「医療費が高額となった場合、年収に応じて自己負担の上限額を設け、超過した分が払い戻しされる高額療養費制度。その上限額を今年8月から段階的に引き上げる案が検討されていましたが、議論は二転三転し、最終的に見送りになりました」(医療ジャーナリスト)
“見送り”の背景には、がん患者や難病患者などからの反発の声があった。しかし、「高額療養費制度は重病患者ばかりでなく、国民の誰もが関係する制度」だというのは、医療ガバナンス研究所理事長で、内科医の上昌広さんだ。では、入院を伴う一般的な病気で、1入院あたりどのくらいの医療費がかかるのだろうか。
’24年に公開された厚生労働省の医療給付実態調査を基に、本誌が独自に試算してみると――。
まず、女性のがんでもっとも死亡者が多い大腸がんについて、常磐病院(福島県)の医師・尾崎章彦さんが解説する。
「症状に血便や便が細くなる、体重減少などがありますが、がん検診や健康診断で発見されることが多いです。手術に関しては、腹部に数カ所、小さな穴を開けるだけの腹腔鏡手術や、ロボット手術が一般的で、入院日数も短くなっています」
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1入院あたりの平均医療費は、結腸がんが20万3千989円(3割負担・以下同)、直腸がんが23万7千539円で、平均入院日数はともに11日だった。また、全国平均の差額ベッド代8千437円、病院食代(1食510円)を入院日数分加えると、結腸がんで31万3千626円、直腸がんでは34万7千176円に。
女性のがんでもっとも患者数が多い乳がんは、1入院あたり18万5千499円。
「ただし、乳がんの場合は最長で10年ほどの経過観察が必要です。女性ホルモンを抑制する治療(ホルモン剤)や抗がん剤治療も長期にわたることがあり、別途医療費がかかります」(尾崎さん)
がん、心疾患、脳疾患のいわゆる三大疾病は保険で備えている人も多い。だが、それ以外の病気やけがでも、入院となれば医療費の負担はけっして小さくない。
貧血で入院が必要となれば13万8千859円もの医療費がかかる。ベッド代、食事代を含めれば24万8千496円だ。
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「軽い鉄欠乏症は外来で対応できますが、高度な貧血では入院が必要となることがあります。その際、胃潰瘍や胃・大腸がん、大腸憩室、白血病ほか血液疾患などを疑い、CTや内視鏡検査を実施します。女性の場合、子宮筋腫により月経の出血が過多となり、ときに入院での輸血が必要になるケースもあります」(尾崎さん)
糖尿病も、通常は外来治療で対応するが、入院となれば、平均入院日数は16日、医療費は15万1千924円となる。
「糖尿病では、生活習慣を改善するための食事の見直しや栄養指導、また初めてインスリン注射を行う場合など、教育入院するケースがあります」(尾崎さん)
糖尿病性ケトアシドーシスといって、高血糖による意識障害が起きて救急搬送されるケースもあるという。
「その場合、高額なICU(集中治療室)に入ることもあります。ICUでの入院が7日以内の場合、3割負担で1日あたり4万円ほどの費用がかかります」(上さん)
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加齢によって罹患リスクが高まるのが白内障だ。
「目のレンズの役目を果たす水晶体が、加齢によって白く濁る病気。角膜を切開して水晶体を取り除き、人工のレンズに入れ替える手術を施します。15?30分ほどで終わり、日帰り手術をするクリニックも多いです」(尾崎さん)
入院の場合、期間は3日ほどで、治療費は8万8千401円。
「最近は高品質の眼内レンズが開発され、保険適用外のレンズもあり、高額化の傾向があります」(上さん)
動脈硬化も基本的に外来で対応する病気だが、下肢の血管が細くなり長い距離を歩くと足が痛む、足に潰瘍ができるなどの症状があれば入院となるケースも。
「血管の狭い部分にカテーテルでステントといわれる金属を埋め込んだり、人工血管で新たな血流路を作る手術を行います」(上さん)
動脈硬化の入院費用は27万2千643円と高額。平均入院日数は11日で、差額ベッド代、食費を含めると38万2千280円だった。
高齢者に多い肺炎の入院費用は16万4千816円。
「治療は安価な抗生剤ですが、2〜3泊集中治療室に入れば、高額になります」(上さん)
特に高齢者は誤嚥性肺炎に注意が必要。
「嚥下機能が衰え、知らず知らずのうちに細菌がたくさん含まれている唾液が肺に流れ込み、肺に炎症が起きてしまうのです。嚥下機能評価後、とろみをつけた食事などにより再発予防を行いますが、嚥下が困難と判断されると、胃ろうも難しく、寿命として看取りを提案されることも」(尾崎さん)
頬の骨の裏側にある空洞に膿がたまるのが、慢性副鼻腔炎。6日の入院で、医療費は21万9千286円だ。
「通常は内科治療ですが、手術による根治治療が必要なケースなど、入院となることも」(上さん)
ぜんそくでは1入院あたりの医療費が11万1千103円。
「重積発作が起きれば、呼吸困難となり、ときには死に至ることも。ネブライザーによる治療や、ひどい場合は気管挿管することも。集中治療が必要なケースもあります」(上さん)
加齢によって引き起こされる脊柱管狭窄症は、入院日数が16日と長く、費用も24万1千53円と高額だ。
「背骨の中にある脊柱管という神経が通っている管が狭くなり、神経を圧迫して痛みやしびれを起こします。症状が重い場合は入院し、狭くなった部分を広げる手術などで対応します」(尾崎さん)
背中や側腹部に差し込むような激しい痛みを起こす尿路結石は12万7千893円。
「重症例では結石を砕く治療を行います。外科的な操作をせず、超音波などを用いて体外から結石を砕く体外衝撃波腎臓尿管結石破砕術の場合は、3割負担で6万円ほど。さらに入院費と点滴等の費用がかかります」(上さん)
骨折は、ギプスをはめるような治療であれば外来で済むが、
「複雑骨折や重度の骨折の場合はプレートやワイヤなどを用いての手術が必要です」(上さん)
治療費は20万2千602円。入院期間が17日と長いのも特徴だ。
「コルセットを作製したり、リハビリにも日数を要するためでしょう。閉経後の女性は骨粗しょう症になりやすいので、骨折には要注意です」(尾崎さん)
いずれも高額療養費制度を利用すれば月々の自己負担の上限は8万円ほどだが、月をまたぐなど治療が長期化すれば家計へのダメージはそれだけ大きくなる。
健康に気をつけることは、もっとも有効な節約ともいえるのだ。
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