尾上右近、中村種之助の10年越しの夢を実現 第九回『研の會』へ「お祭り男、尾上右近!やらせていただきます!」

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2025年05月21日 18:30  ORICON NEWS

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尾上右近自主公演 第九回『研の會』の記者発表会に参加した尾上右近
 歌舞伎俳優の尾上右近が18日、都内で尾上右近自主公演 第九回『研の會』の記者発表会を開いた。

【写真】中村種之助と肩を組んで笑顔を見せる尾上右近

 7月11日・12日に大阪・国立文楽劇場、7月15日・16日に浅草公会堂にて開催される右近自主公演『研の會』は自らプロデュースし開催してきた公演。2015年にはじまり今回で9回目となる。『盲目の弟』と、舞踊『弥生の花浅草祭』に挑む。

 右近は「『研の會』では、とにかく自分がやりたいことをその都度全力でやる。これをテーマにやらせていただいております」とあいさつ。この日は歌舞伎座での舞台出演の前に、早朝から浅草・三社祭の宮出し(みこしを神社から担ぎだすこと)に参加してきたことを明かした。「毎年来てくれるからと、浅草・仲見世の皆さんが、僕の名前入りの半纏をこしらえてくださいました。浅草は本当に好きな土地。そして『弥生の花浅草祭』は、まさに三社祭にちなんだ作品です。東京公演の会場は浅草公会堂ですから、ゆかりのある場所でゆかりのある作品をお楽しみいただければ。そして大阪公演では、浅草の風を感じていただけるような舞台をお見せできれば」と語り、「お祭り男、尾上右近!やらせていただきます!」とガッツポーズ。

 『盲目の弟』は、昭和5年(1930)に、右近の曾祖父・六代目尾上菊五郎によって初演された作品。本作は、およそ40年ぶりの上演となる。「歌舞伎が好きな方にも、ほとんどなじみのない作品です。その意味では歌舞伎好きの方にも、右近をきっかけにはじめて歌舞伎をみてみようと思ってくださった方にも、フラットにお楽しみいただけるのでは」と呼びかけた。兄弟は幼い頃、ふとした弾みで兄が弟の目を怪我させてしまう。弟は視力を失い、兄はその罪悪感を抱えて生きている。「救いようのない暗い話ですが、インパクトがありました。僕はこれを愛にあふれた話だと感じます。兄にとっては愛情も正義も、世間一般の基準ではない。弟にとって正しいか正しくないかでしかない。情熱にもいろいろな形がある」と、物語の印象を語った。

 兄の角蔵に右近、盲目の弟の準吉に中村種之助という配役。右近と種之助は同学年で、子供の頃は踊りのけいこ場も一緒だった。共演のきっかけは、右近が、六代目菊五郎の写真集で本作の存在を知り、それを聞いた種之助が、松本白鸚と中村吉右衛門の兄弟により上演された40年前の記録を見つけたこと。ふたりで歌舞伎座の資料部屋で映像を観て、「いつかやろう」と約束をしたという。それから約10年が経ち、「去年2人で飲んだ時に、彼は“踊りをひたすら踊りたい。主役をやりたい”と言いました。同期だからこそ見栄を張ることもある中、彼は僕にそれを言ってくれた。“僕の土俵(研の會)で相撲とる?”と聞いたら、真っすぐに目をみて“とる”と言ってくれました。その約束を果たす公演です」。種之助の役者としての魅力を問われると、右近は「やわらかさ、ふくよかさ、まっすぐさ、優しさ、奥ゆかしさ。そして独特の聡明さ」と分析。「自分にはないものを持っている。でも心おどる瞬間は一緒」だそうで、その人柄について「心を許し、歌舞伎を抜きにしてもお互いに肚をわって付き合える。歌舞伎界イチ、心が幸せな男」と続けた。

 物語のキーパーソンは、中村亀鶴が演じるインバネスを着た客。「重要な役であり、嫌味な役。僕は亀鶴さんの嫌味な役のお芝居がとても好きなんです(笑)。信頼している先輩でもあり、お願いできてうれしいです!」と話す。お琴役には、劇団新派の春本由香がキャスティングされた。尾上松也の妹で、右近とは幼なじみ。オファーをした時、春本は出産間近というタイミングだったが、7月公演の出演を快諾。「この役はぜひ真由香(春本の本名)に、と思いました。荒っぽい言葉を使うこともある役ですが、彼女なら、そういうお芝居を力むことなくポーンとやってくれる」と信頼を寄せる。「演出は、川崎哲男さんにお願いしました。作品の再考察という作業は、今後もやっていきたいことの一つ。演出家さんの目線を学びながら、自分でもいろいろな意見を出させていただきたいと思っています。『研の會』は第十回で終わりですが、自分の中の新たな情熱を発揮したい」と意欲をみせた。

 『弥生の花浅草祭』は、山車人形が動き出す様子を表現する舞踊作品だ。「四段返し」の通称で知られている。「1人4役、種之助さんと僕の2人で計8役を演じます。音楽は常磐津、清元、長唄の3ジャンルが使われますので、一粒で何度でもおいしい作品ですね」とアピール。体力的に大変な踊りとして知られるが、「種之助さんの踊りを僕は信じています。自分をぶつけつつ、彼の踊りを受け止めて、僕ら2人にしかできない舞台を作りたい。お客様には、良いものを観たねと楽しい気持ちでお帰りいただける作品になると思います」と口にした。

 自主公演ではポピュラーな作品が上演されることが多い中、『盲目の弟』を上演する。その意義を問われると「歌舞伎俳優として、僕の中で、六代目菊五郎の存在はかかせません。歌舞伎には、型、様式、白塗りのようなデフォルメした表現や、非日常的な展開が魅力の一面としてたしかにあります。でもその根本には、きちんとした人間描写、心理描写があるのが歌舞伎だ、というのが六代目の考えです。『研の會』としては、世話物を飛び越えて、よりリアルなお芝居に挑戦することになります。でも思えば、第一回『研の會』でも、飛び級のように『鏡獅子』という舞踊の大曲をやりました。飛び級であろうと恥をかくことがあろうと、自主公演ではやりたいことをやる。その勢いは30代になった今も自分の中にありますし、大事にしたいと思っています」ときっぱり。

 『研の會』は一昨年よから日本を代表するグラフィックデザイナーの横尾忠則による、特別ポスターとなっている。「初めて作ってくださった時、横尾さんから“『研の會』が続く限りお手伝いさせていただきます”と願ってもないお言葉をいただきました。リップサービスだったかもしれませんが、私は真に受けるタイプ」と笑顔を見せ、今年もすでに依頼が進んでいることを明かした。「ポスターを通じて、横尾さんが僕をどう見てくださっているのかを感じることができます。それは、この1年の自分自身を測るバロメーターにもなっています」と右近の中で重要な位置づけであるという。今回も「素材をおみせしたそばから、横尾さんはアイデアを言葉にしてくださいました。完成を楽しみにしています」と期待を込めた。

 『研の會』は第十回で終わりとなる。質疑応答でその意図を問われると、「第一回の時から決めていました」と右近は答える。「毎回開催できることが奇跡だと思っています。自分だけでなく周りへの負担も大きいことですから、10回続けられれば一区切りといえます。『研の會』としては10回目で終わりでも、僕には自分の思いをかなえてくれるチームができました。今後、何かをやりたいと思った時には、公演を打てる仲間がいる。これは確実に大きな財産です」と晴れやかに話した。

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