サブウェイが人件費3割増でも“フルタイミー化”を進める理由。飲食店店長は「シフト作成が嫌い」だからこそ“大きなメリット”が

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2025年04月24日 09:30  日刊SPA!

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yu_photo - stock.adobe.com
 中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
 外食大手のワタミがスキマバイトサービスのタイミーとタッグを組み、サンドイッチチェーンのサブウェイをスキマバイトが担う“フルタイミー化”すると4月10日に発表しました。

 飲食店最大の課題である人材不足解消の画期的な一手。この提携内容をつぶさに観察すると、双方の思惑が色濃く浮かび上がってきます。

◆スキマバイトだけで店舗運営は可能?

 今回のニュースに、SNSではサービス力低下を懸念する声もありますが、フルタイミー化の対象となっているのは、ワタミ直営の「サブウェイ ヨコハマベイサイド本店」であり、サブウェイの大部分はフランチャイズ加盟店。従って、直営店以外にこの仕組みが波及するのはまだまだ先になるでしょう。今回はモデル店舗としての位置づけが強いものです。

 ただし、ワタミは2025年度に直営店とフランチャイズを合わせて35店舗、2035年度までには1065店舗に拡大する計画を立てています。2025年度は13店舗でスキマバイト運営を行う予定。ワタミは直営店での拡大力に優れており、運営が軌道に乗ればフルタイミー型の店舗は中期的に広がる可能性が高いと言えます。

 フルタイミー化というと、スキマバイトを複雑に組み合わせて店舗運営を行うイメージが先行してしまいますが、オペレーション負荷の高い業務を切り分けたというのが実情。

◆外注してスムーズに回るのであれば…

 今回の提携のポイントは、接客や調理などの技術習得を4時間程度かけて研修店舗で実施することであり、マニュアル作成などはタイミーが行います。そして店舗運営に必要な人材もタイミーが手配をするのです。

 ワタミの渡辺美樹会長兼社長は、タイミーを使った場合の人件費は手数料が上乗せされるために3割程度増えるとコメントしています。一方、採用と研修に必要なコストを鑑みると、全体では効率的な運営できるというのです。

 つまり、今回の提携は人材獲得と研修、必要な人員のシフト作成をタイミーに外注するのと同義だということになります。

 飲食店のアルバイト長や店長経験のある人は、スタッフの突然の離職や、予期しないシフト変更依頼で四苦八苦したことがあるかもしれません。外注してスムーズに回るのであれば、これほど楽なことはないのです。

◆急拡大するも、業績予想に届かず…

 タイミーは負荷の高い業務を進んで引き受けたことになるわけですが、背景には外食産業の需要回復が鈍化していることがあるでしょう。タイミーの2024年10月期の売上高は前期比66.5%増の268億円と急拡大しました。しかし、通期計画で掲げていた275億円には届かなかったのです。

 2024年10月期の売上は保守的な予想を出していたものの、飲食業界の流通総額はそれを下回る数字で推移。回復することなく着地してしまいました。

 タイミーが上場したのは2024年7月。初値は公開価格を28%上回る1850円の好スタートを切っていました。業績予想を下回ったことで、初っ端から冷や水を浴びせられる格好となったのです。

◆コアワーカーを中心に業務負荷低減を図ることは可能?

 しかも、2024年10月期からは小規模クライアントの増加によって、流通総額そのものが減少傾向にありました。ワタミのような大手企業と手を組み、店舗数の急拡大に合わせて流通総額の底上げを図る価値は十分にあるのです。

 タイミーは、月8回以上稼働するコアワーカーが、プールしている人材の中心になっているという、ビジネス上の追い風もあります。2019年10月期4Qのコアワーカーは33%でしたが、2024年10月期4Qは53%まで高まっているのです。

 つまり、サブウェイの店舗運営に必要な技術を習得させたコアワーカーを組み合わせることで、獲得・研修・シフト作成という業務負荷を低減できると読んでいるのでしょう。

◆フルタイミー化がもたらす“大きなメリット”とは

 飲食店のフルタイミー化が成功すれば、ワタミだけでなく数多ある飲食店にとって福音となるのは間違いありません。人材獲得と育成、シフトの作成業務に悩まされているからです。

 飲食店の店舗業務効率化サービスを提供するGoalsは、飲食店の店長にインターネット調査を行っています(「飲食店店長の意識調査」)。その中で、最も好きな業務は「メニュー開発」だった一方、「シフト作成」については、好きよりも嫌いと答える人が2倍程度います。

 店長が対応している業務(複数回答)においては、シフト作成、スタッフの教育、採用業務が8割近くに及んでいる一方、メニュー開発は3割にも届いていません。多くの店長はアルバイトの採用や教育、配置に気を取られており、やりたい仕事ができないのです。

 これは飲食店の利用側にとっても、デメリットでしかありません。提供される料理のクオリティが定まらない懸念があるためです。

 経済産業省によれば、全国の飲食店・飲食サービス業の事業所数は2021年の段階で55万。タイミーがスキマバイトによる店舗運営ノウハウを構築し、ワタミ以外の事業者にも提供できるようになれば、その先には巨大な市場が広がっています。タイミーとワタミの業務提携は、飲食業界の未来をも変える画期的な取り組みだと言えます。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界

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