安達祐実instagramより 安達祐実、相武紗季、磯山さやかトリプル主演で、毎週月曜日よる11時台から放送されているドラマ『夫よ、死んでくれないか』(テレビ東京系)で、主人公・甲本麻矢を演じる安達祐実が、ゾーンに入っている気がする。
3組の夫婦それぞれの妻たちが、夫に対する激しい不満を募らせる。特に麻矢役は、安達が第1話に特別出演した『ディアマイベイビー〜私があなたを支配するまで〜』(テレビ東京系で毎週金曜日深夜に放送)との作品間の連動で狂気が補強されている。
本作の安達祐実が醸す狂気のゾーンとは!? 俳優の演技を独自視点で分析するコラムニスト・加賀谷健が解説する。
◆何かをたくらむ口元……
『夫よ、死んでくれないか』第1話冒頭場面、教会で愛を誓う新郎新婦にカメラがゆっくり、じりじり前進する。かなり引きの位置から寄る動きは、なぜだか不気味でもある。新郎・甲本光博(竹財輝之助)と新婦・甲本麻矢(安達祐実)が見つめ合う顔がそれぞれ写る。
不気味さの正体がわかる。教会の鐘が鳴り響く中、麻矢の微笑む口元がアップで写る。口角があがっている状態で、下唇だけ下がり、白い歯がむき出して怪しく光る。何かをたくらむ、この口元……。
この夫婦の関係性は、結婚後すぐに冷えきった。光博が先に浮気したとかではない。むしろ麻矢が光博に向き合おうとせず、何となく倦怠期になった。ふたりとも子どもはほしいのに、麻矢はキャリアアップを目指す仕事との兼ね合いを見計らっている。光博は、そんな彼女都合に愛想をつかしてしまった。
◆愚痴と実行が紙一重
夫婦生活が破綻しているのは、麻矢だけではない。大学時代の同級生である加賀美璃子(相武紗季)と榊友里香(磯山さやか)もそれぞれ夫たちに対する激しい不満を募らせている。同じ屋根の下で同じ空気を吸うのも息苦しい。
彼女たちは定期的に集まって、飲み会を催す。夫への不満を愚痴るためである。単なる愚痴ではない。憎しみである。いや、ほとんど殺意に近い。夫という存在が邪魔でしかない。そういう思いを共有する彼女たちが揃って本作のタイトルを口にする。
このタイトルは、麻矢たちの切実なる願いである。エスカレートすれば、自分たちの手を汚してでもすぐにその願いを実行に移せる。上述した微笑む口元の二面性は、愚痴と実行が紙一重であることを表している。
◆ゾーンに入った安達祐実
ドラマの要所で虚ろな表情を浮かべ、口元を歪ませる安達祐実が悦に入ったように見える。演技が上手いとか、夫を抹殺したいと願う主人公の狂気をにじませる心情表現が上手いとか、そういうことじゃない。
演技や表現を超えた何か。安達祐実にしかアウトプットできない圧倒的に強烈な固形物(?)みたいな。ゾーンに入った安達祐実。主人公の紙一重の狂気が安達祐実に張りつき、狂気の一粒一粒が、目元と口元にはめ込まれ、結晶化したとでもいえばいいのか。
横浜流星主演の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK総合)では、吉原の悪辣な女将役を演じているが、眉毛のないビジュアルによって、江戸時代に舞台が置かれた作品でも目元と口元をくっきり浮かび上がらせて、怪しい雰囲気を醸している。
◆ドラマ間の連動で狂気は補強される
『夫よ、死んでくれないか』第2話で、いつもの愚痴会帰りの麻矢が、ある女性(松下由樹)とすれ違って話しかけられる場面がある。その女性は麻矢を知り合いと勘違いして「レイナ?」と声をかけるのである。
「レイナ」とは、松下が狂乱のマネージャー役を演じるドラマ『ディアマイベイビー〜私があなたを支配するまで〜』(以下、『ディアマイベイビー』)に登場するアーティストの名前である。松下由樹演じる敏腕芸能マネージャーが、育て上げた国民的女優・垣内麗奈(安達祐実)から裏切られたという因縁の関係性がある。
同作第1話冒頭、芸能事務所の場面で、麗奈がその場から微動だにせず、静かに捲し立てる表情が強烈である。場面途中で片足一歩だけ近寄る画面上、目元と口元にぴりりと辛い狂気が一瞬浮かぶ。
『夫よ、死んでくれないか』と『ディアマイベイビー』で安達が演じる役柄は違うとはいえ、『夫よ、死んでくれないか』にやや唐突に松下由樹を登場させ、ドラマ間の連動で狂気は補強されるのである。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu