3月28日に最終回を迎えるNHK連続テレビ小説『おむすび』。橋本環奈(26)がヒロインを務める同作は放送開始当初から賛否が渦巻き、視聴率は右肩下がり。13週以降は週平均12%台と低迷し、歴代朝ドラで“ワースト”を更新するのではとも危ぶまれている。
『おむすび』は、平成元年生まれのギャル・米田結が栄養士となり、食の知識と“コミュ力”で現代人の問題を解決しながら、人々の縁をむすんでいくというオリジナル作品。1995年の阪神淡路大震災や2011年の東日本大震災、そしてコロナ禍という実際に起こった“災害”を軸に、平成から令和を描いている。
脚本は、ドラマ『ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜』(日本テレビ)や『パリピ孔明』(フジテレビ)、『正直不動産』(NHK)などを手がけた根本ノンジ氏が担当。放送前の期待値は高く、初回視聴率は16.8%。好評だった全朝ドラ『虎に翼』の初回16.4%を上回る健闘を見せていたのだが……。
いったいどのような点が視聴者の不興を買ったのだろうか? TVコラムニストの桧山珠美さんに、脚本上の問題点を分析してもらった。
■ヒロイン不在の2週間の方が物語を描けていた
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1点目は、ドラマ内での災害の描かれ方だ。3つの歴史的“災害”を描いた本作は多くの取材の上で作り上げられたという。しかし、「作品に落とし込めきれなかったのではないか」と桧山さんは指摘する。
「震災を描くというのが1つのテーマに据えられていたはずですが、結が震災をどう感じているかとか、どう向き合ったかという描写がなく、結がずっと“傍観者”だったことが気になりました」
作品の序盤、結の人格形成においても作品においても重要な意味を持つ“震災”のエピソードが描かれているが、そこから違和感は始まっているという。
「例えば、ドラマの序盤で結はギャルや習字など楽しいことを始めるときに『どうせみんななくなってしまうんだ』と話しています。常に“自分は何も楽しめない”という思いがあり、それは阪神淡路大震災を経験したことが原因だと明かされます。
5歳で阪神淡路大震災を経験した結は、震災についてのしっかりとした記憶はない。ただ、断片的な記憶の中で、避難所でおにぎりを持ってきてくれた近所の女性に『おばちゃん、これ冷たい。ねえ、チンして』と言ったことを深く後悔していることが明かされます。
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このエピソードから、『どうせみんななくなってしまう』と話すのが、友人を震災で失ったお姉ちゃんだったら理解できるのですが、当時地震の状況もよくわかっていなかったはずの結であるという点には違和感がありました」
加えて、東日本大震災の時の描写も気になったという。震災が発生する第72話の前日の第71話で結の妊娠が発覚。翌日の第72話では一気に時が進み、いつの間にか生まれた赤ちゃんを抱いた結が商店街の人々に祝福されているところに、東日本大震災のニュースが入るという怒涛の展開となっている。
「このとき結は産後間もないです。友人がボランティアに出かける一方で、結はボランティアに出かけられない。地震から1カ月後に、栄養専門学校時代の同級生で都内に勤務しているカスミン(平祐奈)が神戸の結の家に『どうしても、結ちゃんにお礼が言いたくて来たんよ』とやってくる。結がカスミンに避難所での経験を語ったことが、ボランティアに生かされたというのが感謝の理由でした。出産が悪いわけでは決してないけれど、もっと別の描き方があったのではないかと思いました」
被災経験を語る行為に意義はあるにせよ、本作で結は“何もしなくても感謝される存在”として描かれすぎており、そこに違和感を覚えた視聴者も少なくなかったのではないだろうか。
「落語の“三題噺”のように、3つの“震災”を入れただけで、深く掘り下げきれなかったような印象。毎回、月曜日に始まって金曜日にめでたしめでたしとパターン化されているんです。むしろヒロイン不在の2週間の方が、震災で亡くなった親友の父親役の緒方直人との対決など、お姉ちゃんを主体に“物語”が描けていました」
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■ヒロインの葛藤や成長が見られない
扱うテーマだけでなく、ヒロインの人物像も掘り下げられていないという。
「最初の震災のトラウマから始まり、栄養士の専門学校でも品切れだった小松菜の代用品としてスイスチャードを見つけてきて、急に“野菜のことならなんでも知っている”キャラに豹変。『うち農家の娘やもん』とセリフで説明したものの、どこか唐突。毎日ずっと見ていたはずなのに“もしかして昨日見なかったっけ?”っていうのを毎回視聴者に思わせる気持ち悪さがありました。
管理栄養士の勉強も、結は子供を抱いて参考書に付箋貼るだけなんですよ。その前の栄養士の資格試験のときも同じ。それで、“もうなりました”といきなり病院勤務の4年目で、ベテラン風吹かしてバインダーを持って歩いている。
朝ドラの視聴者には、ヒロインに感情移入して共感したい人が多いです。そのため、ここだったら普通の栄養士と管理栄養士の違いや、1年目の戸惑いなどが描かれることを期待したのですが……。全体的にヒロインの葛藤や成長を全然見せてくれないため全く共感できませんでした」
さらに、エピソードや設定に必然性が欠けていたり、逆に取って付けたような“ご都合主義”が悪目立ちするという。
「そもそものギャルの設定や、書道部にいた話は必要だったのでしょうか。コロナだってまず結が豹柄のマスクでもして”ギャル魂”で乗り切るとか、ギャルとしての何かをやればいいのに、ギャル要素がすっかりなくなっている。
この間なんて、お姉ちゃんがコロナでアパレルショップの経営が傾いたからネット販売に乗り出そうとしたとき、結がその1話前の中盤から急にパジャマみたいなグレーの地味な服を着ていたんですよ。今までそんなの一度も着たことないのに。
それで、リモートでお姉ちゃんが『結、何その格好?』みたいなことを言う。これまではそんなの着ていなかったんだけれど、『しょうがないよ、家と病院の往復なんだもん』とか言って(笑)。それを言わせたいがための服装なわけですよ。結局、ギャル要素がほとんど活かされずに消えてしまった印象です」
また、パターンが常に同じで既視感を抱かせる点も指摘する。
「お弁当の開発も、その前の阪神淡路大震災の記念のイベントの炊き出しのスープの話も、翔也の務める電気会社で炊飯器の食べ比べする話も、周囲の人々の知恵と協力で解決する。いつも同じパターンなんですよ。だから、視聴者としては“あれ?これって見たよね”ってなる。主人公は成長したはずなのに、また0から始まっている感じがするんです。
朝ドラってヒロインの成長を楽しむドラマでもあるじゃないですか。成長して、その上で新たにぶち当たった困難に立ち向かう。だから応援するんですが、そこが全く見れなかったのが残念でした」
残りあとわずかとなる『おむすび』の放送。視聴者の心に何が残るのか。最終回がその答えになることを願いたい。
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