秩父の焼肉に舌鼓を打つ魔王さん―[振り返れば青学落研]―
YouTubeチャンネル登録者数180万人を突破した「バキ童チャンネル」。
唯一無二の企画とキャラクターを活かした動画が支持される一方で、中心メンバーのお笑いコンビ、春とヒコーキが出会った青山学院大学・落語研究会についてのエピソード動画も強い人気を集めている。
そんな「青学落研の話」を、チャンネル出演者であり、青学落研出身者であり、春とヒコーキの学生時代からの友人でもある芸人・町田が振り返る。
第8回は、町田の先輩でぐんぴぃの同期である浅田魔王(あさだまおう)さんに聞いた、思い出深い話。
◆浅田魔王とぐんぴぃの思い出深い夜
私がまだ青学落研に入る前の印象的だった出来事を、ぐんぴぃと同学年の青学落研のOBである浅田魔王さんに聞いてみました。
「ぐんぴぃと浅田魔王さんが笑いへの手応えを感じた大学1年生の夜」とのことです。
青学落研にはたんめんさん(第7回に登場)のほかにも、アダルト業界で働いていた青学落研のOBがいた。Sさんである。
Sさんは、頻繁に落研に顔を出すわけではなかったが、たまに現れては現役生たちに「AVのエキストラをやらない?」と誘ってくる先輩だった。
Sさんにはどことなくダークな雰囲気があり、だからだろうか、AVの撮影に実際に付いて行った後輩はいなかった。
落語会の打ち上げが終わった後に、OBとして顔を出していたSさんが「1年生の話、聞きてぇな。塚邸(づかてい)で『オールナイトエピソードトークの会』しようぜ」と言った。
◆“謎の場所”でおこなわれる“謎の会”
『塚邸』とはヅカさんという先輩が、東京郊外に所有していたマンションの一室で、いつも飲み会が終わった後にみんなでお邪魔して朝まで過ごすのが定番になっていた。
ヅカさんはもう何年大学に在籍しているのかも誰も知らないほど留年をくり返していて、私が入部した頃にもまだ普通にいた。ヅカさんは二部と呼ばれていた夜間部の学生だった。
二部は私が青学に通い始める数年前に募集停止になっていた。しかし、ヅカさんの度重なる留年により学部を廃止にできず、二部が少し延命したとまことしやかに囁かれていた。
見た目はコワモテだったけど、優しくてファッションや笑いのセンスも良くて、それなのに“女性に全くモテない”というカッコいい先輩だった。
ヅカさんは後輩たちからも好かれていたたし塚邸ではたくさんの思い出を作らせてもらったが、彼はある日突然「刀鍛冶になる」と言って私たちの前から姿を消した。
それからヅカさんがどうなったのか今に至るまで誰も知らないし、結局大学を卒業したのかも分からない。
Sさんとの話に戻りましょう。
ぐんぴぃが1年生のある日の飲み会終わりに塚邸で開催された、「オールナイトエピソードトークの会」とは何なのか。
◆オールナイトエピソードトークの会が開かれた理由
テーブルを囲んでジャンケンで負けた人がすべらない話風のエピソードトークを語る。これを朝まで。当然、何度目かで話すことがなくなる。
それでも絶対に何か話さなければならないルールで、頭をフル回転させて人生を振り返り、何でもいいからとにかくオチを付けて話す。なかなかハードである。
だが、この夜、ぐんぴぃと魔王さんはひたすらウケを取り続けたそうだ。
実はSさんが「オールナイトエピソードトークの会」を開いたのは、単なる思い付きではなかったという。
というのも、この年の1年生、つまりぐんぴぃの代は当初、近年で一番のハズレ年と見做されていた。
お前らは小さくまとまってるだのハメの外し方が甘いだのと言われて、頼みのぐんぴぃも入部当初は尖りが裏目に出てまだ実力を示せていなかった。
魔王さんとぐんぴぃが一緒に大喜利に出て、滑るのを恐れて何も回答できなかった時には、当時の会長から呼び出され、「お前らが面白いこと言うなんて誰も思ってねぇんだから黙るな!何でもいいからしゃべれ!」と説教されたりもしたらしい。
そういうことをSさんも聞かされていたのかもしれない。Sさんは一晩中、二人のトークに手を叩きながら大爆笑してくれた。
朝日が昇って会が幕を閉じる時、最後にSさんが上級生たちに向けて叱責するような口調で言った。
「お前ら。今年の1年、面白いじゃねぇか」
◆早朝のホームで交わした言葉
先輩たちは眠り、ぐんぴぃと魔王さんは始発で帰った。二人は早朝の駅のホームで、
「しゃべりで人を笑わせるって楽しいね」
「気持ち良かったね」
そう言い合ったあの朝の情景を、魔王さんは今でも鮮明に記憶しているという。
Sさんはその後、わりとすぐにアダルト業界を離れたらしい。
それからSさんがどうなったのかは知らないが、あの一夜が残した影響はとてつもなく大きかったと、魔王さんは語っていました。
―[振り返れば青学落研]―
【町田】
ぐんぴぃの友人。芸人としての活動もしている。@saisaisai4126