ユナイテッド・オートスポーツからWECのLMGT3クラスとELMSのLMP2プロ・アマクラスにダブル参戦している佐藤万璃音 モナコに生活拠点を置き、WEC世界耐久選手権ではユナイテッド・オートスポーツのマクラーレン720S GT3エボを、ELMSヨーロピアン・ル・マン・シリーズでは同チームのLMP2カー、オレカ07・ギブソンを駆る佐藤万璃音。WEC第2戦イモラ前に“マクラーレンのハイパーカークラス参戦”というビッグニュースが飛び込むなか、イタリアで行われた2025年シーズン第2ラウンドのレースウイークに佐藤を直撃。今後の展望について聞いた。
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――WECのパドックでは以前からマクラーレンのハイパーカークラスへの参入へのうさわが流れていましたが、佐藤選手には事前にマクラーレンから知らされていたのでしょうか?
佐藤万璃音「実は僕もマクラーレンのプレスリリースで知りました。以前からうさわの範囲で耳には入っていましたが、報道で知って『本当にやるのか』という感じでした」
――現在、ELMSではLMP2クラスに参戦をされていますね。これは将来的にハイパーカークラス参戦を見込んでのことなのでしょうか?
佐藤「スポーツカーのベースとしてのLMP2クラスへ参戦開始をした時からひとつの目標として、ハイパーカーをドライブするというのは僕のターゲットでもあります。それが最終目的ではありませんが、僕が次の目標としているステージです」
佐藤「僕まだスポーツカーの世界ではまだまだペーペーな状態で、今年はLMP2のプロ・アマクラスに参戦しており、タイトルを狙っています。その次の段階でハイパーカーがくると思っていますが、いつかはドライブするチャンスは欲しいなと思っています」
――2019年のシーズン途中から2022年まで約3シーズン半に渡ってFIA F2をドライブして、シングルシーターで活躍をしておられました。2020年にはアルファタウリからF1のテストを受け、あなたのフォーカスはF1ドライバーになることだったとは思いますが、将来的な活動のひとつとしてWEC/ル・マンのトップカテゴリも視野には入れておられたのでしょうか?
佐藤「シングルシーターをドライブしていた時には、僕自身の将来に対しては98%くらいの割合でF1しか見ていなかったのですが、『ル・マンやデイトナはいつか参戦してみたいな』と思っていました。もちろん、もしも出るのならばトップのカテゴリから参戦したいと願っていましたが、それに少し現実味が出てきたのは、スポーツカーの世界に来てからですね」
佐藤「ELMSは3シーズン目、WECは2年目のシーズンを迎えていますが、チームからの信頼を得られていると思いますので、チャンスは欲しいですね」
――今年はアストンマーティンが、そして今後にはフォード、ジェネシス、そしてマクラーレンが続々とハイパーカークラスに参入するということで、ますますWECやル・マンでのレースに賑わいが増しますね。今年もアストンマーティンが加わったことで、昨年よりもさらに華やかになったハイパーカークラスです。
佐藤「LMP1時代や僕自身が参戦を開始した昨年以前のWECやル・マンを知りませんが、いまの状況で見ると、どの自動車メーカーもハイパーカーにとても力を入れて活動を行い、注目度もかなり上がっていると思います。グリッドも大きくなってきましたので、今後がさらに楽しみですね」
――マクラーレンのハイパーカーデビューまでは、まだ少し時間がありますが、今後マクラーレンとはできればシートの交渉を希望していますか?
佐藤「はい、それを希望していますし、そのつもりでいますが、まだ具体的にはその話題は出ていません。やはりハイパーカークラスはプログラムが大きいだけに、マクラーレン側のひとり、ふたりと話してシートが決まるというワケではないと思いますが、その動向には気に留めたいと思います。しかし、僕にとって今一番大事なのは今年のシーズンですので、集中して頑張りたいと思います」
――WECのマクラーレンではプロドライバーとしてチームをリードする立場の佐藤選手ですが、実際にはマクラーレンとの契約上はどのような立場なのでしょうか?ファクトリードライバー、それとも契約ドライバーという立場なのでしょうか?
佐藤「僕はファクトリードライバーではなく、ユナイテッド・オートスポーツと契約してWECに参戦をしています」
――今季のあなたのチームメイトはチームWRTから移籍したショーン・ゲラエルとダレン・ラーンの二名ですね。
佐藤「昨年、彼らがBMWで参戦していたのをずっと見ていました。ユナイテッド・オートスポーツのマクラーレンをドライブしてもペースはありますし、ロングランのペースも非常に良く、彼らとの仕事には手応えを感じています」
佐藤「ショーン・ゲラエルとはアジアカート選手権から15年来の付き合いがありますので、僕が小学生の頃から家族ぐるみの付き合いがあるという旧知の関係というのは良いですね。F2に参戦していた時にも彼とは1年一緒のシーズンを戦っています」
――ハイパーカークラスに加え、GTクラスも2024年から一気に華やかになりましたね。
佐藤「さまざまなメーカーのGT3マシンが揃っていて、このLMGT3クラスも賑わっていると思います。現在、新モデルを開発中のために古いモデルと最新のモデルのメーカーとが混じっています。BoP(バランス・オブ・パフォーマンス=性能調整)もいろいろで、どこかのサーキットでどのメーカーが有利だとか多少はありますが、BoP自体はかなり良く機能していると思っていますし、レースはとてもエキサイティングだと感じています」
佐藤「とくにトップ6〜8台圏内というのはすごくタフなレースだと思います。WECは6時間レースでとても長いとあり、なかなかすべての場面をご覧になっている方は多くはないかと思いますが、パッと見たらギャップが大きく広がっていたりもするのですが、フォーカスして見たらとても面白いレースを展開していて、すごくコンペティティブなシリーズだと感じています」
――昨年ではハイパーカーとGT3マシンの抜き方、抜かれ方にかなり危ない場面もコースサイドから多々見掛けました。佐藤選手はGT3とLMP2の両方をドライブしていているだけに、WECでは抜かれる側としてのコツというか作法のようなものはよく理解されているのではないかとみています。
佐藤「ラップタイム的にハイパーカーは速いのですが、実際にブレーキングやコーナーリング中はハイパーカーが遅いところも結構あるので、抜かれる箇所によっては自分たちGT3側が大きくロスしてしまうというのもあり、どうしても譲れないコーナーというのもあります。ですので、そのあたりもうまくコントロールをしてかないといけないと思います」
佐藤「ただ、抜く方としての立場を考えると、抜くことで精一杯でとにかく早くGT3マシンをパスしたいのだと思います。僕はELMSではGT3マシンを抜いている側なので、その心理がよく理解できます」
――2年目となるWECの今シーズンの目標は?
佐藤「昨年ももちろん優勝争い、タイトル争いに絡みたいというのがあったのですが、終わってみれば現実的に1年目のシーズンでクルマの分からないところが多く、ル・マンまではほとんどパフォーマンスに集中したレースウイークを過ごすことができなかった、というのが現実でした」
佐藤「今年はクルマのリライアビリティの面でも去年と比べたらかなり進歩していて、パフォーマンスに焦点を当てた時間を断続的に過ごせていますので、2年目の今季はタイトルを狙っていきたいと思います」
[オートスポーツweb 2025年04月28日]