松坂桃李/photo:Jumpei Yamada老若男女問わずに愛される実写版『パディントン』シリーズの久々の新作『パディントン 消えた黄金郷の秘密』が、5月9日より劇場公開中だ。
前2作はペルーから英ロンドンにやってきたパディントンが数々の出来事を経ていく姿が描かれたが、今回は英国国籍を取得した彼の“里帰り”とブラウン一家の“巣立ち”にフォーカス。さらにはパディントンの幼少期も描かれ、エピソード・ゼロ×フィナーレ的な側面を持つ内容になっている。
吹き替え版声優を務めるのは、第1作から牽引する松坂桃李。パディントンを演じるうえでの設計図からコアな推しポイントまでを語っていただいた。
声のキーを高くして挑んだ新作
「今後に活かせるかも」
――今回はパディントンの幼少期も描かれます。演じるうえでどんな工夫をされましたか?
僕も収録時に演出の方に「どうしましょう」と伺ったのですが、その際に「(本国版でパディントンの声を務める)ベン・ウィショーさんが声を変えずにやっているため、我々もそうしましょう」とご指示いただきました。かつ、喋る以外にも木から落ちて声を上げる、溺れるといったような際の声も出すため、気持ち高めでいこう、くらいでした。
――第1作でパディントンの声を模索する際、松坂さんの地声よりも高いキーに設定されたとお話しされていましたが、今回はさらに上を目指されたのですね。
そうですね。「ほんの少し高めで」と言われて、これくらいかな? とやってみて「ちょっと高すぎましたね」「いまよりちょっと抑え目で」とご指示いただきながら、収録時に微調整していきました。
――『パディントン』シリーズは全作通して、びっくりした際の「うわ!」や感嘆した際の「わぁー!」といったパディントンのリアクション芝居が多めかと思います。声だけで表現するのはなかなか難しいかと思いますが、松坂さんはどのように挑まれているのでしょう。
自分の中では、人生を楽しみ直している感覚で取り組んでいます。パディントンはロンドンにきてから見るもの聞くもの全てが初体験のことが多いため、そのことを意識しつつ、怖さよりも好奇心――「面白そう」「ワクワクする」といったポジティブなリアクションとして捉えていくことで自分の腑に落としていきました。
――なるほど、パディントン自身の壁を作らない性格にもリンクしますね。
そうですね。怖そうな人や状況に出くわしても好奇心が勝つキャラクターと捉えることで、緊張と緩和の両面をシーンに与えることもできると思いました。
――とても面白いお話です。ちなみに松坂さんは以前「現場で得たものを、以降の現場に活かす」意識で臨まれているとお話しされていましたが、『パディントン』シリーズではお芝居面でどんなスキルを獲得したのでしょう?
自分の声でここまでやることができると思えた部分ですかね。キーを高くしてもこれくらいのレンジで表現できるという経験値や確証を得られたことで、もし今後に違う声のお仕事があったときに活かせるかもしれないな、とは思います。
パディントンと自分の“未開拓の部分”
――本作に挑むうえでは、前2作と声が変わらないように意識した、とも仰っていましたね。逆に、変えたいと思っていた部分はあるのでしょうか。
やはり技術面です。僕の技術が上達すればもっとパディントンの感情表現が豊かになると思うので。シリーズ第4作の製作が決まったというウワサも耳にしましたが、自分も本シリーズが続く限りは携わっていきたいですし、技術面を進化させつつ声のトーンは劣化しないように現状維持をしていきたいと思っています。
――第2作から7年ぶりの収録でしたが、技術的な進化を実感できた瞬間はありましたか?
収録がスムーズにいったことかもしれません。前2作をひたすら見返して現場に入れたこともあり、自分の中ではその成果を感じられました。ただ、技術面がそれによって向上しているかどうかは定かではないので、4作目までにもうちょっと修行が必要だと思っています。
アフレコに関しては、何をどう鍛錬すればよいのかは難しいところかもしれません。たとえば口が動いているところに本来は入っていない細かい息遣いを入れてみたり、そういった部分を探りながらトライしてはみています。
――アニメーションですと息遣いも「アドリブ」と言われますものね。
様々な作品のメイキングを観ていると、声優の方々は台本に書かれていない部分の息遣いだったりセリフの抑揚と緩急をつけて表現されていて勉強になります。実際にマイクの前に立つと、自分が思っていた以上に届いていなかったと思うこともあるので、もう少し明確に見つけられるようにしたいです。客観視できるようになれば“ここでもっと抑揚をつけよう”といったことも可能になりますし、ボディコントロールをより細かくできるようになりたいと思っています。そういった意味では、まだまだやりがいは尽きません。
個人的に、パディントンにはまだまだ見えていない未開拓の面があると思っています。それによって自分の声の入れ方も変わっていくはず。例えばパディントンに気の置けない友だちができたらどうなるのか、さらに新たな状況に置かれたらどういうリアクションをするのか――これからたくさんの“初めて”が待っているでしょうから、それらに直面した際に自分が声のお芝居をどう乗せられるか、楽しみです。
――松坂さんご自身はキャリアを重ねていくなかで、自分に未開拓の部分はまだまだあると思われますか?
たくさんあると思いますし、年齢を重ねても満足することはきっとない気がします。同じ経験でも年を重ねていけば感じ方も変わりますし、それによって出てくる感情も動くものです。そこから導き出される自分の答えもまた変わっていくでしょうから、一つひとつが貴重な経験だと感じています。
見どころポイントの1つは
「本シリーズの想いきりの良さ」
――アフレコの際にはご自身の声を聴きながら調整されたとも伺いましたが、声のお仕事以外――例えば映画やドラマに出演される際、ご自身のお芝居をモニターで確認されたりはするのでしょうか。
生身のお芝居においてはあまりないように思います。あるとしたら、アクションシーンなどで監督の要望に応えるために「こう動く」等の確認で観返すくらいですしょうか。だからこそ、自分の声を聴くのはまだ歯がゆいです(笑)。
今回においては、もともと子どもと『パディントン』前2作をよく観ていた、という前提がありました。僕自身は最初は恥ずかしいですし抵抗感があったのですが、何回も見るうちに慣れてはいきました。それでも自分の生身のお芝居を観返すことはほぼありませんし、『パディントン』はレアケースだと思います。
――自分の4歳の娘も『パディントン』シリーズが大好きで毎日のように観ていますが、松坂さんが子ども世代に映画をオススメするとしたら、どんなポイントを重視しますか?
我が家の話をすると、ふと『となりのトトロ』をつけたら食い入るように観てくれて、それ以来リピートされています。自分と近い年齢の子が出てくると興味を示してくれて、メイちゃんの動きをジーッと見たり真似たりしています。メイちゃんが初めてトトロを観たときのリアクションにもすごく興味を持っていましたし、作品と観る人の懸け橋になってくれるような人物が一人いると見やすいのではないかと思います。
――最後に、『パディントン』シリーズと共に歩んできた松坂さんならではの本作のコアな推しポイントがあれば教えて下さい。
サイモン・ファーナビーさんが今回は何役で出てくるかにも注目してほしいです。第1作では地理学者協会の警備員、第2作ではセントポール大聖堂の警備員役として登場していますが、今回もあるシーンで登場します。実は彼は『パディントン』シリーズに脚本家として携わっている方で、業界用語でいうと「内トラ(内部のエキストラの略。スタッフがエキストラとして出演すること)」なのですが、日本ではなかなかないことだと思います。
今回も『サウンド・オブ・ミュージック』や『インディ・ジョーンズ/レイダース 失われたアーク《聖櫃》』『エイリアン』等の映画ネタが登場しますがこれもお家芸で、第1作では『ミッション:インポッシブル』のオマージュを堂々とやっていましたよね。こうした部分にも、本シリーズの想いきりの良さを感じます。
【松坂桃李】
ヘアメイク:AZUMA(M-rep by MONDO artist-group)
スタイリスト:石井大
衣装:ジャケット、パンツ共にULTERIOR /ELIGHT
(text:SYO/photo:Jumpei Yamada)