
プレミアリーグはいよいよ大詰めを迎えた。
三笘薫を擁するブライトンは、カンファレンスリーグ出場権獲得の可能性をわずかに残している。ただ、あくまでも37節のリバプール戦(ホーム)、最終節のトッテナム・ホットスパー戦(アウェー)に勝たなければならない。引き分け以下では多くのサポーターが落胆する。
シーズン前は「三強(リバプール、アーセナル、マンチェスター・シティ)の一角を崩す」と期待されていた。昨年夏の移籍市場には1億9000万ポンド(約342億円)もの巨額を投入した。
しかし、三強には大きな後れをとり、342億円の補強も即効性はなかった。及第点とは表現できない。
36節終了時点で、三笘は34試合出場・9得点・3アシスト。得点はリーグ全体で24位タイ、アシストは87位タイ。データに現れない貢献もあるため、数字だけで今シーズンを測るのは危険だが、ベストコンディションを維持する期間が短かった。背中や足首の痛みが、三笘の行く手を阻んだ。
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それでも、彼の評価は低下していない。
まもなく開幕する夏の移籍市場では、少なからぬ話題を集めそうだ。財力でヨーロッパの列強を上まわるサウジアラビアのアル・ナスルが冬に続き、再び150億円ものオファーを届けるとの噂が浮上している。
「レベルの高いリーグでプレーしたい」
三笘の主張は終始一貫している。プレミアリーグ→サウジアラビアのルートは「1ミリ」も考えていない。30代に入り、引退前に最後の荒稼ぎをするなら中東も考慮するが、三笘はまだ27歳だ。心身ともに成熟期を迎えようとしている。
仮にブライトンを離れるのなら、選択肢はプレミアリーグがベストだ。そしてブライトンでは叶わなかったチャンピオンズリーグ(CL)の舞台を、条件のひとつに加えたいところ。
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来シーズンのCLには、プレミアリーグから6チームが参戦する。36節終了時点でリバプールが決定、アーセナル、マンチェスター・C、ニューカッスルも出場権を獲得する公算が大きい。
また、ヨーロッパリーグの勝者となるマンチェスター・ユナイテッド、もしくはスパーズも資格を得て、もう1チームはチェルシーかノッティンガム・フォレストか、それともアストン・ヴィラなのか。
【三笘を獲得したいビッグクラブは?】
この9チームのなかで中規模程度の改革を予定しているのは、リバプール、マンチェスター・U、チェルシー、スパーズだ。
リバプールは決定機に力が入りすぎるダルウィン・ヌニェス、持続性に欠けるルイス・ディアス、負傷を繰り返すディオゴ・ジョタに見切りをつけ、2、3人の新戦力を加える予定だ。「三笘は有力候補」と報じるメディアもある。
しかし、アルネ・スロット監督のお気に入りは26歳のジャスティン・クライファートだという。ボーンマスではトップ下で異彩を放ち、ミドルシュートの精度はプレミアリーグ随一とさえ言われるオランダ代表を、左ウイングに据える方針のようだ。スロット監督の周辺から、三笘の名前は聞こえてこない。
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また、マンチェスター・Uが抱える喫緊の課題は、GK、中盤センター、右ウイングバック。いずれも人材難だけに、三笘にまで手を伸ばす余裕があるかどうか。
そしてチェルシーは、何かと面倒臭い雰囲気。共同オーナーのトッド・ベーリーとベハダ・エグバリが権力をめぐって対立しており、三笘にとって風向きはよろしくなさそうだ。
ジェイドン・サンチョとミハイロ・ムドリクは、ともにエンツォ・マレスカ監督の期待を裏切った。コール・パーマーやエンソ・フェルナンデスと三苫の競演は魅力的だが、今夏の補強ポイントはGKとセンターバック。今のところ三笘はリストアップされていない。
では、残るスパーズはどうか。
CL出場権の有無にかかわらず、スパーズは監督が九分九厘交代する。数多くの主力が負傷したこともあって成績が低迷し、メディカルスタッフとも意見が衝突した。アンジェ・ポステコグルー監督に逃げ場はない。
スパーズのドン・レヴィ会長は財布の紐が固い。肯定的に表現すれば堅実、悪く言えばドケチ。監督交代に伴う違約金の支払いを拒むことも考えられる。
しかし、『BBC』(英国公共放送)は「シーズン終了後、監督を含めたコーチングスタッフ、メディカルスタッフは一掃。取締役会の顔ぶれも大きく変わる」と報じていた。確かな情報を得たあと、より精度の高い裏を取るメディアのニュースだけに、スパーズが大刷新を図る可能性は特大といって差し支えない。
【三笘が決断する時は迫っている】
トッテナム内部では今、取締役会に名を連ねる予定のヴィナイ・ヴェンカテシャム(元アーセナルCEO)がロベルト・デ・ゼルビ(現マルセイユ監督)の招聘に熱心だという。この指揮官はブライトンを率いていた当時、三笘のセンスを高く評価していた事実にも興味が湧いてくる。
さらに、ソン・フンミンが衰えを隠せない。
昨シーズンまで8年連続ふたケタを記録した得点力が、今シーズンは36節終了時点で7ゴール。大腿部の故障や体調不良も災いし、28試合出場で途中交代が11試合、20人の登録リストから漏れた試合は6を数えている。三十路越え(32歳)の難しさに直面した。
そのような状況も重なり、新旧交代の旗手として旬を迎えた三笘は、まさに最適の人材。彼のドリブル突破は「スパーズ復活の象徴」として多くのサポーターに受け入れられるのではないだろうか。残留が確定しているジェームズ・マディソンは、足もとのスペースに絶妙のパスを配するMFだ。三笘のセンスを生かしてくれるに違いない。
こうした事実をふまえると、日本が誇る左ウイングには「スパーズ移籍」への追い風が吹いているようにも感じられる。今シーズンは極度の不振にあえいでいるとはいえ、スパーズはブランドイメージでブライトンをはるかに上まわる。
伝説のジミー・グリーブス(6度のリーグ得点王)に始まり、古くはゲーリー・リネカー、ポール・ガスコイン、最近ではルカ・モドリッチ(現レアル・マドリード)、ガレス・ベイル(2023年引退)、そしてハリー・ケイン(現バイエルン)など、多くのスターがプレーした名門クラブだ。CL出場権を逃したとしても、選択肢に加えるべきチームのひとつである。
三笘は今、ステップアップの時を迎えている。現時点で具体化しているオファーはないが、水面下で移籍交渉が進んでいたとしても不思議ではない。突如としてリバプールやアーセナル、マンチェスター・Cが乗り出してくるのか。
冒頭でも触れたように、ブライトンはヨーロッパのコンペティション参加が難しくなっている。三笘は現状に満足するタイプではないだろう。
決断の時がやって来る。