
昨年のペナントレースを圧倒的な強さで制しながらも、日本シリーズでは苦杯をなめた福岡ソフトバンクホークス。小久保裕紀監督の2年目となる今シーズンは、正捕手・甲斐拓也の移籍という大きな変化を迎え、チームの編成にも注目が集まっている。はたして、この穴を埋めるのは誰なのか? そして、充実の投手陣と強力打線を擁するホークスが、再び頂点を目指すために必要なカギとは? チームの現状と展望について、解説者の五十嵐亮太氏に話を聞いた。
【甲斐拓也の穴は誰が埋める?】
── 昨年のペナントレースでは圧倒的な強さを見せたものの、日本シリーズでは屈辱を味わった福岡ソフトバンクホークスについて伺います。小久保裕紀監督の2年目となる今シーズンの大きなトピックとしては正捕手・甲斐拓也捕手の読売ジャイアンツ移籍が挙げられます。この穴は誰が埋めると思いますか?
五十嵐 去年の成績で言うと、侍ジャパンメンバーでもある海野隆司の名前が真っ先に挙がります。本人としても「ここでレギュラーを取らなければ」という意識も強いはず。このチャンスをつかめるか、つかめないかというのは、これまで自分がやってきたことの答えでもあると思うんです。東海大からプロ入りして6年目、そろそろ結果がほしい時期ですよね。ただ、いくら強い気持ちがあったとしても、もちろん他のキャッチャーも同じ気持ちだから、いい意味での競争が、今年のホークス捕手陣には生まれるでしょうね。
── 昨シーズン、海野選手は51試合に出場しています。彼が侍ジャパンで不在の間、オープン戦では昨年ファームで57試合に出場した渡邉陸選手、昨年は一軍で4試合出場の谷川原健太選手が主にマスクをかぶっています。
五十嵐 海野の他にも有望な選手はいるけど、やっぱりキャッチャーは経験が大事なので、そう考えると海野が一歩リードしていますね。実際に代表にも選ばれていますから。ただ、海野一人に託すのか、それとも複数で併用していくのかはまだわかりません。小久保監督がどう感じているのか、何を考えているのか? やっぱりキャッチャーって「チームを勝たせる」という大きな役割があるし、自分のリードでピッチャーを引っ張っていかなければいけない。それにプラスしてバッティングがよければ、間違いなくずっと使われます。現状では、どのように起用していくのかはまだわからないですね。
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── 昨年は大関友久投手、スチュワートJr.投手とバッテリーを組むことが多かったですけど、今年はもちろん有原航平投手、上沢直之投手らエース格とも組むことになりそうです。投手との相性も考慮する必要があるかもしれないですね。
五十嵐 当然、ピッチャーとキャッチャーの相性もあるので、「合う、合わない」が出る可能性もあります。そうなればもちろん併用しながら起用していく可能性もありますよね。「絶対に海野で固定する」という現状ではないので、他の捕手とのバランスもとりながら、さらにピッチャーとの相性も見ながら、併用する形になるんじゃないのかと思います。キャッチャー起用に関しては、監督も当然、慎重になるでしょうね。
【質量ともに豊富な投手陣】
── では投手陣について伺います。石川柊太投手が千葉ロッテマリーンズへFA移籍した一方、アメリカ帰りの上沢直之投手や横浜DeNAベイスターズからは濱口遥大投手、上茶谷大河投手も加わりました。昨年、14勝で最多勝に輝いた有原航平、11勝のモイネロ両投手もいます。今年のホークス投手陣はどのようにご覧になっていますか?
五十嵐 毎年、そうですけれど、「層が厚い」というか、「質量ともにしっかりそろっているな」という印象ですね。去年の成績をふり返ってみると、14勝の有原、11勝のモイネロ、9勝のスチュワートJr.の3人が筆頭ですよね。そして4本目、5本目として大関友久(8勝)、大津亮介(7勝)ということになるのかな? そこに上沢も加わった。やはり、層は厚いですね。開幕前の時点ですでに枚数はそろっていますから。残り1枠をどう争うか、そういうレベルなんじゃないのかなと思いますね。
── 昨年の陣容に新たに加わった選手も含めて、開幕ローテーションについては高いレベルの争いとなりそうですね。
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五十嵐 キャンプで見た時は、首脳陣、報道陣も含めて上沢の評価はかなり高かったんですけど、オープン戦ではあまりピリッとしない内容もありました。今年の彼には、個人的に注目しています。昨年アメリカにわたって、思うようにいかない苦しい時間を過ごしました。そして日本に戻ってきたわけですけど、それは僕自身の境遇と重なる部分もあるんです。
── 五十嵐さんも、3年間のアメリカ生活では必ずしも思いどおりにいかない環境下で、いろいろなことを経験して日本球界に復帰しました。
五十嵐 彼の参考になるのなら、個人的にもアドバイスしたい思いです。ただ、間違いなく言えるのは、アメリカでの辛い経験は決して無駄じゃない。その体験をどうやって生かすか、それは考え方ひとつでプラスに変えることができます。そういう意味でも、今年の上沢には期待もしたいし、注目もしたいですね。
── 一方のブルペン陣はどうですか。
五十嵐 クローザーのオスナがいて、松本裕樹がいて、藤井皓哉がいる。去年はしっかりオスナが抑えとしてブルペン陣を支えることができていましたよね。彼が今年もしっかり投げられるのなら不安はないですよね。他にも津森宥紀とか杉山一樹もいますから。まあ、盤石ですね。
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【覚醒が期待できるリチャード】
── 一方の攻撃陣はどこがポイントとなるでしょうか?
五十嵐 去年は圧倒的な強さを誇っていたのに、日本シリーズでは敗れてしまった。この悔しさはすごく大きな力になると思います。もちろん、そのリベンジを果たすにはまずはシーズンを勝ち切らないといけないけれど、シーズン中もあえて短期決戦を勝つための用兵や作戦を意識しながら戦うんじゃないのかな? 投手陣は質量ともに揃っているから、攻撃陣がカギになってくるでしょうね。
── 具体的にはどんなところがカギとなりそうですか?
五十嵐 クリーンアップは固定されているので、ポイントとなるのは1番、2番じゃないですか。ここが固定できれば本当に強いと思います。僕としては、昨年も推したけど、やっぱり周東佑京を1番で起用したいですね。ピッチャーとしては、あの足は本当に厄介ですから。そして2番は今宮健太を基本線としながら、相手に合わせて変えていってもいいと思います。
── 「クリーンアップは固定されている」とのことですが、あらためて説明してください。
五十嵐 3番・柳田悠岐、4番・山川穂高、そして5番が近藤健介。この3人は盤石だし、さらに栗原陵矢も続きます。そして、「今年こそ」の思いで注目しているのが、プロ8年目を迎えたリチャード。首脳陣に話を聞くと「今年は違う」と言っていたので、「いよいよかな」と期待しています。
── なにしろ、ファームでは5年連続ホームラン王ですからね。リチャード選手をスタメン起用するとすれば、DHとなりますか?
五十嵐 山川がDHの時にはリチャードをファーストで使いたいところですね。新外国人のダウンズがセカンドで固定できるとすれば、僕が考える「2025年型ホークススタメン」はこんな感じかな?
1番 周東佑京(センター)
2番 今宮健太(ショート)
3番 柳田悠岐(レフト)
4番 山川穂高(ファースト)
5番 近藤健介(ライト)
6番 栗原陵矢(サード)
7番 リチャード(DH)
8番 ダウンズ(セカンド)
9番 海野隆司(キャッチャー)
一応、こんな打順を考えてみたけど、DHを上手に使えば、リチャードだけじゃなくて、正木智也や柳町達など次世代のレギュラー候補も育てながら経験を積ませることもできます。ホークスの場合、選手層が厚いから、いろいろなオプションが使えることが他球団にはない強み。今年もかなり強いと思いますね。
五十嵐亮太(いがらし・りょうた)/1979年5月28日、北海道生まれ。千葉・敬愛学園から97年ドラフト2位でヤクルトに入団。プロ2年目の99年にリリーフとして頭角を現し、一軍に定着。04年はクローザーとして37セーブを挙げ、最優秀救援投手賞のタイトルを獲得。09年オフにメジャー挑戦を表明し、メッツと契約。12年はブルージェイズ、ヤンキースでプレーし、13年にソフトバンクと契約し日本球界復帰。18年オフに戦力外となるも、ヤクルトと契約。19年は45試合に登板したが、20年10月に現役引退を表明。現在は解説者として活躍している。