※写真はイメージです ここ数年、外国人観光客が非常に増えた。その影響は電車やバスなどの公共交通機関にも及んでいる。利用に関するマナーは日本と海外で異なる場合が多く、彼らに悪気はなくとも周囲が「迷惑」と感じてしまうケースが少なくない。
◆ドア付近を塞ぐ外国人観光客
鈴木舞香さん(仮名)がいつものように通勤電車に乗っていたときのことだ。車内は混み合っており、彼女はドア付近に立っていた。
2人の外国人観光客がドアの上に表示されている路線図を確認している様子だった。次の駅に到着し、ドアが開こうとした。しかし、思わぬ出来事が起こる。
「外国人観光客がそこで立ち止まって、何か話し込んでしまったんです」
2人とも大きなバックパックを背負っており、おもいっきりドアを塞ぐような形になっていたという。その駅で降りようとした日本人の乗客が、「すみません、降ります!」と声をかけた。だが、彼らには伝わらなかったようで、顔を見合わせて笑っているだけだった。
◆反対側のドアから降りるはめに…
痺れを切らした数名の乗客は、目の前のドアから降りるのを諦めた。そして、わざわざ向こう側のドアまで人混みをかきわけながら進み、ギリギリで降りていったのだ。
「本来であれば、目の前のドアからスムーズに降りられたはずなのに、余計な手間と時間がかかってしまったんです」
彼らは空気が読めないのだろうか……?
周囲の乗客も困惑した様子で、ただ見ていることしかできなかった。注意したくても言葉が通じない可能性もあり、不用意に声をかけて出勤前に面倒なトラブルになるのも避けたいという気持ちがあったのだろう。
鈴木さんは、毎日利用する電車でこのような状況に遭遇すると、少し残念な気持ちになるという。
「もしも『降りる人を優先してください』や『ドアの前には立たないでください』などと外国語で書いてあれば読んでいただけるのでしょうか?」
もちろん、文化や習慣の違いは理解できるが、日本においてはもう少し周りの状況を見て配慮してほしいと鈴木さんは感じたそうだ。
◆“自分の指定席”に外国人観光客がいて「あっち座ればいいじゃん」
毎朝、佐賀県から熊本県まで九州新幹線で通勤している田中健さん(仮名)は、朝6時台の「さくら」に乗車した。指定席を取っていたにもかかわらず、自分の席には、外国人観光客と思われる4人組が座っていたのだ。
田中さんは英語で「Excuse me, I think this is my seat」(すみません、そこは私の席ですよ)と伝えたが、男性は「It’s okay! Sit over there!」(別にいいじゃん。あっち座れば?)と笑いながら別の席を指差してきたという。
相手としては純粋に“空いているんだから一体何が悪いの?”というノリのようだった。しかし田中さんとしては、まったく自分に非はないのだから、席を探してウロウロするつもりなどない。
「No, I paid for this seat」(いや、この席にお金を払っているんで)とやや強めに言うと、渋々と立ち上がって移動してくれたが、あきらかに不満げな表情だったそうだ。
別の席に移った後も4人は英語と中国語で大声で会話を続け、キャリーケースを通路に置いたり、空のペットボトルを足元に転がしてきたりと、落ち着かない時間が続いた。
◆車掌の説明にも納得できない様子で…
そんな彼らにも試練が訪れる。次の停車駅で乗ってきたビジネスマンが「自分の席になぜか外国人観光客が座っている」と車掌に訴えたのだ。車掌が確認すると、案の定、自由席のチケットしか持っておらず、「指定席には追加料金が必要です」と告げられた。
「We didn’t know!」(知らなかった!)と驚いた様子だったが、説明を受けても納得できない様子でごねており、車内は緊迫した空気に包まれた。結局、荷物を持って自由席の車両へ移動させられたという。
彼らが去ったあと、車内はようやく静けさを取り戻した。近くのビジネスマンが「まあ、しゃあないな。文化が違う」とポツリ。田中さんも内心では仕方ないと思いつつも、日本ではせめて最低限のルールは守ってほしいと感じたそうだ。
オーバーツーリズムによって、こうしたトラブルはますます増えるかもしれない。日本の公共交通機関におけるマナーを、もっと外国人観光客に周知するべきだろう。
<取材・文/藤山ムツキ>
【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。コンビニへの買い出しから、芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』『10ドルの夜景』など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』シリーズほか多数。X(旧Twitter):@gold_gogogo