警察当局が匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)の首謀者ら中心メンバーに照準を定めたのには、秘匿性の高いアプリの悪用などが壁となり、首謀者の特定や上位役に迫る「突き上げ捜査」が困難な現状がある。闇バイトによる詐欺や強盗が後を絶たない中、早期摘発に向けた体制づくりが急務となっていた。
「これまでのトクリュウ捜査は下から突き上げる形で進めてきたが、それだけでは限界がある。トップをたたく体制が必要だ」。ある警視庁幹部は、大幅な組織改編の意義を説明する。
警察庁などによると、トクリュウはX(旧ツイッター)、インスタグラムなどのSNSや求人サイトで「高額バイト」「即日支払い」などとうたってメンバーを募集。面識のない者同士で、詐欺や窃盗、強盗、悪質リフォーム業や薬物密売など多岐の犯罪を行っているとされる。
東京都狛江市で2023年1月、高齢女性が暴行を受け死亡する事件があった。これを受け、警察庁は同7月、トクリュウに狙いを定めた取り締まりの徹底を指示。昨年1年間で1万人以上のトクリュウメンバーが摘発された。
ただ、首謀者らを特定したり逮捕したりするのは容易ではない。実行役との連絡に使われる「シグナル」や「テレグラム」などのアプリはメッセージが自動消去されたり、暗号化されたりして解析に時間がかかる。指示役らは複数のアカウントを使い分けており、グループの中間メンバーにたどり着けても、全体像の解明や上層部への突き上げ捜査が困難だった。
昨夏以降、首都圏で続発した強盗事件では、実行役や強奪金運搬役ら下位メンバーは逮捕されたものの、中核的人物の摘発には至ってない。指示役らが海外を拠点としているケースもあり、狛江市の事件では「ルフィ」などと名乗る指示役グループがフィリピンから日本国内の実行役に指示を出していた。
国境を越え、サイバー空間でも暗躍するトクリュウ。警視庁ではトクリュウ捜査の司令塔となる対策本部や、450人体制の専従部隊、特別捜査課を新設し、首謀者らの摘発に全力を挙げる。警察庁幹部は「あらゆる法令を駆使してトップを取り締まっていく」と意気込む。