アメリカ育ちの息子が「日本の高校に進学したい」と懇願したワケ。日本人の母が語る“日本の教育の魅力”

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2025年05月24日 09:20  女子SPA!

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左から、カイくん、コビくん。今年度から晴れて同じ高校に
 国際結婚カップルの悠子さんとアメリカ人のビルさん、そして3人の息子、高校3年生のカイくん、高校1年生のコビくん、小学5年生のライアンくんの日常を綴った人気YouTubeチャンネル「Paradi Show(パラディショー)」。一家はアメリカのコロラド州で暮らしていました。

 元小学校教諭でもある悠子さんは、子どもたちには日本の学校教育を受けさせたいと考え、夏休み期間だけ日本の小中学校を体験していました。やがて長男のカイくんが「日本の高校に進学したい」と希望したため、2021年に悠子さんと3人の子どもたちは日本に引っ越すことに。

 アメリカの会社に勤めているビルさんは経済的に仕事を辞める選択はできないため、数か月に一度しか来日できません。そのため、悠子さんは子どもたちと支え合いながら日本で生活してきました。カイくんは第一志望の高校に進学。コビくんも今年、兄と同じ高校に合格しています。

 ビルさんが、子どもたちと遠く離れることになっても、日本での高校進学を応援するようになった理由。そしてアメリカで育った子どもたちが日本の高校受験をすることの苦労について、悠子さんに聞きました。

◆日米ハーフが日本の高校に進学したかった理由

――カイくんが「日本の高校に行きたい」と言ったのは、なぜだったのでしょうか。

悠子さん(以下、悠子):日本の中学校はすごく彼に合っていたんだと思います。カイは真面目なタイプなので、アメリカの生徒たちが教師に反抗したり、悪いことをしたりするのを見ていて、とても嫌だったようです。夏休みに日本の学校を経験すると、日本の子ども達の学習態度や、学習意欲が自分と似ていると感じたようで、カイは「学校に行く本来の意味がわかった」と言っていました。

ただ、ハーフの子どもにとって日本とアメリカ、どちらの教育システムが向いているかは、それぞれの子ども次第だと思います。アメリカで暮らしながら、どの程度日本語を身につけるかも大きく影響するでしょう。日本語が全然わからないと、日本の学校に通ってもつらいと感じると思います。

カイは、「日本で学ぶことの全てが将来の夢につながり、日本の学校では自分らしく生活できる」と実感していたようです。しかし、高校受験をしたいと言い出したのが中3の6月くらいだったので、アメリカ育ちのカイが日本の高校受験に挑戦するのは並大抵のことではありませんでした。

――日本で高校受験をすることについて、悠子さんとビルさんはどう思ったのですか?

悠子:私は日本に住めるので大賛成(笑)。ビルは最初は反対でした。でも、「子どもを産むなら、日本の教育も受けさせたい」と結婚前から約束していたんです。子どもたちが日米のハーフである以上、日本の教育を受けさせる大切さはビルもわかっていたと思います。

そして、子どもたちが夏休みに日本の学校に通って一生懸命に勉強するのを見たり、話を聞いたりする中で、「日本の教育現場はすごいな」と少しずつ考えが変わっていきました。

ビルにとっては子どもたちと離れて暮らすのはつらい決断でしたが、もっとも大きかったのは、「日本の高校で勉強してみたい」というカイの意思の強さが伝わったことだと思います。

◆想像以上に過酷だった、日本の高校受験

――アメリカ育ちのカイくんが、中3の夏から高校受験をするのは大変だったのでは?

悠子:日本語で会話できるだけでは、学校の勉強は通用しませんでしたね。最初は特に漢字と語彙が壊滅的でした。テストのとき、問題文の漢字が読めなくて困っていたところ、先生が問題文にすべて読み仮名を振ってくださいました。私からお願いしたことはなかったのですが、「少しでもカイくんのためになるなら」と配慮してくださったんです。本当にありがたくて、カイも感動していました。

ビルは、「中学の定期テストで7割取れないなら、日本の高校へ行ってもついていけないからアメリカへ帰ってきなさい」と言っていました。そのためカイは70点以上を取るために、見ていて怖くなるくらい勉強していました。

毎晩のようにうなされて、私が夜遅くに動画の編集作業をしていると、眠っている状態のカイが突然起き上がって、「ママ、テスト、テスト」と言いながら歩いてくることが何度もあったんです。「この子はおかしくなってしまうんじゃないか」と心配になりました。

――カイくんは無事に第一志望の高校に合格して、2歳下のコビくんも同じ高校を受験することになったそうですね。

悠子:コビには国語の補習が必要だと思って、カイが通っていた塾を勧めたのですが、「絶対に嫌だ」と初めは拒否していました。アメリカには日本のような学習塾がないので、放課後に学校みたいなところに行くことが受け入れられなかったんだと思います。そしてなんといっても、コビはカイほど勉強が好きではありません

中1の初めの頃の国語の点数は一桁だったり、「何とか0点は取らずに済んだ」というレベルでした。だんだんと友達から、「英語だけ喋れてもね」と揶揄されるようになって、「もっと点数を取れるようになりたい」という気持ちが本人の中に湧いてきたようです。そこから自分で勉強するようになり、「自分1人ではこれ以上国語の点数が伸びない」と感じた中2の11月に、「やっぱり塾に行きたい」と自分から言ってきました。

中3の夏休みには、「人の4倍はやらないと、周りとの差は埋まらない」という詩を見せてきたことがありました。「誰の詩なの?」と聞いたら「俺」だと(笑)。そのあと目を見張るくらい勉強するようになりました。まさに「人の4倍はやろう」という気持ちだったんだと思います。

◆高校受験の経験は2人の自信に

――カイくん、コビくんは日本の高校受験を通して、どう成長したと感じますか?

悠子:たくさんあるのですが、1つは勉強だけではなく、“学ぶこと”の楽しさをわかってくれたこと。また、「もうダメだ」と挫折しそうになっても、そこから這い上がってハードルを越える経験ができたことだと思います。

一時期はどうしても点数が伸びなくて「もう受験できない」と落ち込んだこともありました。それでも「あの高校に入りたい」と希望を持ってやることを学んだのじゃないかな。それが将来、社会で壁にぶつかったときに、「受験のとき、自分はやりきったんだから」と踏み出せる自信になると思います。

それができたのは、学校の先生方のサポートがあったからこそ。「日本語上手になってきたね」とすごく褒めてくださったり、日々の学校生活で自信を付けてくださったおかげです。本当に、日本に来てよかったなと思っています。

◆すべてが新鮮だから、前向きに取り組めた

――日本の教育事情について、「昔とこんなに違うの?」と驚いたことはありますか?

悠子:小学生から塾に通っている子の多さにびっくりしました。昔は、「お金持ちが行くもの」という認識だったので(笑)。「満点を取らないと褒めない」というお母さんも実際にいるし、子どもが勉強できないと不安になる親御さんがすごく増えた気がします。

カイとコビが、受験勉強をこんなに頑張れたのは、アメリカにいた頃は周りの多くの子どもたちと同じようにあまり勉強していなかったからだと思います。だからこそ、すべてが新鮮で前向きに取り組めたんじゃないかな。もし小学生の頃から厳しく勉強させていたら、燃え尽きてしまっていたかもしれません。

2人とも自分で目標を持って勉強をしていたので応援していましたが、私は学歴があれば成功するとは思っていないんです。勉強が得意でも、人生がうまくいかない人をたくさん見てきました。「勉強ができればなんとかなる」という社会の風潮は、すごくもったいないと思うんです。勉強をしたいならすればいいし、別の目標があるなら、それに向かって努力をすることができれば、今の時代は勝ち上がっていけるような気がします。

◆日本で子育てをする良さとは

――改めて、日本で子育てをする良さは何だと思いますか?

悠子:学校では目的意識を持って勉強や部活に打ち込めるし、生活環境が安全なので子どもが自分で買い物をしたり、電車に乗って部活の試合会場に行ったりできるのが素晴らしいと思います。

アメリカでは、14歳くらいまでは法律やガイドラインで「子どもを一人で留守番させること」に対して制限をしている州が少なくありません。年齢や、留守番をさせられる時間は州によってさまざまですが、基本的に子どもを一人にしてはならないという共通認識があるので、親が一緒でないとどこにも行けません。思春期以降の子どもは親といるのを嫌がりますし、外は危険なので結局家に篭もっていることが多いと思います。

日本では、ある程度子どもが子どもの世界で過ごすことができるので、親は子どもと少し距離を取って、客観的に自分を見直しながら育児ができるのがありがたいです。

――今後については、どんなふうに考えているのでしょうか。

悠子:家族で話し合って、「日本で暮らすのはカイが高校を卒業するまで」と決めています。私の希望としては、末っ子のライアンが高校生になる頃には、また日本に戻ってきたいな。でもその頃にはライアンは英語しか話せなくなっているかもしれませんが(笑)、日本語教えるのを頑張ります。それが無理でも、カイとコビは「将来は日本に住みたい」と言っているので、私もビルと一緒に日本で暮らしたいなと思っています。

<取材・文/都田ミツコ>

【都田ミツコ】
ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。

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