2025年KYOJO CUPに参戦する佐藤こころ(OPTIMUS CERUMO・INGING KC-MG01) 女性限定フォーミュラカーレースが開幕し、大きな転換点を迎えた新生KYOJO CUP。そんなKYOJO CUP出場ドライバーたちの素顔を探るべく、2025年シリーズ開幕戦の富士スピードウェイにて、JAFジュニアカート選手権、JAF全日本カート選手権などのカートカテゴリーで数々の成績を残した佐藤こころ(OPTIMUS CERUMO・INGING KC-MG01)に、自身のルーツやフォーミュラへ懸ける思いを聞いた。
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⎯⎯まずは2024年KYOJO CUPシリーズと、開幕前に行われた3回の合同テストを振り返った感想を教えてください。
佐藤こころ(以下、佐藤):昨シーズンは初めての4輪デビューということもあり、どう走ればいいのかわからず、なかなか結果につながりませんでした。でも、苦しかった1年間が今に繋がっているので、そういった経験ができてよかったと思います。合同テストでは、3回とも自分が決めていた目標ラインを超えることができたので、自信がつきました。1回目のテストではトップとの差が1秒以上あり、テストを重ねるごとにタイムを詰めてはいますが、まだまだ差があるので、この後の練習走行では一番時計が取りたいです。
⎯⎯車両が変わってからグッと成績が良くなられたように見えますが、フォーミュラカーにどのような印象を持っていますか。
佐藤:VITAは初めての感覚ばかりでしたが、フォーミュラではカートで培ってきた技術を出せるところがたくさんあります。なので、フォーミュラの経験自体は今年が初めてですが、最初から違和感なく乗ることができました。
⎯⎯今季からフォーミュラカーが導入されることを聞いた際は、どのようなお気持ちでしたか。
佐藤:発表された時点では私が乗れるかはわかりませんでしたが、フォーミュラに乗ることが夢だったので、すごく嬉しかったです。関谷(正徳/KYOJO CUPオーガナイザー)さんがフォーミュラに乗る機会を作ってくださり、そこでは満足のいく結果を出すことはできませんでしたが、その結果を踏まえて出場のチャンスを下さったので、結果で恩返しがしたいです。
⎯⎯先ほどカートの経験があると仰っていましたが、モータースポーツはどのような経緯で始められたのでしょうか。
佐藤:両親がロードバイクをやっていて、私にも『モータースポーツをやらせたい』と思っていてくれたらしいのですが、父は2輪で大怪我をしたことがあります。私は女の子やから危ないということで、2輪ではなく4輪のカートに乗せてもらったというのがきっかけです。なので2輪は絶対に乗らせてくれないですし、バイクの免許はもう取れる年齢なのですが、取らせてくれません(笑)。
4歳からカートに乗っていたので当時の記憶はあまりないのですが、初めて出場したレースで勝てたことが自分のなかでとても嬉しくて、そこから『負けたくない』という気持ちが芽生えた気がします。幼少期からプロドライバーになりたいと思っていたのですが、モータースポーツはお金がかかるので、金銭的な理由で諦めていた頃もありました。でも、多くの人が手助けしてくれて、夢を目指せる環境を作ってくれたので、もう一度プロを目指すことにしました。
⎯⎯それでは佐藤選手のキャリアのハイライトは、カート時代の初優勝になるのでしょうか。
佐藤:いや、一番思い出に残っているのは2021年4月のジュニアカート選手権第2戦です。グリーンフラッグが振られたタイミングは快晴でしたが、絶対に雨が降ると思って、何十台かいる中でひとりだけレインを履きました。最初はドライコンディションだったので、3番グリッドあたりから周回遅れギリギリまで後退してしまいましたが、最終的に土砂降りの雨になって、読みどおりに優勝できました。まわりのドライバーたちは強敵ばかりでしたが、展開を覆して逆転優勝できたのがすごく気持ちよかったですし、初めて『雨女で良かった』と思いました(笑)。
⎯⎯ご自身のドライバーとしての長所と課題点はどういった部分にあると思われていますか。
佐藤:気持ちの面でもそうですけど、悩んでいても仕方がないことはすぐに切り替えられるところが長所だと思います。雨の逆転優勝のように、レースは最後まで何があるかわからないので、何かトラブルが起きたとしても、切り替えて最後まで集中して走っています。課題点は、少し長所と矛盾してしまいますけど、想定外の出来事が起こると一気に焦ってしまい、気持ちの整理ができなくなることです。
昨年のKYOJO CUPでギヤが壊れるトラブルがあり、自分のなかでは調子が良かったのですが、決勝で最後尾スタートになったことがありました。それで早く順位を上げようと無理して攻めすぎて、接触してしまいました。もう少し落ち着いて物事を見られたら結果は違っていたかもしれないので、何が起きても広い目で見て、対処できる冷静さが欲しいです。
⎯⎯同じレーシングドライバーとして、尊敬しているドライバー、憧れのドライバーがいましたら教えてください。
佐藤:スーパーGTに参戦している清水英志郎選手や、FIA-F4の伊東黎明選手は尊敬しています。カートで同じチームだったのでずっとふたりの背中を見てきましたが、今すごく活躍されているので、同じ道を辿れればいいなと思います。KYOJO CUPのなかでは、いつも冷静に相手の走りを見ている翁長実希さんを尊敬しています。VITAの開幕戦でもそうでしたが“行くべきところで勝負に出て勝つ”というところが格好良くて。翁長さんのように行くところは行き、引くとこは引きながら、私も優勝できるようになりたいです。
⎯⎯現在は高校3年生とのことですが、レース活動との両立はどのようにされていますか。
佐藤:練習日は平日に設けられていることが多く、練習の度に休んでしまうと一般的な高校では出席日数が足りなくなるので、私は大学のような単位制の高校に通っています。“何時間授業を受ける”といった出席時間が教科ごとに決まっていて、そのうえでレポート提出もあるので、今はものすごく課題に追われています。自分にとってフォーミュラに乗ることは、テンションが上がる楽しいことです。なので、レース活動が良い息抜きになっているといいますか、すべての物事はフォーミュラに乗るためにやっているようなものなので、(学業との)両立を苦痛に感じたことはあまりないです。
⎯⎯本当にレースがお好きなんですね。レース以外には趣味や好きなものはありますか。
佐藤:映画やドラマ、漫画などのストーリーがあるものを観ることが好きで、ものすごい数の漫画が家にあります。いろいろなジャンルの作品を読みますが『七つの大罪』などのバトル系は先の展開が見えず、読んでいてワクワクします。映像作品だと、最近観た『アンメット』という医療ドラマで感動して泣きました。今のお気に入りです。他には、おばあちゃんがよく豚汁を作ってくれるのですが、その豚汁が大好きです。ただ、こんにゃくはあまり好きじゃないので、いつもおばあちゃんに食べてもらっています(笑)。
⎯⎯お話を聞いていたら無性にお腹が空いてきました(笑)。佐藤選手はレース前のルーティンはありますか。
佐藤:私は疲れているときにヨーグルトを飲みたくなります。飲むと体が元気になる気がして、レースのときは飲むヨーグルトを飲んでいます。飲むヨーグルトは絶対にいちご味で、いちご果肉入りのもの、というこだわりがあります。果肉が入っているとテンションが上がるんです(笑)。あとは、小さい頃に買っただるまさんが家にあり、家を出るときに「頑張ってきます!」と声をかけています。お墓参りに行った際なども「来週の開幕戦、頑張ります!」みたいにお参りしています。
⎯⎯今季から車体そのものは勿論、マシンのカラーリングも大幅に変わりましたが、ヘルメットやマシンのデザインはどの程度、ドライバーの裁量で決められるのでしょうか。
佐藤:チームによると思いますが、私のマシンは基本的にスーパーフォーミュラ(SF)と同じカラーリングで、すごく格好良いです。もともとフロントノーズには美羽ちゃん(INGING MOTORSPORTのキャラクターである山口美羽)が書かれていたのですが『他に書くなら何がいい?』と聞いてくださって、似顔絵をリクエストしました。恐らくですが、美羽ちゃんのイラストを描いている方が似顔絵を描いてくださったようで、すごく特徴を捉えていました! ヘルメットはカートのシャシーによって変えていて、もとは青色でした。『EXPRIT』というオレンジ色のカートに乗り出したので、色を変えたら気に入ってしまって、そこからはずっとオレンジです。
⎯⎯最後に、今後のビジョンや今シーズンの意気込みを教えてください。
佐藤:夢はスーパーフォーミュラに出場することです。初めて現地で見たフォーミュラレースで、ギリギリのバトルを観たときの感動が忘れられず、あの舞台で戦いたいと思ったことがきっかけです。なので、自分が乗りたかったフォーミュラという舞台で今シーズンを戦えることが、すごく嬉しいです。参戦にあたってお世話になった周りの人たちに結果で恩返しがしたいので、まずは優勝を目指して頑張ります。
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5月10日に行われた公式予選ではトップから0.706秒差の5番手タイムを記録し、続くスプリントレースで4位を獲得した佐藤。翌11日のファイナルレースでは3位でチェッカーを受け、開幕戦から早くも表彰台を掴み取る好調さを見せていた。インタビューで度々フォーミュラへの熱意を語っていた今季最年少ドライバーは、今後どこまで躍進を遂げるのだろうか。
⚫︎Profile 佐藤こころ(さとう・こころ)
2008年3月4日兵庫県出身。数々のカートカテゴリーに出場し、2022年のJAFジュニアカート選手権で初の女性優勝者となったほか、2023年のJAF全日本カート選手権をクラスランキング5位で終え、限定Aライセンス取得。翌2024年に満を持してKYOJO CUPに参戦した。2年目の2025年シーズンはTEAM OPTIMUS CERUMO・INGINGから参戦し、開幕戦終了時点でドライバーズランキング3位となっている。
https://twitter.com/TOYOTA_GR/status/1921475562486288451
[オートスポーツweb 2025年05月20日]