2025年F1第5戦サウジアラビアGP 角田裕毅(レッドブル) ジェッダ・コーニッシュ・サーキットを舞台に開催された2025年F1第5戦サウジアラビアGPは、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)が今季3勝目/キャリア通算5勝目を飾りました。
今回は、予選でポールポジションを獲得したマックス・フェルスタッペン(レッドブル)のQ3でのアタック、角田裕毅(レッドブル)の戦い、そして今回のレースの勝敗を分けたピアストリとフェルスタッペンのスタート直後の攻防について、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で綴ります。
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ピアストリが連勝を飾り、ポイントリーダーに浮上する結果となったサウジアラビアGPでしたが、フェルスタッペンも予選でポールポジションを獲得するなど、スピードを見せてくれました。
マシンのポテンシャル差を考えれば、依然としてマクラーレンに軍配があり、レッドブルが先行することは難しいだろうと予想していました。ただ、ストレートスピードの速いレッドブルにとって、ジェッダのコース特性は相性が悪くはないので、マクラーレンに次ぐポジションで予選を終える可能性はあるだろうとは思っていましたが、その期待を超えるポールポジション獲得には正直驚かされました。
少しピーキーな挙動を見せるレッドブルの2025年型マシン『RB21』にとって、中高速コーナーが連続するジェッダのセクター1は得意ではない区間に思われましたが、Q3のフェルスタッペンはRB21の限界を超えたドライビングで、セクター1でも全体ベストを記録しました。また、Q3では裕毅のトウ(スリップストリーム)を使うことができたことも大きかったと思います。
このトウの効果も含めた走りで、フェルスタッペンはセクター1で約0.1秒タイムを縮めました。その上で、Q3で2番手となったピアストリとのタイム差は0.01秒でしたので、Q3でのセクター1の走りが予選での勝敗を分けたと言えるでしょう。前回のコラムで『正しい戦略を導く強さと、チームを信じて戦うドライバーふたりの仕事ぶりがすべてポジティブに働けば、ジェッダでもクルマのポテンシャルを超える結果が得られるのではないかと思います』とお話ししましたが、まさにそのような展開となった予選でした。
■Q3で2セット使うために。角田裕毅に求められるQ1の1セット通過
そんな好アシストを見せた裕毅は、予選Q3を8番手で終えました。Q2で記録した自身のタイムにも届かず悔しい結果となったのは、予選が進むにつれて変化した路面コンディションに対応しきれなかったからでしょう。Q1で2セットのニュータイヤを投入したことにより、Q3に向けて裕毅はニュータイヤを1セットしか残していませんでしたので、路面コンディションの変化が一番大きいQ3で1アタックしかチャンスがありませんでした。
Q3でニュータイヤを2セット使えるよう、Q1を1セットのタイヤで乗り切れるかどうかが、今後の裕毅にとってのポイントなのではないかと感じますね。今のRB21はミスなく限界を引き出すことが難しいクルマです。Q3でランド・ノリス(マクラーレン)のクラッシュ伴う赤旗中断を挟み、セッション後半に再開されると、フェルスタッペンは早めにコースに入りし1分27秒559を記録しました。
これは、路面の変化の確認や高速コーナーに対し、目をならす意味合いで行う練習アタックでした。本アタックの前に、1回練習アタックができる状況をQ1の段階から準備しておき、Q3セッション終盤に2セット目のニュータイヤに履き替えたフェルスタッペンは、1分27秒294をマークしてポールポジションを手にしました。
当然、2度ニュータイヤでアタックするとなると、12分間のQ3では時間的余裕がなく、もし再度赤旗が入れば本アタック前にQ3が終了してしまうというリスクもありますが、フェルスタッペンとレッドブルは、このチャンスを最大限に活用したかたちです。裕毅にとって、RB21というクルマに慣れることが第一ですが、今後は予選でいかに戦略的に戦えるかも問われてきますね。
RB21に慣れ、Q1をニュータイヤ1セットで乗り切れるスピードを見せることができれば、Q2、Q3へ向けてはポジティブに戦いを進めることができるでしょう。今後の裕毅の予選の戦い方には注目したいと思います。
裕毅の決勝は、ピエール・ガスリー(アルピーヌ)との接触で早々にリタイアとなりました。もったいないとも感じましたが、あれは避けようのないアクシデントでした。ふたりとも悪い部分があったわけではなく、タイミングが悪かったという点に尽きます。ただ、まだシーズン序盤です。裕毅はクルマに慣れると同時に、チームに対しRB21に関するフィードバックを通じてクルマのポテンシャルを上げることも大切な仕事ですから、次戦マイアミGPに向けては気持ちも切り替えて臨んでほしいですね。
■ピアストリ対フェルスタッペン。スタート直後の攻防についての見解
さて、今回のサウジアラビアGPの決勝は、オープニングラップのターン1でのピアストリとフェルスタッペンの攻防が勝敗を決したかたちとなりました。ターン1での2台のサイド・バイ・サイドの末、ターン1〜2のシケインをショートカットしてコースに戻り、その後もピアストリの前をキープし続けたフェルスタッペンに対し、5秒のタイムペナルティが下りました。
今のスポーティングレギュレーションには、解釈の余地と言いますか、あえて表現すればグレーゾーンがあります。まず、ターン1は2台で並んで入っていけるコーナーではなく、どちらかのドライバーが完全に引かなければ(譲らなければ)、サイド・バイ・サイドからのオーバーテイクは成立しないコーナーです。
スタートで抜群の蹴り出しを見せたピアストリは、ターン1のエイペックス(頂点)を迎える以前からフェルスタッペンの前に出ていました。そこから2台並んでエイペックスを迎えるにあたり、それまで前にいたピアストリが譲る必要はありません(編注:エイペックス前からピアストリ車のフロントアスクルが、少なくともフェルスタッペン車のミラーと並んでいたため、最新版のドライビング・スタンダート・ガイドラインではピアストリが譲られるべき権利を有する、という判断になる)。
わずかに後ろに位置したフェルスタッペンはターン1のエイペックスに向けて、自分のクルマのノーズをピアストリよりも前に出すべく、あえてブレーキングを遅らせていました。これは『エイペックス時点で前に出ていた』と優先権を主張するためですが、あそこまでブレーキングを遅らせて、コース内に留まって無事にターン1〜2を曲がり切れたかは疑問ですし、フェルスタッペンがコース内に留まっていた場合、2台は間違いなく接触していたでしょう。
コース外に出たフェルスタッペン側は『ピアストリが押し出した』という主張でしたが、イン側のピアストリにしてみれば、あれ以上自分の走行ラインをイン側に取ることは困難だったと思いますし、ドライビング・スタンダート・ガイドラインでも譲られるべきなのはピアストリでした。
あのターン1のショートカットは、グレーゾーンを使ったオーバーテイクを仕掛けたフェルスタッペンの動きが起因したものであり、コース内に留まったピアストリが前に立つ権利があります。もし、フェルスタッペンのように『コース外に飛び出してでもオーバーテイクをする』ことが許されるのであれば、今後はレースが成立すること自体が難しくなりますから……今回の裁定はFIA国際自動車連盟が多角的に分析し、正しい判断をしたと感じています。これは2024年第19戦アメリカGPでの議論やドライビング・スタンダート・ガイドライン改訂が生きたケースかもしれませんね。
■苦戦続くハミルトンと今季初表彰台獲得ルクレールのドライビングの違い
サウジアラビアGPではシャルル・ルクレール(フェラーリ)が3位に入り、フェラーリが今季初表彰台を獲得しました。今回フェラーリは50周のうち、スタートから履いたミディアムタイヤで29周を走る戦略を採りましたが、ルクレールはミスなく100点満点の走りを見せたと感じます。
後半にハードタイヤに履き替えてから38周目にジョージ・ラッセル(メルセデス)をパスできたこと、そして猛追を見せたノリスから3位を死守できたのは、やはりレース前半にミディアムタイヤを保たせる徹したルクレールの仕事ぶりと、フェラーリ陣営の戦略が正しく機能したからでしょう。
フェラーリの2025年型マシン『SF-25』はまだピーキーさが残り、移籍1年目のルイス・ハミルトン(フェラーリ)は苦労しています。フェラーリ7年目のルクレールは、フェラーリの走らせ方をマスターしており、そこがふたりの成績の違いが出ていますね。
特徴的な点はスロットルとブレーキをうまくオーバーラップ(アクセルとブレーキを同時に踏むこと)させながら走ることです。ルクレールは、クルマがピーキーな挙動となる中高速コーナーや低速コーナーでスロットルを全閉にせず残したまま、トラクションをかけ続け、ピーキーな挙動を抑えるテクニックを見せています。ここがまだハミルトンが届いていない領域です。
ただ、2025年型マシン『SF-25』を見ると、昨年型以上にピーキーなマシン特性に見えます。昨年はピーキーながらも予選でニュータイヤを履いた際の最大グリップがピーキーさをカバーして、速いタイムを刻むことができていましたが、『SF-25』はニュータイヤのグリップでもカバーしきれないクルマになっています。
ベテランのハミルトンが苦戦から脱却するべく、フェラーリ側がマシンをハミルトン好みにアップデートするのか、それともハミルトン自身がドライビングスタイルを変えるのかは興味深いです。現時点でコンストラクターズ4位につけるフェラーリがレッドブルの背中に迫れるか、それとも5位ウイリアムズに接近を許すのかという点も、注目していきたいですね。
さて、次戦はスプリントも開催されるマイアミGPとなります。マイアミといえば、昨年ノリスがF1初優勝を飾った地でもありますね。低速コーナーが多いコースですので、メカニカルグリップがよく、回頭性がずば抜けて良いマクラーレンが引き続きリードする展開となるでしょう。
ただ、スプリント開催ということもあり、通常のレースウイークよりも持ち込みセットアップが重要になります。持ち込みセットアップをまとめ上げることができれば、中国GPのハミルトンのように、意外なチームやドライバーがマクラーレンを先行する展開もあり得ると考えています。
【プロフィール】中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS鈴鹿)のカートクラスとフォーミュラクラスにおいてエグゼクティブディレクターとして後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
・公式HP:https://www.c-shinji.com/
・公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24
[オートスポーツweb 2025年04月27日]