ダイソンの次の一手は直径わずか38mmの「極細コードレス掃除機」 20年かけて開発したモーターを搭載

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2025年05月23日 09:51  ITmedia PC USER

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片手で持てるほど細いPencilVac。Dysonの創業者であるジェームズ・ダイソン氏が自ら実機を用いてプレゼンテーションを行った

 ダイソンは5月22日、コードレス掃除機「Dyson PencilVac(ダイソン ペンシルバック)Fluffycones」を発表した。ダイソン公式オンラインストアや直営店、家電量販店など順次発売する予定で、標準セット(ブラシ付き隙間ノズル/毛絡み防止スクリューツール/マグネット式充電スタンド付き)の直販価格は8万4920円となる。


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●直径わずか38mmで見た目は”細長い管” 日本の住環境を意識した設計


 Dyson PencilVacは、日本の住環境や掃除習慣を徹底的に研究/観察して開発されたという。本体質量は約1.8kgで、直径は約38mmだという。直径はスティック型掃除機としては世界最小で、「ダイソン史上最もスムーズな動き」を実現し、狭い場所にも自由自在にアクセスできることが特徴だ。


 また、本体を床に対してフラットに寝かせることも可能で、わずか95mmの隙間にも入るため、家具の下もスムーズに掃除できる。


 新開発の「Fluffyconesクリーナーヘッド」には、前後に配置された2本のブラシバーに、合計4つの円すい形ブラシを搭載している。それぞれ逆方向に回転するブラシは床の上を滑るように前後/左右にスムーズに動くため、全方位の操作と掃除の効率化を両立したとしている。


 ブラシは側面に張り出すように設計されており、これまでのスティック型掃除機では届きにくかった壁際や部屋の隅までしっかりと掃除可能で、ホコリの取り残しを防げる。さらに、ブラシを円すい形とすることで、掃除中に吸い込んだ毛がブラシに絡まず、自動的に排出される構造となっている。「ブラシに絡まった髪の毛をハサミで切ったり、手で取り除いたりする」といった、よくある手間も省ける。


 ヘッドの前方と後方には、それぞれレーザーのような光を照射することで、肉眼では見えにくいホコリを視認しやすくし、掃除済みのエリアを確認しやすくなっている。


●500円硬貨より少し小さいモーターは「ジェットエンジン並み」の回転数


 5月22日に開催された発表会で、Dyson創業者のジェームズ・ダイソン氏は「直径38mmの掃除機を作りたいと考えていた。これはDysonの最新のヘアドライヤー『Dyson Supersonic ヘアドライヤー』と同じサイズだ」とアピールする。


 スリムな本体を実現するため、「まず直径わずか28mmの、Dyson史上最もパワフルなモーターを開発する必要があった」そうだ。プレゼンテーション中には、自ら日本の500円硬貨とモーターを手に取り、「500円硬貨よりも若干小さい大きさかと思う」とした。


 モーターの回転速度は「ダイソン(のモーターを用いる製品としては)最高速となる毎分14万回転」で、「さらなる小型化を図りつつ、パワーは向上している」という。この性能について、ダイソン氏は「ジェットエンジンの16万回転に迫る」ともアピールする。構成部品を少なくして、軽量化も図ったとのことだ。


 吸引したゴミは収集しながら圧縮する。ダストボックスの実容量は0.08Lだが、その5倍に相当するゴミを収納可能だ。上部に圧縮されたまったゴミは、クリアビンをスライドさせることで押し出される構造となっている。


 ゴミ箱奥深くに向けてゴミを捨てられるため、ホコリが舞い上がり口や鼻への混入を軽減し、衛生的かつ簡単に掃除できる。


 PencilVacはダイソンの掃除機として初めて、「MyDysonアプリ」と接続の接続にも対応する。アプリを通じて運転モードの設定や、メンテナンスの時期/方法を確認できる。


 本体にも液晶ディスプレイを搭載しており、掃除中には選択中の運転モードや残りの運転時間が表示される。


●プロトタイプで検証を重ねたダイソン 開発の裏側を語る


 本製品自体の開発は2019年に始まったといい、それまでに4種類の「プロトタイプ」を作って各種検討を重ねたという。


プロトタイプ1


 本製品の特徴でもあるFluffyconesクリーナーヘッドのコンセプトは、従来のクリーナーヘッドが抱える「部屋の隅や壁際の掃除性能」を改善することだった。


 各種検討/比較をする中で、Dysonは他社のクリーナーヘッドは通常ブラシバーの両端に大きなスペースがあり、ギアボックスやベアリング金具が組み込まれていることを突き止めた。同社の研究では部屋の隅や壁際にホコリがたまりやすい傾向があることが分かっていたため、集じん性能を検証する中で、髪の毛などの詰まりやエンジニアリングの複雑さといった課題も浮上したという。


プロトタイプ2


 これを受けて、ジェームズ・ダイソン氏はエンジニアたちに360度の掃除方式を再考するよう指示し、エッジクリーニングに優れた性能を実現することを目標に掲げた。円すい形のブラシを使うというコンセプトは、既存のデザインを改良し、毛髪が自動で移動し絡まないようにするという利点をもたらした。


 このアイデアは、レーザーカットされたアクリルのプロトタイプを使用して、検討が重ねられたという。


プロトタイプ3


 吸引に関しては、円すい形であることの利点がすぐに発揮された。


 一方ブラシは従来型を廃止し、1つのヘッドに4つの円すい形のブラシを取り付ける設計とした。初期のモデルは紙素材で作成して形状の検証を実施し、吸引や毛髪が移動し絡まない方法と並行してテストが行われた。


プロトタイプ4


 最初の「セミインテグレートバージョン」の試作では、クリーナーヘッドの理想のデザインを実現するためには、複雑な機能を実現させる必要があることが判明した。


 そこでDyson初の試みとしてブラシを中央からの片持ち式にした。モーターとギアボックスを回転コーン内に収納し、外部モーターとベルト駆動式のブラシを備えることで、迅速に開発が進められたという。


サイクロン機構をあえて採用しなかった理由は?


  PencilVacは、Dysonがこれまで得意としてきたサイクロン掃除機ではないことも注目ポイントだ。サイクロン掃除機の最大の利点は、吸引したゴミを遠心力で空気から分離させ、フィルターの目詰まりを抑えて、吸引力を一定に保つという点にある。


 なぜPencilVacはサイクロン掃除機ではないのか――ダイソン氏は発表会後のグループインタビューの中で「PencilVacをサイクロン掃除機として製品化しなかったのは、サイクロンの性能を約38mmという細いボディーに収めようとすると、効率が著しく低下してしまうためだ」と理由を述べた。


 とはいえ、PencilVacの開発に際しては、0.3ミクロンの微細な粒子を99.99%捕集できる「二段階リニアダストセパレーションシステム」を新たに開発し、集じん性能を大きく損ねないように工夫したとのことだ。


小型化に重点を置きつつも性能を犠牲にしない――約20年をかけて開発したモーターを投入


 PencilVacのプレゼンテーションや製品サイトでは、小型でスリムな形状である点をアピールしている。これを他のDyson製品にも小型化は波及していくのかというと、ダイソン氏は「それは非常に良いアイデアだ」と述べるに留めた。


 一方で、「ヘアドライヤーに使用しているヒーターは、すでに他社製品よりも小型化している」とダイソン氏は語る。Dyson製品そのものの小型化を実現するためには、「ヒーターやモーターといった様々な部品の小型化が不可欠だ」と補足もした。


 掃除機としての性能を犠牲にしなかったのもPencilVacの強みだ。ダイソン氏は「利益を生み出すモーターの開発には10年もの歳月を要し、素材の削減と効率向上を目指して改良が重ねられた」ことに触れつつ、「(PencilVacで使ったモーターの)初期プロトタイプが最大2万5000回転だったのに対し、最終的には最大14万回転まで高速化することに成功した。これらの技術を総合すると、モーター開発全体で20年もの期間がかかったことになる」と語った。


 本製品のニュースリリースの中で、Dysonのジョン・チャーチルCTO(最高技術責任者)は「Dyson史上最小かつ最速の掃除機用モーターの開発は、決して簡単なことではなかった」と振り返る。


 さらに、「全てのテクノロジーをただ小型化すれば良いということではなく、モーター設計、電子回路、ソフトウェア、ハードウェアといったさまざまな要素を、1つの小さな筐体の中で高精度に統合する必要があった」としている。


 「技術の可能性そのものを見直すことに常に挑戦し、製品の構想から設計、製造に至るまで、全てのプロセスで一切の妥協をせずに取り組む――それがダイソンのエンジニアリングだ。新しいモーターから、新発想のクリーナーヘッド、そして新たなセパレーションシステムに至るまで、Dyson PencilVacはダイソンの最新技術の集大成だ」とも述べ、Dyson PencilVacがダイソン技術の粋を集めた製品であることを強調している。



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