
セルジオ越後の「新・サッカー一蹴両断」(7)
開幕から大混戦の続くJリーグだが、今季からプレー強度の向上とアクチュアルプレーイングタイム(実際のプレー時間)の増加を目指して、ファウル(反則)の判定基準が事実上、引き上げられている。その効果を期待する一方で、接触プレーの判定をめぐって審判への批判が相次ぐなど、選手の安全面を危惧する声も聞かれる。ご意見番のセルジオ越後氏の見方は?
【Jリーグの目指すところは理解できるが...】
「判定基準は変わっていない。反則ではないものを取らなくなっただけ」
日本サッカー協会の審判委員会はそういう旨の説明をしているようだけど、試合を見ているファン、サポーターはどう感じるだろう。少なくとも、僕は違和感がある。
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Jリーグでは、今季からプレー強度の向上とアクチュアルプレーイングタイムの増加を目指すべく、ボール際で激しい接触プレーがあっても、ファウルでなければプレー続行を促す指針を示している。
ちょっとぶつかって倒れたくらいでファウルは取らない。ある程度の接触プレーを認めて、何度も試合が止まらないようにする。選手のレベルアップはもちろん、試合の魅力のアップにもつながるわけで、目指すところは理解できる。
ただ、実際の試合を見ていると、審判がその指針に影響を受けすぎているのか、明らかにファウルだというプレーも流していて、「おいおい」となることが多い。以前ならイエローカードが出ていたのではと思うような場面でも、笛は吹かれず、注意もされない。
どうしてそうなってしまうのかといえば、僕は審判のレベルの問題というよりも、日本人の国民性が大きいと思う。みんな真面目だからね。実際のプレー時間を長くしましょうという大きな目標を掲げたことで、審判の意識が「ファウルかどうか」よりも、「試合を止めちゃいけない」という部分に集中してしまっているんじゃないかな。そもそも審判はロボットじゃないし、仕方ない部分はあるよ。
とはいえ、それが選手たちのプレーにも見逃せない影響を与えていることは、ここで指摘しておきたい。
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具体的には、選手が「簡単にはファウルを取られないだろう」という意識になって、明らかにプレーが荒くなっている。ヘディングの競り合いでヒジが入ったり、球際で足を踏んだり、そういう危ないファウルが増えた印象だ。VAR(ビデオアシスタントレフェリー)が発動する機会の多いペナルティアエリア内では、相変わらず慎重にプレーしているけどね。
プロだから勝つために激しいプレーは必要。でも、相手にケガをさせるようなファウルは論外。プレー時間を長くしたいのはわかるけど、危ないファウルをさせないためにどうするのか、方針を決めて、あとは現場の審判まかせというのではなく、審判委員会もしくはJリーグとして、さらなるアナウンスをするなり、何らかの手を打つべきだろう。
ファウルでピッチに倒れ込む選手が増えれば、その治療のために試合が止まる時間が増える。本末転倒だ。何より大きなケガをする選手が増えるのではないかと心配だよ。
【選手の体の負担は以前よりもはるかに大きくなっている】
実際、すでに"被害者"は出ていて、サンフレッチェ広島のミヒャエル・スキッベ監督は第11節の名古屋グランパス戦後の会見で、自チームの選手が負傷退場したことについて、「確実にレッドカードを出さないといけないファウルを取らなかった(*審判はイエローカードを提示)」と審判を批判していた。
ただでさえ、今のサッカーはフィジカル重視。みんな体格がいいし、求められる運動量も多い。ひとりもサボることなく激しくプレスをかけ合い、ボールを奪ったらカウンター。5人交代制も後押しとなって、試合の最初から最後までペースを落とさずにそれを繰り返す。ほとんどのチームがそういうサッカー。Jリーグに限らず、世界的にそうだ。選手の体の負担は以前よりもはるかに大きくなっている。
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第11節のヴィッセル神戸とFC町田ゼルビアという昨季優勝争いを繰り広げた両チームの対戦も、そんな現代サッカーを象徴するような内容だった。神戸は大迫勇也、宮代大聖、町田はオ・セフンと、前線にヘディングとポストプレーの得意な選手を置いて、ボールを奪ったら手数をかけずにロングボールを放り込み、セカンドボールを狙う。とにかくフィジカル勝負で、相馬勇紀(町田)のような高いスキルを持ったドリブラーもすぐに囲まれ、潰され、持ち味を発揮できずにいた。
時代の流れだから仕方ないと言われればそれまでだけど、世界の名門、強豪といわれるチームを見れば、フィジカル一辺倒ではなく技術で違いを生み出せる、大きな仕事のできるスター選手がいる。そういう選手をJリーグから生み出すにはどうしたらいいのか。今回の判定基準問題がそれを考えるいいきっかけになるといいね。
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