●世界一分かりやすい「イシューの要件」
イシュー思考は、何か問題を解決しようとする際に使う思考法の一つで、「イシュー」という概念を用いることが特徴です。
では、イシューとは何でしょうか。
ある大きな問題に直面した時、これをやれば問題が解決するだろうと思われる課題を設定して取り組んでいきますが、この課題の設定にはいくつかの切り口=アプローチが考えられます。そして、課題設定の切り口次第で、問題が解決するかどうかが左右されます。
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裏返せば、課題設定の切り口を誤ると、どんなに頑張っても問題は解決しません。
「問題の本質を捉え、その課題を解けば確実に問題を解決することができる」課題のことを「イシュー」と呼びます。
分かりやすい例を挙げてみましょう。
「今の収入では、生活が立ちゆかない」という問題を解決したいというケースで考えてみます。
(1)どうすれば宝くじで1等を当てられるか考える
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(2)どのカードローンでお金を借りるか考える
(3)いかにして収入を増やすか考える
上記3つのうち、どの課題に取り組むべきかは一目瞭然ですね。(1)は、当せんすれば問題は解決するかもしれませんが、当せんする確率はほぼゼロです。(2)は、お金を借りること自体は簡単にできますが、借金を抱えてしまうので、問題の本質的な解決にはなりません。(3)は、工夫は必要ですが不可能なことではなく、成功すれば問題を根本から解決できます。
従って、(3)こそが取り組むべき課題=イシューであって、(1)や(2)はどんなに頑張っても時間と労力の無駄と言えます。
イシューかどうかの見分け方は大変シンプルで、不可能ではなく工夫すれば解くことができて、かつ、解いた結果が必ず問題の本質的な解決につながることです。縮めると、イシューの要件は「解き得る」「解いた結果のインパクトが大きい課題」──となります。
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前述の(1)や(2)のように、そもそも解くことが不可能な課題や、解いたところで本質的な問題解決につながらない課題は、イシューではありません。
●イシューをより小さい課題に分解して体系化する
このように、その問題における「イシュー」(解くべき課題)を特定することが、イシュー思考の第一歩です。イシューを的確に特定できれば、無駄なことに時間や労力、資金などの資源を投入することを防げます。これが、イシュー思考が生産性をアップする理由の一つです。
イシューが特定できたら、次はそのイシューを解く作業です。
前述した例の(3)で「工夫をすれば」解けると書いたように、問題の本質であるイシューを解くことは、多くの場合、簡単ではありません。そこで編み出されたのが、イシューをより小さい課題に分解して体系化していく手法(=イシューアナリシス)です。
これによって、イシューを解くためのあらゆる可能性を追究しつつ、同時に、無駄に風呂敷を広げてしまって非効率になるのを避けることができます。
具体的には、イシューという一つの課題を解くために必要な複数の下層課題(=サブイシュー)を書き出すという作業をします。その際、イシューを解くために必要な課題が過不足なく書き出されている、すなわち、必要な課題は漏れなく書かれていると同時に、無駄な課題は書かれていないことが重要です。
つまり、関係のありそうな課題を機械的に羅列するのでなく、十分に吟味しながら書くという作業が必要になります。
●なぜ「イシュー思考」で生産性がアップするのか 2つの理由
イシューをサブイシューに分解できたら、同じやり方で、各サブイシューを解くために必要な最もシンプルな課題(サブサブイシュー)にまで展開します。すると、全体がイシューを頂点とする論理的なツリー構造に体系化されます。
完成した「イシューの体系図」は、問題解決の設計図として使っていきます。末端のサブサブイシューを全て解ければ自動的にサブイシューを解けます。全てのサブイシューが解決すれば、大元のイシューが解ける仕組みになっています。
つまり、イシューの体系図は、問題解決全体の論理構成が見渡せると同時に、問題を解くために必要な全ての作業項目が網羅されたマップとなっているので、これに従って問題解決を進めていけば、無駄なく効率的に目的を達成することができます。
さらに、可視化されたイシューの体系図は、チームメンバー間で共有することも容易です。課題の検討や作業を進めていく中で、どこか一カ所の仮説が検証されたとき、関連してどこを見直す必要があるのかが一目で分かるため、アップデートしていくことも容易にできて、個人の生産性だけでなく、チームの協働作業の効率を飛躍的に高めます。
これが、イシュー思考が生産性をアップするもう一つの理由です。
●イシュー思考を加速する「仮説思考」
まとめると、イシュー思考は以下の二つのフェーズで構成されています。
・問題解決に向けて本質的な課題を見極める「イシューの特定」
・特定されたイシューを実際に解いていくために分解して体系化する「イシューアナリシス」
どちらのフェーズにおいても、無駄な作業を避け、本当に必要な課題のみに取り組めることが最大のメリットです。従って、イシュー思考ができるようになると、知的生産性は何倍にもなります。
イシュー思考の生産性をさらに上げるよう寄与しているのが、「仮説思考」です。
イシュー思考の重要な特徴として、イシューの特定、イシューアナリシスのどちらのフェーズにおいても、仮説思考をツールとして駆使するという点があります。何をイシューとしたらよいか、あるいはどのようなサブイシューを置いたらよいか、一発で“正解”を見つけるのは容易ではありませんが、思い悩んでいては生産性が上がりません。
そこで思考停止にならないで済む方法が、仮説思考です。
仮説思考とは、その名の通り、まずは間違っていてもよいから仮説を立てて、それをたたき台として思考活動を前進させる思考法です。頭の中で逡巡(しゅんじゅん)しているのではなく、とりあえず言葉にしてみて、それを修正しながら正解に近づいていくのです。
この仮説思考をフルに活用してイシュー思考を進めることによって、仕事における知的生産性が極限まで高められるのです。
課題解決に悩んでいるのであれば、ぜひイシュー思考を学び、取り入れてみることをお勧めします。
(この記事は、和氣忠著、かんき出版の『イシュー思考』に掲載された内容に、かんき出版による加筆と、ITmedia ビジネスオンラインによる編集を加えて転載したものです)
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