今や6000個近く見つかっている太陽系外惑星。その中には、地球に比べてあまりにもハード過ぎる環境を持つ惑星が複数存在します。この記事では、前編に引き続き「鉄の雨が降る惑星」や「わたあめ並みに軽い惑星」など、極端な環境を持つ惑星を紹介します。
●昼夜の境目で鉄の雨が降る惑星「WASP-76b」
地球で降る雨や雪は水でできていますが、地球から約640光年離れた位置にある「WASP-76b」では奇妙な雨が降ります。WASP-76bは木星のような巨大ガス惑星で、恒星「WASP-76」のすぐ近くを公転しており、大気が高温に熱せられています。また恒星からの重力によって自転周期が公転周期と一致するように固定されているため、片面が永遠に昼、もう片面が永遠に夜の状態となっています。
片面が常に熱せられ続ける状況のため、気温は2400℃以上まで上がり、大気には鉄の蒸気が含まれていると考えられています。一方、夜側は“比較的涼しく”、気温は1400℃以下まで低下します。
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この激しい温度変化の結果、昼夜の境目で永遠の夕方を経験している「ターミネーターゾーン」では、蒸気が凝結し、赤熱した鉄の雨が降ることが予想されています。極端な高温にさらされた結果、鉄や岩石の雨が降っていることが予測されている惑星はいくつか見つかっていますが、WASP-76bは詳しい観測の結果、鉄の雨が降っていることにほぼ疑いがない状況となっています。
なおWASP-76bは、虹と似た大気現象である「光輪(グローリー)」が発生している様子が観測されたという主張があります。この主張が正しいかどうかは議論の余地がありますが、光輪の発生メカニズムには、大気中に含まれる水滴ならぬ“鉄滴”が関与している可能性があります。
●ほぼ全体が鉄の塊の高密度惑星「グリーゼ367b」
地球のような惑星は、表面付近は岩石、中心部は鉄を主体とする金属で構成されています。このような惑星を「岩石惑星」と呼びます。岩石と金属の割合は天体によってさまざまですが、例えば地球は質量の32%が金属でできているのに対し、水星は質量の75%が金属でできていると推定されています。
しかし、地球から31光年離れた位置にある「グリーゼ367b (固有名タハイ)」はもっと極端です。グリーゼ367bは直径と質量の両方が精度よく求められている惑星ですが、それによって計算された密度は10.2g/cm^3という非常に高い値でした。
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重力によって金属が押しつぶされていることも考慮すると、グリーゼ367bは質量の91%が鉄でできていると考えられます。これは太陽系外惑星の中でもトップクラスに高い値で、グリーゼ367bはもはや金属の塊といっていいほどです。
ではなぜこれほど極端な密度になったのでしょうか?最も単純な説明は、グリーゼ367bを形成した材料がもともと鉄が豊富であったという可能性です。
しかし別の説明として「グリーゼ367bは普通の岩石惑星として誕生した後、別の天体との衝突で表面が吹き飛ばされ、中心部の金属だけが残された」というシナリオも考えられます。このような巨大衝突によるものとする説は、水星でも唱えられています。
●“フワフワ過ぎる”軽い惑星「WASP-193b」
地球とは逆に、木星や土星は水素とヘリウムを主成分とし「巨大ガス惑星」と呼ばれます。水素もヘリウムも軽い元素であるため、平均密度は小さくなります。特に土星は平均密度が0.69g/cm^3しかないため「水に浮かぶ」と例えられることもあります。
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しかし、ここに太陽系の巨大ガス惑星にはない加熱というファクターを加えると、平均密度はさらに下がります。恒星にかなり近い公転軌道を持つ巨大ガス惑星は、恒星からの熱を大量に受け取るため、大気が加熱されて膨張するというシンプルな話です。
地球から約1200光年離れた位置にある「WASP-193b」は、その中でも最も極端な例です。24年に発見されたばかりのWASP-193bは、平均密度がたった0.059g/cm^3しかないと推定されています。これはわたあめの平均密度である0.05g/cm^3とほぼ同じであり、フワフワという形容詞がこれ以上なく当てはまるでしょう。
しかし「これはいくら何でもフワフワ過ぎる」というのが天文学者の頭を悩ませています。WASP-193bが受ける熱を元に計算すると、WASP-193bはそれほど膨張せず、平均密度は測定値の2倍以上ないと計算が合わないからです。大気を膨張させる力は熱であるため、熱源が他にあるはずです。
今のところ、大気にわずかに含まれる金属成分が、まるでIH調理機のような仕組みで熱を発生させる「オーム散逸」と呼ばれるプロセスが最も有望視されていますが、この説を唱えた研究者自身があまり自信をもって主張をしておらず、フワフワ過ぎる理由は現時点では謎とされています。
参考文献:David Ehrenreich, et al. “Nightside condensation of iron in an ultrahot giant exoplanet”. Nature, 2020; 580(7805)597-601. DOI: 10.1038/s41586-020-2107-1
O. D. S. Demangeon, et al. “Asymmetry in the atmosphere of the ultra-hot Jupiter WASP-76 b”. Astronomy & Astrophysics, 2024; 684(A27)35. DOI: 10.1051/0004-6361/202348270
Elisa Goffo, et al. “Company for the Ultra-high Density, Ultra-short Period Sub-Earth GJ 367 b: Discovery of Two Additional Low-mass Planets at 11.5 and 34 Days”. The Astrophysical Journal Letters, 2023; 955(1)L3. DOI: 10.3847/2041-8213/ace0c7
Khalid Barkaoui, et al. “An extended low-density atmosphere around the Jupiter-sized planet WASP-193 b”. Nature Astronomy, 2024; 8(7)909-919. DOI: 10.1038/s41550-024-02259-y
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