
「セリフ量が膨大で、台本を読むのがとにかく大変で」
と話すのは、舞台『みんな鳥になって』(6月28日〜)に出演する中島裕翔。レバノン出身の劇作家ワジディ・ムワワドが今、世界が抱える問題に切り込んだ意欲作で、演出は現代演劇界をリードする上村聡史が手がける。
ベルリン出身のユダヤ人演じる中島裕翔
ニューヨークの図書館。ベルリン出身のユダヤ人・エイタン(中島)は、イスラム史を学ぶアラブ人・ワヒダ(岡本玲)に一目惚れ。恋に落ちたふたりを、エイタンの父(岡本健一)は頑なに認めない。父の出生に疑問を抱いたエイタンは、ワヒダとともに祖母の住むイスラエルに向かうも爆弾テロに巻き込まれる……。
「生い立ちや置かれた環境、さらには戦争。身近な人々があっけなく命を落としていくという過酷な状況下で営まれる日常生活は、私たちの普段の暮らしとはまったく異なります。その背景や歴史を深く理解することは不可欠であり、まずそこに大きなハードルがあると感じます」
戦争が続くパレスチナとイスラエル。物理的距離に加え、信仰や同胞意識が薄い日本人には、抱える問題を理解しづらい。
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「いかに今まで自分がそういうことに無関心でいられる環境で生きてきたか。それは幸せなことだと思います。でも、現に世の中にはこういう人たちがいる。自分を卑下する必要はないけど、今まで経験してきたもの全部が希薄に感じてしまうような壮絶さ。その中でも登場人物は必死に生きている。愛情ゆえに犯してしまった過ちなど、人間らしい部分も出せたほうがいいのかなと、今の時点では考えています」
やりきった自分がどう変わっているのか
これほど難易度の高い作品に挑む理由を尋ねると、
「最近の舞台は『ウェンディ&ピーターパン』('21年)と『ひげよ、さらば』('23年)。結構、身体を使う表現が多かったんですよ。だからこそ、あえてどストレートな演劇作品に挑戦してみたかったんです。装飾をすべてそぎ落としたとき、自分の“素”のままでどこまで表現できるのかを知りたかった。
そして、それをやりきった先にいる自分がどう変わっているのか。そこに強く惹かれていました。ただ、正直、ここまで難しい作品になるとは思いませんでしたけれど(笑)。そういう意味では、かなり極端な挑戦だといえるかもしれませんね(笑)」
劇場に足を運ぶ理由は人それぞれ。“中島が出演するから見たい”というファンも大勢いる。
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「そうですね。単純に、舞台を好きになってほしいな。自分のことを好きな人たちにとっても勉強になるし、いい影響を与えられる。それだけで、すごく自分がいる意味があるなと思う。みんなで勉強して、教養を深めて。1回でわからなかったら、何回も見に来てもらえたらうれしいです(笑)」
八乙女光や高木雄也……Hey! Say! JUMPメンバーの舞台出演も続いている。
「そうそう。その輪がどんどん広がって、みんなが“舞台をもっと見よう”ってなればいいなと思うし、“こういう作品がある”“こういう世界がある”と知ってもらうきっかけになるだけでも、すごく意味があるのかなと思いますね」
迎える32歳!課題は丁寧さ
エイタンのように、一目で心奪われた経験について尋ねると、
「ありますね。すごく単純なほうなので、映画を見たらすぐ感化されちゃうとか(笑)。子どものころは『スパイダーマン』を見たら、クモを捕まえて手にのせ“噛まれて、手から糸が出るようにならないかな〜”とか(笑)。わりと影響を受けやすいタイプなので、そういう意味での一目惚れは結構ありますね。映画の世界観だったり、カメラだったり。自分の好きなものに対しては、起こりがちですね」
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物ではなく、人の場合だったら? 素敵だと感じた見知らぬ人に声をかけられる?
「たぶん、できないと思う。こういう職業柄、スタジオですれ違った人には挨拶するし、一歩踏み込んで話してみたりすることはあるけど、それとはまたちょっと別ですよね。そういう意味では、ちょっと奥手なのかもしれないですね(笑)」
公演は全国5か所で。岡山公演千秋楽の8月10日は、誕生日だ。
「もう32歳か〜。30歳になったら早いなって感じがしています。なんか、20代のほうが無駄にできる時間があった気がする(笑)。これからはどれだけ1個1個、ちゃんと丁寧にやっていけるかが課題ですね、どんな仕事においても。丁寧で、だけど余裕がある人になりたいなと思いますね。でもたぶん、公演中だからあわあわしてるでしょうけど(笑)」
差し入れリスト、あります!
カンパニーをどう引っ張っていくか意気込みを聞くと、
「いやいや。引っ張るなんておこがましいですよ。共演者の方々はもちろん、スタッフさんを含め、みんなと同じラインに立って“よーいドン”でやっていくほうが好きなので」
では、みんなのハートをつかむ必殺の差し入れなどは?
「そういうのはありますね(笑)。洋菓子が続いたなと思ったら、しょっぱいものや和菓子などを。お弁当はどうしても、肉や揚げ物が多くなっちゃうので、男はあまり選ばなそうな彩り豊かな可愛らしいものとか。今までの差し入れの知識を蓄えたリストは、一応あります。すぐメモするんですよ。“うわ、これよかったな。使お!”みたいな(笑)」
<取材・文/池谷百合子>
ヘアメイク/FUJIU JIMI、スタイリング/小松嘉章