イタリア・ミサノで幕を開けた2025年のFIA ETRCヨーロピアン・トラック・レーシング・チャンピオンシップ イタリア・ミサノで幕を開けた2025年のFIA ETRCヨーロピアン・トラック・レーシング・チャンピオンシップは、シリーズ“6冠”に輝くヨッヘン・ハーン(チーム・ハーン・レーシング/イベコ)が土曜予選ポールポジション獲得から、待望のライト・トゥ・フラッグを決め反撃の狼煙を上げたかに見えた。
しかしレース後の裁定で、ハーンは走路外走行によるタイム加算ペナルティを受け、最終的に勝利を譲る失意の展開に。結果、今季より新型トラックを投入した4連覇中のディフェンディングチャンピオン、ノルベルト・キス(レベス・レーシング/マン)が、週末4戦全勝のロケットスタートを切っている。
先月にはチェコ共和国のアウトドローモ・モストにて、重要な公式プレシーズンテストを開催していたシリーズ一行は、改めて開幕の地ミサノ・ワールド・サーキット・マルコ・シモンチェリに集結。5月17〜18日の週末に今季最初のレースウイークを迎えた。
その現地にて長年にわたるチャンピオンシップパートナーであるイベコは、完全電動の公式ePaceTruck『IVECO S-eWay(イベコ・エス・イーウェイ)』を提供することをアナウンスし、トラックレースの歴史上初めてバッテリー式電動トラックがグリッドをリードすることになった。
「完全電動の『S-eWay』ペーストラックは、持続可能なトラックレースへの我々の取り組みにおける重要な一歩だ」と語ったのは、シリーズを統括するETRAでマネージングディレクターを務めるゲオルグ・フックス。
「イヴェコとともに、我々はこのスポーツの歴史に新たな一章を刻むだけでなく、業界全体に向けて強いメッセージを送っている。変化は、今まさに起こっているのだからね」
過去2シーズンにわたりペーストラックを務めてきたLNG版から電動モデルへのスイッチに続き、技術パートナーであるグッドイヤーの新世代レーシングタイヤも競技デビューを果たし、55%が持続可能な素材で作られた新しい構造とコンパウンドが投入される。
廃棄されたもみ殻灰から生成されたシリカや、代替原料から得られたカーボンブラックなど、厳選された原料を使用する“55%持続可能タイヤ”は、昨季投入されたウエット性能大幅アップの24年版と同じく、競技後はリトレッド技術を経て欧州の物流輸送網を担う量産リプレイスタイヤとして市場に供される。
こうしてグリッドにおけるデュアルエネルギー・アプローチの一環として今季も数々の施策を導入したETRCだが、実際の競技では昨季から予選フォーマットを継続し、グリッド決定戦は3つのセクションに分かれて争われることに。しかしここで、ステファン・ファース(タンクプール24レーシング/フレイトライナー)とディフェンディングチャンピオンのキスがまさかのステアリングトラブルでパドックに閉じ込められ、予選は全15台での勝負となる。
わずか6分間の最終Q3セッションでは、サッシャ・レンツ(SLアポロ・タイヤ・トラックスポーツ/マン)だけが2ラップタイムを記録し、他のドライバーは1ラップのフライングラップを刻むなか、アントニオ・アルバセテ(Tスポーツ・ベルナウ/マン)を抑えた帝王ハーンが新シーズンをポールポジションでスタート。同じく素晴らしいアタックを決めた3番手シュテフィ・ハルム(チーム・シュバーベントラック/イベコ)の隣には、最終2ラップ目でタイム向上を果たしたレンツが滑り込む2列目となった。
これで予選タイムの計時ができず、15番手からの巻き返しを強いられることとなったキスに対し、最前列フロントロウの2台は双方ともに「スタート直後のターン1が勝負どころ」と踏んでグリーンシグナルに。
アルバセテの仕掛けを予想していたハーンは、ディフェンスラインを取って完璧な追い越しのチャンスを与えないよう動いたことが仇となり、ここでチーム・ハーン・レーシングの新造イベコはコースを外れてしまう。その動きが「不当なアドバンテージを得た」と見做され、最終的にペナルティの対象となってしまった。
この勝負を経て、コーナーを抜けた際にややダメージを負ったアルバセテに代わりハルムが2番手を手にすると、グリッド最後尾から新型トラック“Balu Junior(バル・ジュニア)”の実力を遺憾なく発揮したチャンピオンがみるみるうちに順位を上げ、2周目を終えた時点でトップ10入りを果たす。
瞬く間にハルムの背後に迫って、いつもの攻防戦に持ち込んだキスは、残り4周で彼女のイベコも悠々とオーバーテイク。これで2番手に浮上し、この時点で6秒だった暫定首位ハーンとの差を、チェッカーフラッグまでにわずか0.6秒まで縮めてみせる。これで5秒加算となった帝王が降格し、改めてハンガリー出身の王者がシーズン最初のウイナーを勝ち獲ることとなった。
「以前のトラックをそのまま走らせていれば、もっと楽だっただろう。以前のトラックは全体が非常によくまとまっていて、とてもうまく機能していた。最初からやり直すと物事はより複雑になり、より困難になるからね」と、週末を前に難しい船出も覚悟していたチャンピオン。
「新しいトラックを製作する際は、多くのトラブルを覚悟しなければならない。でもこれはビジネスケースなんだ。チームは旧型トラックにも、そして今や新型のトラックにも多額の投資をしてきた。レーストラックを販売できればチーム財政の支援にもなり、数年ごとに新型トラックを製造し、カスタマードライバーをサポートできると証明することも目的のひとつだからね(3年ぶりに復帰したレネ・ラインアート(レイナート・レーシング/マン)はキスの旧型トラックを駆り5番手→5位フィニッシュ)」
週末走り出しのプラクティスセッションで問題に直面し、予選Q1の12分間が開始されるまでに修復する時間がなかったキスだったが、新型シャシーを採用したにもかかわらず、チームは成功の方程式から大きく逸脱していないことも証明してみせた。
「コンセプトは同じだ。過去数シーズン、非常にうまく機能していたコンセプト自体を変える必要はないからね。いくつかの部分を磨き上げ、改善しただけだよ」
その言葉どおり、リバースグリッド4列目からスタートしたキスはレース2でも圧勝を収めると、開けた日曜の予選では新型バル・ジュニアを定位置のポールポジションに送り込む。そのままレース3でポール・トゥ・ウインを決めると、続く最終ヒートでは赤旗中断や接触バトルをモノともせず、4勝目を挙げてまたもや完璧な週末を締め括った。
続くETRCの2025年シーズン第2戦は、5月24〜25日の週末にラウジッツリンクを訪問し、DTMドイツ・ツーリングカー選手権との併催イベントを実施するビッグウイークエンドが予定されている。
https://www.youtube.com/watch?v=qMgw_SNTkJM
[オートスポーツweb 2025年05月21日]