HOPPY Supra GTの“秘密”はギヤボックスにあり。レーシングカーづくりの困りごとを解決するための新プロジェクト

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2025年03月26日 12:30  AUTOSPORT web

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2025スーパーGT岡山公式テスト HOPPY Schatz GR Supra GT
 2025年のスーパーGTは3月15〜16日に岡山国際サーキットで公式テストが行われ、本格的なシーズンがスタートした。また同時にほとんどのチームの陣容が明らかにされており、2025年も楽しみなシーズンとなりそうだが、メカニカルな部分での興味深いトピックスをご紹介しよう。HOPPY team TSUCHIYAが走らせるHOPPY Schatz GR Supra GTのリヤエンドに、今季は楽しみな秘密がある。


■海外製が独占するギヤボックス市場

 2023年の火災から復活を遂げ、2024年にシーズンを戦ってきたHOPPY Schatz GR Supra GT──通称『ホピ子II』。2月に富士スピードウェイで行われたGT300合同テストでは、そのリヤエンドに“秘密”があると土屋武士監督から語られていたが、岡山公式テストでその“秘密”がようやく語られるタイミングとなったことで、話を聞くことができた。

 今季、HOPPY Schatz GR Supra GTはフレーム、サスペンション、駆動系などリヤエンドが90%新設計となっている。2024年12月に行われた最終戦から急ピッチで作業が進められ、2月のテストに投入された。それは、新設計のギヤボックスを搭載するためだ。

 このギヤボックスは、つちやエンジニアリングで開発したものではなく、なんとトヨタ自動車との“共同プロジェクト”で開発されたレーシングカー用ギヤボックスだ。企業とともに進める開発業務委託らしく、写真撮影はまだ一切NGとなっている。

 2025年、HOPPY team TSUCHIYAはこの新しいギヤボックスをトヨタとともに開発を進めながらスーパーGTを戦っていくことになる。まだまだ開発が始まった段階であり「走るたびに何かが起きている」という状態ではあるが、松井孝允、佐藤公哉というふたりからのフィードバックもセッションを重ねるごとに向上している。

 このギヤボックスはいったいどんな狙いをもって投入されたのだろうか。これは、いまの日本のモータースポーツ界を取り巻く環境にも繋がっている。現在、スーパーGTで使用されているギヤボックスはGT3カー含めすべてが海外製である。HOPPY Schatz GR Supra GTも2024年までは海外製の6速シーケンシャルを使用していた。実質、レース産業が盛んなイギリスの寡占状態に近い。

「我々がこういうクルマを作るにあたって、ギヤボックスがなければ走らないですよね。しかし、ほとんどが海外製のもので、今は納期もかかりますし、為替の関係もあって高騰している状況です」と土屋監督は言う。

 HOPPY team TSUCHIYAのようにレーシングカーを作りたくても、納期を見通さなければならず、かつ価格も高い。アクシデントなどがあれば新しいものを導入しなければならず、実際にHOPPY team TSUCHIYAでは海外の中古のものを購入したり、火災から復活した2024年には、マザーシャシーのMC86から転用したものを使っていた。

 そこで「レーシングカーの幹となるパーツのなかで、そういった国産のものがあれば、よりサステナブルなレース業界にすることができますよね」というプロジェクトが立ち上げられた。「我々のような町工場で作っているプライベーターにとっては、こういったギヤボックスが生まれたら、メチャクチャありがたい」という存在であるHOPPY team TSUCHIYAに白羽の矢が立てられ、協業に至ったというわけだ。

「プロジェクトからお声がかかり、我々もぜひ一緒にやらせてほしいとお願いしました。このギヤボックスが生まれてくれれば、日本のレーシングカーのものづくり文化にも光がさすものになると思っています」と土屋監督は語った。


■『ホピ子II』がもらった初仕事と求められる結果

 このプロジェクトについて土屋監督は「トヨタさんから『もっといいクルマづくり』の仲間として、一緒にやりましょう』と声をかけてくださったことは本当に光栄なことですし、身が引き締まります」という。開発に向けてはトヨタ自動車が主体となっている。

 トヨタ自動車、そしてTOYOTA GAZOO Racingは『モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり』を進めているのはご存知のとおりだが、活動を進めていくにあたり、マスタードライバーであるモリゾウ=豊田章男会長の「モータースポーツ界の困りごとを解決したい」という思いがこれまでさまざまなアイデアを生んでいる。2024年には、スーパー耐久でロボットが製作するロールケージを投入し、コストダウンと納期短縮を実現するプロジェクトを発表しているが、このギヤボックスも開発に成功すれば、同様にプライベーターの助けになることは間違いないだろう。

 GT300というフィールドが選ばれたことも理由がきちんとある。「スーパーGTのタイヤはとんでもないグリップがあり、速いイコール負担が大きいということです。考えられない負荷がかかることがあります」と土屋監督は説明する。GT300の負荷に耐えることができれば、GT3以下のカテゴリーでも難なく使用することができるだろう。

「まだ予選も走っていないですし、これからどんどんトラブルが出てくると思います。でも、そこで鍛えていくということです」

 また、このプロジェクトはホピ子IIにとっての初めての『仕事』でもある。以前から土屋監督は、つちやエンジニアリングの「技術を買って欲しい」と訴えていたが、これはまさに土屋監督が願っていた開発業務委託だ。

「これまで多くの皆さんから支援とパワーと勇気を頂いたホピ子でスーパーGTに挑戦するというチャプターでしたが、これからホピ子は“仕事”も背負って走ることになります」と土屋監督。もちろん、このギヤボックスを信頼してもらい『開発に成功した』と言うためには結果が必要だ。

プライベーターにも扱いやすく、かつレーシングカーづくりをサステナブルにしていくための新ユニット開発という壮大な『仕事』とともにGT300を戦うことになったHOPPY Schatz GR Supra GT。2025年、その戦いをぜひご注目いただきたい。

[オートスポーツweb 2025年03月26日]

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