『死んだ山田と教室』金子 玲介 講談社 BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2025」ノミネート全10作の紹介。今回取り上げるのは、金子玲介(かねこ・れいすけ)著『死んだ山田と教室』です。
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金子玲介氏のデビュー作で第65回メフィスト賞も受賞した『死んだ山田と教室』。物語は啓栄大学附属穂木高校二年E組の「山田」が夏休みの直前、飲酒運転の車に轢かれて死んでしまうところから始まります。勉強ができて、面白くて、誰にでも優しかった山田はクラスの人気者でした。夏休み明け、意気消沈する生徒たちを前に担任の花浦先生は席替えを提案します。そんなとき、教室のスピーカーから聞こえてきたのは、なんと山田の声。山田は身体の感覚は一切ないけれど、なぜだか声だけは出せるのだといいます。
「俺このクラス大好きで、二Eのみんなとずっと馬鹿やってたいなっていつも思ってるから、それでこうなったのかもしんないっす」(同書より)
こうして、スピーカーの山田と二Eの仲間たちとの不思議な日々が繰り広げられることとなったのです。
どう考えても現実にはありえないような設定ですが、意外とすんなり状況を受け入れる二Eの生徒たち。この超常現象が世間に知られて騒ぎにならないようにと、山田に話しかける際の合図として「おちんちん体操第二」という合言葉を決めます。毎回毎回、律儀に「おちんちん体操第二!」と声をかけてから会話を繰り広げる彼らの姿に腹筋崩壊。山田の死にしんみりしながらも笑いをこらえきれません。このわちゃわちゃ感とすがすがしいほどのおバカなノリ――これこそ同書が放つ大きな魅力のひとつです。新聞部の泉と倉持は「山田の死の真相を探る」と取材に走り、文化祭ではみんなで山田の格好をして接客する「山田カフェ」を開き、すでに死んでいる山田の誕生日を祝って盛り上がる......なんと素敵な青春の日々でしょうか。
そんな2学年が過ぎ、早くも修了式がやってきます。なんとなく最終回っぽい雰囲気を感じ取り、泣きながら「山田くん、天国でも元気でね」とスピーカーに声をかける生徒たち......。しかし、物語はまだ終わりません。なんと山田、残留します。二Eの生徒たちが三年に進級しても、そのままスピーカーから消えることができませんでした。
こうなってくると逆に「え、山田いつまで居続けるの?」です。クラスメイト達が進級しても、さらには卒業しても、意識はあるのに、声は出せるのに、教室のスピーカーから出られず永遠に年を取らない山田。いっぽう、社会に出て何年も経てば、元二Eの生徒たちにとって山田は学生時代の思い出として過去の存在になってしまうときがやってくる......。それは二Eが大好きで蘇った山田からすれば残酷極まりない状態ではないでしょうか。
物語終盤では山田の死についても詳しく明かされ、前半の輝かしい日々との対比に切なさがこみ上げます。他にはない独特の設定と、ところどころに謎を散りばめた展開で、ユーモアとともにダークさや不可思議さも秘めた同書。読んだあとは誰もが山田と二Eの生徒たち、そして自身の青春時代が愛おしくなってしまうことでしょう。
[文・鷺ノ宮やよい]
『死んだ山田と教室』
著者:金子 玲介
出版社:講談社
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