
【写真】透明感あふれる永野芽郁 撮り下ろしフォト(10枚)
■原作・東村アキコからの指名で主演「プレッシャーはずっと続いています」
東村の人気漫画『かくかくしかじか』(集英社刊)は、人気漫画家として数々のヒット作を世に送り出してきた東村が、学生時代に出会った絵の恩師である日高先生との壮絶な日々を面白可笑(おか)しく綴った自伝的作品。自らが映画脚本も務め、現場にも立ち会ったというほど、熱い思いが感じられる。
そんな作品で主人公・林明子を演じたのが永野だ。実写化の話があった際、東村が「永野芽郁さんなら」と指名したという。「東村先生の人生を描いた作品。しかもご本人が脚本も執筆して現場にもいらっしゃる。もし自分が、先生の過ごしてきた人生を壊してしまったらどうしようというプレッシャーは撮影前、撮影中、そして撮影が終わったあともずっと続いています」と胸の内を明かす。
一方で永野は「これほどヒントになるものがたくさんあるというのも、とてもありがたいこと」とある意味で開き直れた。「常に現場に先生がいてくださったので、動き方や話し方、人との掛け合いなど、いろいろとお聞きできることは大きな安心感でした。しかも先生はとても優しくて『大丈夫ですかね』と聞くと『芽郁ちゃん最高!』って言ってくれるんです。本当?と思いつつ、完成した映画をご覧になってくださったとき、とても満足していたとお聞きしたので、ホッとしました」。
原作を読んだ際、永野は「途中までは、本当によくある日常の風景のなか、面白いエピソードがたくさんあって、ただただ笑っていたんです。でもだんだんと心が引っ張られていきました。誰かとの出会いによって、ここまで人生が変わっていくことがあるんだなとか、大切な人への思いは、伝えたいと思ったときにちゃんと言わないといけないんだ……みたいなことを思ったら、自然と泣いていました。これ実話なんですよね。本当にすごいお話だなと思いました」と感銘を受けた。
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そんな笑えて感動する話の当事者を演じることになった永野。アドバイスをもらえる東村と同じく大きな助けになったのが、恩師・日高先生を演じた大泉洋だ。大泉とは映画『こんにちは、母さん』で父娘という関係性で共演した。永野は「普段はいつもの明るい大泉さんなのですが、ドライ(カメラなしのリハーサル)が始まるぐらいから、一気に日高先生になる。日高先生の心はめちゃくちゃまっすぐで優しいけれど、すごく厳しいという部分を圧倒的に表現してくださっていたので、私は大泉さんが作る空気に引っ張ってもらえました。とてもありがたかったです」と感謝を述べる。
永野の感想通り、作品は楽しくポップな場面がありつつ、グッと胸に迫るシーンもやってくる。特に永野が感情移入したのが、明子が、描きたいものが分からずに悩んでいる場面だ。
もともと芝居に関しては「あまり行き詰ってしまうことはないんです。常に現場には監督さんがいてくれるし、物語を生み出した脚本家さんもいます。プロデューサーさんや共演者の方など、味方はたくさんいるので」と語った永野。それでも連続テレビ小説『半分、青い。』(NHK総合)で主演を務めた際「10ヵ月以上撮影をしていたので、自分のなかで、自分なのか役なのか分からなくなってしまったんです。セリフをしゃべっている感情も分からないし、自分の感情が沸いてきている感じもない。涙を流しても誰の感情なのか分からなくなってしまって。頑張っているのに、その頑張りが伝わっているのかなとずっと不安のなかにいました。だからこそ、映画のなかの明子には感情移入しましたし、そのシーンを観てすごく泣いてしまったんです」と述べていた。
また本作は、コミカルな展開のなか心に刺さる言葉も不意にやってくる。特に大泉演じる日高先生が、何度となく喝を入れるために明子に発する「描け!」というセリフは強い印象を残す。永野自身「私は常に“終わらないものはない”という言葉を胸にやっています。とてもしんどくて、乗り越えられないかも……と思った時、『大丈夫。絶対時間は進むし、終わらないものはない』と言い聞かせることで、乗り越えてきた気がします」とこれまでを振り返った。
■「私は自分のことが好きなんです」
小学生の頃から子役として“演じる仕事”の現場にいた永野。俳優が“仕事だ”と強く実感したのは、2015年公開の映画『繕い断つ人』の現場。当時中学2年生だった永野は、主演の中谷美紀をはじめプロフェッショナルな俳優、スタッフたちが集まった現場で漂う雰囲気に圧倒されてしまったという。そのなかで永野は「気づいたら、なんとかして食らいつきたいという思いが心に宿っていました。それまでは、どこかで“習い事”のような感覚があった気がしたのですが、私がいまやっているのは“仕事”なんだと自覚したんです」と語る。
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永野は「あまり過去を振り返るタイプではないのですが……」と自身について述べると「でもたまにマイナス思考になってしまうことがあるんです。そのときは、自分を鼓舞するために『これだけ頑張ってきたんだから』と過去を振り返ることはあります。あとはたまにテレビで自分が出ているCMを見たり、ドラマの番宣などをしている場面が映ると『何かを発信できる人間になれているのかな』と思うこともあります」と現在の立場について、客観的な視点を持つこともあるという。
感情的になること、マイナスな気持ちになること、さらには本作のように大きなプレッシャーを抱えながら作品に挑むこと……決して平たんではないなか、永野は常に、自分自身を見失わず律しながら、それでも明るく楽しく道を歩んでいる。
永野は「私は自分のことが好きなんです」とキラキラした目で語ると「10代、自分でも本当に頑張ってきたと思っています。自分の頑張ってきたことを自分で認めてあげると、幸せな気持ちになれる。だからいま20代の自分も幸せだなと感じることができています。自分が幸せで楽しく過ごしていたら、私の周りの大切な人もみんな楽しく過ごせると思うんです。私が落ち込むと母親も落ち込むし、私が笑顔だと母親も笑顔で楽しんでくれる。自分の心に向き合って、自分を大切にすることで、自分のことが好きになれる。そうすれば、どんな時でも自分を見失わずにいられると思うんです」と述べていた。
こうした「自己肯定感」は「母親の育て方のおかげだと思う」と語った永野。「あまり干渉してくるタイプではないのですが、小学生の頃から仕事への向き合い方はすごく厳しかったんです。子どもなので弱音を吐くことも多々あったのですが、『あなたがやりたいと言っているからやっていることでしょ!』と言われるんです。人のせいにしない。自分で決めたことをやっているんだからと思えると、多くのことが肯定的に捉えられるんですよね」。
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映画『かくかくしかじか』は、5月16日より全国公開。