時の音が違いますし、一発の重みが増しているのがわかります。練習でも、一発一発を丁寧に打っていますね。リストをしっかり返して拳をサンドバッグに当てている。強いパンチを打つのではなく、フォームを崩さず正確に打ち込んでいる印象です。それが試合でも生きて、どの角度からでも的確に拳を当てていますね」
――確かに、フォームを確認しながら膝を柔らかく使い、シャドーをしているシーンをよく見ますね。
「あれだけ柔軟に動けるのも強みですね。(動きが)硬いと耐久力も落ちると思うんですけど、中谷がパンチをもらって効かされたという場面はほとんど見たことがない。特にバンタム級に上げてからの4試合では皆無ですよね」
――圧倒的な勝利が続いていますね。
「中谷は今後も階級を上げるたびに、さらに力が出せるようになると思います。ひとつ上のスーパーバンタム級に上げたら、さらにフィットする可能性が高いでしょう」
|
|
――中谷選手がプロモート契約を結ぶトップランク社の副社長は、「6階級は制覇できる」と口にしていまいた。現在が3階級目ですから、スーパーフェザー級までということになります。山中さんはどう見ますか?
「現段階では減量もかなりきつそうですから、十分にあり得ると思います。まだ27歳で、これからさらに体も仕上がってくるでしょう。中谷は昔から、アメリカでは階級が上の選手とガンガンスパーリングをしていたと聞いています。そんななかでしっかり結果を残してきたわけですから、階級を上げても通用する強さは持っているでしょう」
【バンタム級で「一番の強敵」は?】
――クエジャル選手との試合後、IBF世界同級王者・西田凌佑選手がリングイン。統一戦が現実味を帯びてきました。
「正直、驚きましたね。ついに統一戦へと動き出したかと」
――山中さんから見て、西田選手はどんな選手ですか?
|
|
「テクニックがあって、やりづらい選手という印象です。もともとは遠い距離を得意としていましたが、最近は接近戦も見せています。ジャブの差し合いもうまい。中谷とだとサウスポー同士ですから、距離も近くなるでしょう。
今のバンタム級には、4人の日本人王者(WBC:中谷潤人、WBA:堤聖也、WBO:武居由樹、IBF:西田凌佑)がいますが、その中で一番やりづらく、一番の強敵と言えるんじゃないでしょうか」
――西田選手のプロ戦績は10戦10勝 (2KO)、一発で倒すというよりもテクニシャンタイプでしょうか?
「そうですね。アマチュア経験もあって、テクニシャンタイプではあります。ただ、前回の防衛戦(2024年12月15日のアヌチャイ・ドーンスア戦。7回 KOで勝利)では、スタイルチェンジしていました。自分から積極的に攻めて、左ボディでKO勝ち。これまでの距離を取る戦い方に加え、自分から中に入って左のショートを打つなど、引き出しが増えた印象です。
一発で倒すタイプではないからこそ、やりづらさがありますね。アヌチャイを倒した左ボディは、エマヌエル・ロドリゲス戦(2024年5月4日。判定3−0で西田の勝利)でもダウンを奪っていますから、倒すタイミングのうまさもあります」
――一部では今年の6月にも統一戦が行なわれるというニュースも出ていますが、実現したらどんな試合になりそうですか?
「どうなるんですかねぇ(笑)。お互い慎重に入ると思いますが、回を追うごとに中谷が攻撃的になって距離が詰まるでしょう。でも、西田も対応してパンチを返すはず。西田側の武市晃輔トレーナーは、かつては名城信男(元WBA世界スーパーフライ級王者)についていた経験もある優秀なトレーナーです。どんな作戦を練ってくるのかはわかりませんが、西田がそれを試合で実行できれば面白い試合になるでしょう。世間的には中谷のほうが評価は高いですが、決して楽な試合にはならないはずです」
【どの階級、タイミングでやるのかが重要】
――バンタム級の4人の日本人チャンピオンが、ついに動き出しましたね。
「中谷としたら、その先にある井上尚弥との戦いに向けて、強さを見せつけて勝ちたいところでしょう。一方の西田もチャンピオンとしての意地がありますし、自信もあるはず。今後のバンタム級戦線を占う、大きな一戦になりますね」
――中谷選手は、来年にも井上選手とのビッグマッチが実現の可能性があるとされています。
「中谷がひとつ上のスーパーバンタム級に上げれば、より持てる力を発揮できると思います。ただ、どのタイミングでやるのかというのも重要ですよね。スーパーバンタム級に上げていきなり井上とやるのではなく、1、2試合を挟んで適応したい気持ちはあると思います。ただ、井上側にその猶予があるかどうかはわかりません。
とにかく、戦うならお互いがちゃんと適応した状態で戦ってほしいですね。ファンとしても、そのほうがより楽しめる試合になるでしょうし」
――お互いに高いKO率を誇っていますが、パンチ力に違いはありますか?
「井上は瞬間的にパンチを出すスピード、瞬発力がすさまじいです。一方で中谷のパンチは、角度とタイミングが絶妙。どちらも強烈ですが、質は違いますね」
――井上選手は、一度フェザー級に上げて(WBA世界フェザー級王者ニック・ボールと対戦との報道もある)、またスーパーバンタム級に戻るという話も出ていますね。
「フェザー級に上げてすぐに王座挑戦するのも簡単ではありませんが、井上はそれをやってきた選手ですからね。とはいえ、一度フェザー級で体を作って、そこからまたスーパーバンタム級に戻すのは大変だと思います。それでも中谷と戦うために階級を下げるとなれば......それも熱い展開ですね」
――西田選手との統一戦や、井上選手とのビッグマッチなど、中谷選手は話題が絶えませんね。
「バンタム級の覇権を争う統一戦、そして "モンスター"との日本人頂上決戦。どちらの試合も、ボクシング史に残る名勝負になりそうです。とにかく楽しみです!」
(後編:判定が議論になった那須川天心の試合を分析 ターゲットとなる王者・堤聖也と比嘉大吾の激闘も語った>>)
【プロフィール】
■山中慎介(やまなか・しんすけ)
1982年滋賀県生まれ。元WBC世界バンタム級チャンピオンの辰吉丈一郎氏が巻いていたベルトに憧れ、南京都高校(現・京都廣学館高校)でボクシングを始める。専修大学卒業後、2006年プロデビュー。2010年第65代日本バンタム級、2011年第29代WBC世界バンタム級の王座を獲得。「神の左」と称されるフィニッシュブローの左ストレートを武器に、日本歴代2位の12度の防衛を果たし、2018年に引退。現在、ボクシング解説者、アスリートタレントとして各種メディアで活躍。プロ戦績:31戦27勝(19KO)2敗2分。