写真「投資のコツを知りたい」という軽い気持ちでSNS広告に興味を持ったことから、投資詐欺に遭ってしまった漫画家・イラストレーターのペぷりさん。その経験を『離婚準備金を投資詐欺で溶かした話』という漫画に描き、自身のInstagram(@pepuritan)で公開しています。
詐欺に遭った当初は、「情けない、恥ずかしい」という思いが強く、誰にも相談できなかったそうですが、「同じ思いをする人が1人でも減ってほしい」との思いから、漫画にすることにしたといいます。
本記事では1〜3話を紹介。記事後半からはペぷりさんに、投資を始めたきっかけや、詐欺グループを信用してしまった経緯などについて聞きました。
◆漫画を公開中に、進行中の詐欺の報告
――投資詐欺に対する注意喚起のために作品を描いたそうですが、公開してからはどんな反響がありましたか?
ペぷりさん(以下、ペぷり):「怖い」「気をつけようと思う」という声がとても多かったです。「未遂に近い段階までいったことがある」という声もあり、ゾッとしました。2024年から新NISAがスタートして、投資初心者の日本人がたくさん相場に参加するようになり、「詐欺師たちが虎視眈々と狙っているんだろうな」と恐怖を感じます。
読者の方から「身近な人が同じような状況になっている」というメッセージが届いたこともありました。「今まさに大金を投入しようとしているので、何としてでも止めたい」というお話でした。
そのときはまだ漫画を最後まで掲載していなかったのですが、その後の展開や詐欺師の手口などをお伝えしました。また、連絡をくださった方と一緒に、「このまま入金するとこんな結末になる可能性が高いので考え直してください!」と説得したりもしました。その結果、未遂で引き留めることができたので、「この漫画を描いて本当によかった」と感じました。
――ペぷりさんが投資に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか。
ペぷり:私は結婚していて2人の子どもがいるのですが、価値観の不一致から夫とは将来的に離婚を検討しています。ただ、そうなったときの子どもたちの教育費に不安があり、「親の都合で子どもの将来を狭めたくない」という思いがありました。
そこで5年ほど前から少しずつ貯金を始めたのですが、私の収入では本当に少額ずつしか貯めることができませんでした。「離婚をしたい」「子どもに迷惑をかけないくらい貯金しなければ」という気持ちが日に日に募り、とにかく喉から手が出るほどお金が欲しかったです。そして2024年から、わずかな貯金を元手に新NISAで投資信託へのつみたて投資と個別株投資を始めました。
◆「必ず上がる銘柄を教えます」きっかけはSNS広告
――投資詐欺に遭ったきっかけはSNS広告だったそうですが、興味を持ったのはなぜだったのでしょうか。
ペぷり:投資を始めた頃は見よう見まねで取引していたのですが、初心者なので損をしてばかりでした。SNS上で大きな利益を出している人を見るとすごく羨ましかったし、「投資のコツを教えてもらいたいな」と思っていました。そんなとき、無料で投資情報を教えてくれるという、LINEのSNS広告が目に入って、LINEグループに参加してしまったんです。「ちょっと怪しいかも」と半分警戒していたのですが、「投資の勉強になるかもしれない」という軽い気持ちでした。
――そのLINEグループの情報を信用するようになったのはなぜだったのですか?
ペぷり:情報を発信しているのは、グループ内で「先生」と呼ばれている人でした。先生の名前を検索してみると、投資の世界では非常に権威のある方だとわかって安心してしまいました。後からわかったことですが、「先生」は実在する権威ある人物の名前を勝手に名乗っていただけだったんです。何もかも偽りだとは夢にも思わず……。本当に考えが甘かったです。
「うまい話には裏がある」とわかっていたつもりで最初は疑っていたのですが、「こんなに著名な人が詐欺をしたら失うものが多いだろうし、心配はなさそう」と判断してしまいました。
さらに、先生が教えてくれた「次に上がる銘柄」を購入して、実際に利益が出たことが大きなきっかけでした。それまでは、グループに参加している人達が「先生の予想はすごい!」と崇拝しているのを「大袈裟に言ってるだけだろう」と一歩引いて見ていたのですが、「先生の予想は本当に当たるんだ!」と一気に信頼するようになってしまったんです。
◆信頼を築いてから落とす、巧妙な詐欺の手口
――実際に利益が出たら、嬉しくなって信用してしまいそうですね。
ペぷり:でも実は、それは詐欺グループが仕掛けた「仕手株(仕手筋と呼ばれる投機的な投資家グループが、大量の売買を繰り返すことで株価を意図的に乱高下させる銘柄のこと株式数の少ない小型株が対象になりやすい)」を悪用した投資詐欺の手口だったんです。
ある程度の投資の知識や経験がある方であれば、ファンダメンタルズ(投資対象の本質的な価値を判断するための、基礎的な経済データや情報)の裏付けがないのに、突然株価が上昇する低位株(株価が安い水準にある株式)は、「仕手株」だと判断して避けると思います。
でも投資を始めたばかりで、甘い蜜を吸ってしまった私は冷静な判断ができませんでした。先生の情報通りに株価が上昇するのを目の当たりにして、「実際にはこうやって、世のお金持ちはみんなインサイダー情報ありきで投資で稼いでいるのかもしれない」と思ってしまいました。そして先生やそのアシスタントたちに誘導されるままに、新NISAとは別の海外の証券会社で口座を開き、取引をするようになってしまいました。
――詐欺グループの手口は、どんなところが巧妙だと思いますか?
ペぷり:時間と手間をかけて寄り添い、少しずつ信頼関係を築いていくところです。当時、初心者だった私は、株価の値動きが怖くてたまらず、下落中は吐きそうになるくらい怯えていました。そんなときは、LINEグループで何度も不安をぶちまけたりしていたんです。LINEグループのメンバーは、そのたびに優しく対応してくれて、どんな些細な心配事にも丁寧に答えてくれていました。
しかし、LINEグループに参加して3ヶ月経った頃、「無料で提供できる情報は次が最後です」と告げられました。その頃にはすっかり先生の情報を頼りにしていたので、「選ばれた人だけが参加できる次のステップ」として、”永続的に銘柄情報を教えてもらえる有料版”に誘導されたとき「絶対に次のステップに進みたい」と思ってしまいました。しかし実際にはそんなものは存在しませんでした。私に大金を投入させるための「エサ」だったんです。
<取材・文/都田ミツコ 漫画/ぺぷり>
【都田ミツコ】
ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。