『対岸の家事』“詩穂”多部未華子の言葉にドキッ。“懇願され”専業主婦になった女性の後悔

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2025年05月20日 21:40  All About

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火曜ドラマ『対岸の家事〜これが、私の生きる道!』で共感を呼んでいる、立場の異なる人々が抱える家事、育児の問題。「主人公の言葉が心に刺さった」という女性のケースを紹介する。(サムネイル画像出典:『対岸の家事〜これが、私の生きる道!』公式Xより)
ドラマ『対岸の家事〜これが、私の生きる道!』(TBS系)が、話題を呼んでいる。専業主婦と働く主婦、立場の違う女性二人と、育休をとって妻の代わりに家事育児をする官僚男性を軸に、「みんな違うけど、どんな問題も決して対岸の火事ではない」ということがさりげなく伝わってくる。

「人生はビュッフェと同じ、自分で選んで皿に乗せる」「その火の粉は本当に私には関係ないんだろうか」など、心に刺さるセリフが随所にちりばめられている。自分で自分の道を選ぶこと、そしてほんの少し他人に優しくすることなどで生きづらさが減少していくのかもしれないと感じさせられる。

自分で選んだ道ではない

「私は専業主婦だったんですが、自分で選んだ道ではなかった。だからドラマの主人公の詩穂(多部未華子)が、自分は専業主婦を選んだと言ったとき、ドキッとしました」

ナツミさん(43歳)は少し笑いながらそう言った。30歳で結婚したとき、夫と話し合って共働きを選んだ。それは子どもができても同じはずだった。だがその後、妊娠すると、夫は目を潤ませながら「頼むから仕事は辞めてほしい」と言った。

「夫の両親は共働きだった。しかも二人とも多忙で、両親と食卓を囲めるのは週に1、2回あるかないかだったそうです。夫には年の離れた兄がいたんですが、その兄は高校卒業と同時に家を出て行ってしまった。そのころ夫はまだ小学生。お手伝いさんはいたけど本当に寂しい子ども時代を送った。

だから自分に子どもができたら、妻には家に入ってほしいと思っていたって。だったら結婚するときに言ってくれればいいのに。『そう言ったら結婚してくれないと思っていた』って」

夫と両親の確執は以前から断片的に聞いていたのだが、妊娠が分かったときにさらに詳細に話をされ、ナツミさんは夫に深く同情した。だから自分のキャリアを中断しても、ここは夫の望むような家庭を作った方がいいのかもしれないと思ったそうだ。

年子の子どもたちのワンオペ育児に疲弊

「あくまでも消極的選択でしたね。自分はそうしたくないけど夫があそこまで言うから折れるしかないと思った。子どもは一人の予定でしたが、専業主婦になったので年子で二人産みました。夫は、最初のうちは労わってくれたし、早く帰宅してもくれたけど、子どもが二人になると『もう慣れてるよね』と言い出して」

年子の子どもたちをワンオペで育てるのは大変だった。だが夫は「うちは分業だから」とこともなげに言う。洗濯ものがたまっているときは「洗濯機回せばいいだけなのに、どうしてできないの?」と言われ、ナツミさんは号泣した。

「私の泣き声につられて2歳と1歳の子どもたちも泣き出して……。当時、夫の会社の借り上げマンションに住んでいたんですが、二人の子を連れて屋上から飛び降りようと思ったことさえあります。たまたま隣のおばあちゃんが『何してるの?』と声をかけてくれたので正気に返ったけど」

子育てがつらいとそのおばあちゃんに泣きついた。彼女は、「たまにはママがどこかで遊んでらっしゃい」と子ども二人を預かってくれた。

「近所の美容院に行きました。カットして、美容院の隣のカフェで一人でお茶したんです。時間にして2時間。でもカフェから出たときに目に入るものの色が違って見えた。早く子どもたちに会いたかった」

自分は母親失格なのだろうか

そのおばあちゃんがいなかったら、自分はどうなっていたか分からないと彼女は言う。だが夫にその話をしたら、「赤の他人に迷惑をかけるなよ」「子どもをよく知らない人に預けるなんて、どうしてそういうことができるわけ? 子どもが大事じゃないの?」と責められた。

「私は母として失格なんだろうかと思い始めて……。あの頃は本当につらかった。何がスタンダードか分からない。共働きの同僚たちもいるのに、どうして私は専業主婦になったんだろうと後悔ばかりしていました」

そこに夫は追い打ちをかけてくる。夫は夫で、専業主婦となったからには「完璧な母、完璧な妻でいてほしい」という自分の理想と夢を、無意識のうちに押しつけようとしていたのだろう。

「上の子を3年保育で幼稚園に入れたとき、やっとホッとしました。下ももちろん3年保育。夫は高いなあと文句を言っていましたが、じゃあ、私が働くと言うと『いや、なんとかするから』って。あとから知ったんですが、両親を脅すようにして援助させていたそうです」

仕事を始めると言ったら夫が激怒

こんな生活は長くは続かないとナツミさんは感じていた。子育てとは関係ない、自分が納得いく人生を送っていないのが問題だとも気づいていた。

「だから下の子が小学校に入ったとき、仕事を始めると夫に言いました。すると夫は『それなら離婚だ』と言い出した。どうしてそうなるのか分からない。だいたい、あなたが懇願したから私は専業主婦の道を行かざるを得なかった。

なのにあなたは家のことも子どものことも私に任せきり。外で仕事をしているのがそんなにエラいなら、私も外で仕事をする。そう言ったら夫は激怒して。ちっとも分かっていないと駄々っ子みたいに叫んでいましたね」

話はこじれて結局、2年前に離婚した。親権はナツミさんが持っている。夫は時々子どもたちに会いにくる。

「つい先日、元夫が言ったんですよ。『オレ、何してるんだろう』って。帰宅しても誰もいない、週末は誰とも口をきかない。そんな生活を送りたかったわけじゃないのにって。離婚なんかしたくなかったって。仕事を辞めたくなかったと言っていたナツミの気持ち、今になって分かる気がする。自分が選びたかった道じゃなかったと分かると、後悔するよなとしみじみ言っていましたね」

夫の態度によっては、この先、復縁もあるかもしれないとナツミさんは言う。11歳と10歳になった子どもたちの気持ちもゆっくり聞いてみるつもりだそうだ。

亀山 早苗プロフィール

明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。
(文:亀山 早苗(フリーライター))

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