写真 2010年にTBSに入社し、『朝ズバッ!』『報道特集』などを担当したのち、2016年に退社したアンヌ遙香さん(39歳・以前は小林悠として活動)。
TBS退社から8年経った今年、紆余曲折を経て20年生活した東京を後にして活動拠点を故郷北海道に戻したアンヌさん。アラフォーにして再スタートを切った「出戻り先」でのシングルライフの様子や心境をつづる連載です。
第31回となる本記事では、アンヌさんが“どうしても手放せなかったモノ”について綴ります(以下、アンヌさんの寄稿)。
◆雪が溶け、久々にスニーカーを履いてみると……
ゴールデンウィークは皆さんどのように過ごされますか? 最近の風潮として、家でゆっくり過ごす分、室内の大整理や大掃除、物の手放しなどにあてる方も多いのでは?
私もその一人です。しかしここに来て、まったく使うことができなくなってしまうほど劣化しているのに、どうしても手放せないものが目の前に現れました。
北海道はもう山間部を除けば、やっと住宅街の雪が溶け、雪道用のブーツを履かなくて済む! という開放感がある本格的な春に。衣替えとともに、デイリーユースの靴も先日入れ替えました。
ゴールデンレトリバーの愛犬リリーのお散歩のときにずっと使っていたピンクのノーブランドのスニーカーを靴箱から引っ張り出し、ああやっと軽やかに歩けるわと再び着用しているわけですが、昨年は感じなかった違和感が……。
小雨の日、そのスニーカーを履いて出た際、一瞬にして靴の中がびしょびしょになったのです。こんなに水が入ってきやすい靴だっただろうか……とよくよく目を凝らしてみると、スニーカーのつま先部分の合皮がペロンとめくれて、完全に空気がスースーと入ってくるような状態になっていたのです!
もともと、まあまあボロボロの靴だったなぁと思っていましたが、こんなに劣化が進んでいたなんて……。犯人としては愛犬のゴールデンレトリバーにかじられてこうなったという考え方もできますが、この壊れ方は、経年劣化によるものである可能性が高いですね。
さすがにここまでの状態のものを履くこともできないので、もう捨ててしまおうかと思ったのですが……どうしても捨てられない。手放すことはできない。それはなぜか。
◆教習所の近くのリサイクルショップで慌てて買った運動靴
この靴を買ったのは確か、私が北海道内の自動車教習所に通い、普通自動車免許の取得をアラフォーにして挑戦しようと思い立ったときのこと(私と教習所についてはこの連載のバズった記事をお読みください)。
車にはまったく関心も知識もないまま、ただゴールデンレトリバーの愛犬のためには、車の免許が必要である! との使命感のもと教習所の門を叩いた私でしたが、忘れもしない、登校初日。その日からでも実際の運転練習ができる、と説明をされ、私は色めき立ちました。
当時、一日でも早く免許が欲しいと思っていた私は、座学を終えた後、当日のうちに実際の運転練習の申し込みをしたわけですが、その際の私の足元はスポーツサンダル。
「その靴じゃ運転できませんよ」と言われ私は慌てて、教習所の近くにたまたまあったリサイクルショップに駆け込んだのでした。
はやる気持ちで目の前にあったピンクの運動靴をさっと手にとり、そのまま教習所へとんぼ返り。あれはいくらだったのか……。990円だったか、1100円だったのか……。
慌てて買ったノーブランドのリサイクル品のスニーカーでしたが、おかげで初日から無事車に乗ることができ、ピンクシューズはその日から私の教習所靴となったのでした。
◆この靴は私の再出発をずっと近くで見守ってくれていた
運転については正直まったく向いていませんでしたが、この靴を履いてガンガン通い、仮免試験も一発合格、そして免許センターの試験でも一発合格。ヒヤヒヤしながらもなんとか喰らい付いていった感じ。
しかし、以前もこちらで書いたことがありましたが、とにかく私は心配性で小心者で運転が苦手。そして運動神経がない。そんな私にとって愛犬のために一念発起した普通免許取得というのは、北海道で迎えた新しい人生での一大イベントだったのでした。
その後もこの運動靴を履いて、雨の日も風の日も雪の日も愛犬とお散歩に出かけました。またあるときはこれを履いて小樽まで一人バースデーを楽しみに行きました。一人でお寿司食べたなあ。ぐすん。
はたまた数年ぶりに仏像にまつわる連載を始める記念すべきタイミングでも、この子を履いて札幌の大仏を拝観しに行ったことがあったなぁ……なんて。
この靴は、私の北海道での再出発をずっと近くで見守ってくれていた存在だったのです。
私がとにかくたくさん日々動き回った証とも言えるのかも。正直、水も漏れてきますし、多分履いているうちに、どんどんどんどんこの靴は壊れる一方だと予想されますので、実際に履くことは今後できないでしょう。
でも、この子は私の人生の記念碑の一部として、手放しをせず取っておこうと思います。
この靴そのものが私の挑戦の歴史を物語っている!
なんて感傷的になり、このたびこの靴は押し入れ行きとなりましたが、数年後、家族の誰かがこの靴を発見したら……あまりの汚さに絶句して自動的にゴミ箱行きでしょうね。
本人にしかわからない特別な価値がある思い出品なのでした。
<文/アンヌ遙香>
【アンヌ遙香】
元TBSアナウンサー(小林悠名義)1985年、北海道生まれ。お茶の水女子大学大学院修了。2010年、TBSに入社。情報番組『朝ズバッ!』、『報道特集』、『たまむすび』などを担当。2016年退社後、現在は故郷札幌を拠点に、MC、コメンテーター、モデルとして活動中。文筆業にも力を入れている。ポッドキャスト『アンヌ遙香の喫茶ナタリー』を配信中。Instagram: @aromatherapyanne