
(左から)小山薫堂、松本秀樹さん、宇賀なつみ
◆根津松本の「のり弁」に感動
根津松本は、日本を代表する一線級の魚だけを厳選した魚屋です。素材を見極め、最適な手当を施した、食卓を彩る極上の魚をお届けすることから、「日本一の魚屋」と称されています。
まず、松本さんはパーソナリティの2人に根津松本の「のり弁」を振る舞いました。小山は弁当を開き、「完璧なバランスですね。ちくわの磯辺揚げ、鮭の塩焼き、甘そうな卵焼きが2つ。そして銀ダラの西京漬けの唐揚げが入っていて、じゃこがあります」とレポートします。
宇賀も「海苔が見えないぐらい、ギッシリと詰まっていますね!」と声を弾ませます。海苔や米はもちろん、調味料や副菜までこだわり抜かれたのり弁に、ふたりは舌鼓を打ちます。
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◆根津松本ならではの鮮魚店のこだわりは?
松本さんは北海道で鮮魚店を営む家に生まれ、百貨店の高級鮮魚店を経て35歳で独立。東京の根津で「根津松本」を開業しました。「爺さんの代から魚屋はあったんですけど、手伝っていた父親が独立したんですね。ですので、全員魚屋なんですけど、(成り立ちが)全員別々です」と説明します。根津に店を構えたのは偶然だったそうで、「うちの家内が車で通ったときに“この道には龍が通っている”と言い出したんですよ」と告白。不思議なご縁を感じた松本さんは、そこで開業に至ったと語ります。
「開業するときに、他との違いを出すためにこだわったことはありますか?」という小山の質問に、松本さんは「すべて自分の手を通過したものを売りたいと思ったんです」と回答。干物やちりめんといった加工品は市場で仕入れることはできますが、「全部自分の責任のもとでやりたいと考えました」と力を込めます。
本来、一級の魚は高級すし店や料理店に直行するため、街の鮮魚店に卸されることはありません。そうした状況のなか、松本さんは目利きを磨き、交渉を続けた結果、独自の仕入れルートを手に入れたといいます。しかしながら、いい魚は原価も高く、当時はなかなか購入してもらえなかったと松本さんは明かします。「売れませんでしたが、そこで質を落としてしまうと自分のアイデンティティが成立しないので、我慢をしながら借金もして。そんなことをずっとやっていたら、何とかなってきたって感じです」と説明しました。
苦境に立たされていた根津松本でしたが、転機となったのは「プロフェッショナル 仕事の流儀」(NHK総合)の出演だったといいます。「“仕事とは”と問われると何と答えますか?」という小山の言葉に、松本さんは「愚直にやるしかないと思っています。いい魚を仕入れるだけでは売れない時代なので、それをどこまで磨き上げるかが僕の腕の見せどころなんだと思います。(大切なのは)やっぱり手を抜かないことですね」と思いを語りました。
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続けて松本さんは、魚にまつわる質問に答えました。「5月頃が食べごろな魚は?」という問いに対しては「初夏はけっこう少ないんですけども、これからおいしくなっていくのはアジです。マグロは本来だとこれから(味が)下がってくるんですけど、佐渡あたりの小さなマグロは面白いと思います」と語ります。
また、「スーパーの魚の見極め方」について尋ねられると、「僕は基本的にスーパーで買わないんですけど、買うとしたら処理したものを買います。あとは、魚の形です。顔が小さめで胴体が太いものは一般的においしいです」とアドバイスしました。
話題が魚の調理方法に移ると、宇賀は「食べるのは好きですけど、だいたいは捌いたものを買います。ほとんどが切り身ですね」とコメント。それに対し、松本さんは「やってくれる人がいるので、魚屋にやらせていいと思いますよ」とフォローしました。

根津松本の「のり弁」
◆苦しい時代を乗り越えた自分に手紙でメッセージ
当番組では、ゲストが思いを伝えたい人に向けて“手紙”を読むコーナーがあります。松本さんは“自分自身”に向けてメッセージを伝えました。
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もう1人の僕へ。30年前、北海道から上京した頃、僕たちはまだ1つだったね。貪欲になんでも吸収してやろうとがむしゃらだった修行時代。仕事を覚えるにつれ、もっといい魚を、もっと丁寧に、もっと美しく、もっとおいしくお客様にお届けする、芸術のような魚屋を作り、自分のお店を構えました。
だけど、そこら辺かな。君を責める“もう1人の僕”が生まれたのは。僕は騎手になった気分で、遮眼帯を付けた君にまたがり、「このレースに負けたらあとがない」と、競走馬のごとく全力で走らせたね。
開店当時、いいものを仕入れたくても、仲卸からまったく相手にされないところから始まりました。ようやくいい魚が買えるようになり、満足のいく仕事ができるようになっても、今後は思うように売れず苦しい状態が続きました。あのとき、売れなくても、借金をしながらでも一級の魚を仕入れ続けたのは、意地と根性だけでなく、この道の成功こそが僕と君の存在を認めることができる唯一の道なんだと、僕が君に訴え続けたからだろうね。
あの頃、君はいつも体力の限界まで働き、すり減り、疲れ切っていたけど、僕もそんな君の傍らで、とてもつらかったんだ。成功なくては自分の居場所をねじ込むことなんてできないと、本気で思っていたからね。
君は、僕さえ味方になってもらえないからか、風が吹けば転げ落ちるような崖っぷちで1人奮闘し、やっとの思いで店を軌道に乗せることができた。そして、やっと気づいたんだ。遮眼帯が付いていたのは、僕のほうだと。
たくさんの応援してくださるお客様、ハイペースで走る僕のうしろをピッタリと付いてきてくれる従業員たち。そして、とびきりの魚を用意してくれている仲卸のみなさん。さらに言えば自然の恩恵。そのすべてに支えられ、生かしてもらっていること。
肩の力が抜け、視野が広がり、心から湧き上がる本当の感謝の気持ちを、君に何十年も遅れて今頃感じられております。まだまだ勉強することがあり、もっとお客様に喜んでいただけるようになりたいと思う気持ちは変わりません。だけど、これから僕らは1つになって、自分を広い場所に解き放ち、ドキドキワクワクするほうへ進んでいこう。
最後に。君ががむしゃらに頑張って作り上げてくれた根津松本は僕の人生の誇りであり、宝物です。心からお疲れ様。心からありがとう。
根津松本店主 松本秀樹
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宇賀の「松本さんの夢は何ですか?」との言葉に、松本さんは「お客様に迷惑をかけないで仕事をしたいです。社員たちもみんな立派になってくれたら嬉しいですね」とコメントしました。
<番組概要>
番組名:日本郵便 SUNDAY'S POST
放送日時:毎週日曜 15:00〜15:50
パーソナリティ:小山薫堂、宇賀なつみ
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/post/
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