第109回インディアナポリス500マイルレース コースインする33台のマシン 第109回インディ500決勝日の天気予報は曇り。気温は摂氏19〜20度。陽が照りつけなければ路面温度も高くはならず、ダウンフォースが大きくなる。レースは接近戦となり、オーバーテイクが頻繁に起こるエキサイティングなものになるだろう。
予選でルーキードライバーがポールポジションを獲得=ロバート・シュワルツマン(プレマ・レーシング)というセンセーションは、今年のインディ500の注目度を上げる大きなニュースとなった。
しかし、イスラエル出身初のPPドライバーは、200周のレースで最後まで優勝争いができるかというと、それは疑問も残る。レース中のコンディション変化なども今回初めて体験することになり、新規参戦チームからの出場、ピットストップなどで数ポジションでも落とす可能性も少なくない。そうなればトップ争いへ復活するのは難しいだろう。もっとも、彼のPPを予測した者は本人を含めてもゼロ。レースでも“大賭け”をするかもしれない。
予選2番手は日本の佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)。16回目の挑戦で2回目となる最前列グリッド獲得であり、琢磨の過去2回の優勝は予選4番手と3番手から達成されている。フロントロウスタートは3勝目へのチケットと見ることもできるだろう。
スポット参戦での予選2番手、それもハイブリッド使用法でライバル勢をリードしての走りという結果が証明している通り、琢磨のスキル、インディアナポリス・モータースピードウェイに対する知識と経験の深さはナンバーワンか、それにかなり近い。
最終スティントでの勝負を何度も経験して来ており、贔屓目なしでも勝利にかなり近いドライバーと評価していい。心配なのは、インディ500のみに参戦するチームのピットストップか。最終プラクティスの終盤に駆動系トラブルが出てコース上にストップし、75号車陣営はピットストップの練習をコースで行うことができなかった。プラクティス最終日以外は禁止となる、『ターン4から急減速してのピットストップ』も繰り返し練習できなかった琢磨は、レース序盤はピットストップが懸念点のひとつとなるだろう。
フロントロウ最後の3番グリッドはパト・オワード(アロウ・マクラーレン)がゲット。メキシコ人ドライバーによる初フロントロウグリッドから悲願の勝利を目指す。26歳だが、すでに3回もインディ500で2位フィニッシュをしている彼は、レース終盤の駆け引きを何度も行ってきた経験の持ち主だが、それらで敗れてきたドライバーということでもある。フェアに戦おうという意識が強過ぎるために勝負弱くなっているところもあるので、今年はこれまで以上に“勝ち”にこだわった走りを貫き通したいところだ。
そして、フロントロウにグリッドは獲得できなかったが、優勝候補の上位にランクされているのが、2008年ウイナーでシリーズチャンピオン6回のスコット・ディクソンと、タイトル獲得3回でディフェンディング・チャンピオンのアレックス・パロウ。チップ・ガナッシ・レーシングからエントリーするふたりは、とにかくレース用セッティングの仕上がりレベルが高い。もっともライバルに接近でき、オーバーテイクを実現させる能力の高いマシンとしている。
インディカー歴代2位の57勝を挙げてきているディクソンは、インディ500での優勝はまだ1回。ニュージーランド出身の44歳は、2勝目を記録する意欲満々だ。パロウはオーバル未勝利だが、インディでは5回の出場で3回のトップ5フィニッシュ。2位1回と何度も好走を見せてきている。今シーズンの開幕5戦で4勝してきている彼は、ハイブリッドマシンを別次元で操ってきているドライバーでもあり、それはスーパースピードウェイで証明し直される可能性も充分だ。
一方、シボレーエンジン勢の筆頭である強豪チーム・ペンスキーは苦境にある。予選2日目のプラクティスでスコット・マクラフランは大クラッシュ。ファスト12の予選に出場できず、グリッドは10番手。さらに厳しい状況にあるのは、ジョセフ・ニューガーデンとウィル・パワーだ。ファスト12予選出走直前に違法部品使用が発覚して予選を戦えなかった。その罰として、本来ならマクラフランの隣りの11、12番グリッドからスタートできるはずだったが、昨年のプッシュ・トゥ・パス違反の件もあってか、インディカーは彼らに大きなペナルティを課した。
インディ500で2連勝中で史上初の3連勝を狙うニューガーデンは32番グリッド。2018年ウイナーのパワーは最後尾33番グリッドからのスタートとなる。歴代優勝者でもっとも後方からスタートしたのは28番手からの勝利が2度あるのみ。ニューガーデンとパワーのどちらかが勝つチャンスはかなり低いということになるが、彼らは歴史を塗り替える、あるいは新たな歴史を作るチャンスを与えられている、と見ることもできる。レース用マシンの仕上がり具合は、チップ・ガナッシ勢に匹敵する良さとなっているのだ。
また、ペンスキー勢に味方するかもしれないのは、今年のインディ500はアクシデントが多くなる可能性があるところ。これまで、テストやプラクティスから大きめのアクシデントが何度も起きている。ハイブリッド・システム搭載で重量が増え、さらにリヤヘビーになっているマシンは、ハイブリッド導入前よりもコントロールが難しくなっているのだろう。
重さ対策の施されたファイアストン・タイヤであっても、スティント後半のグリップ低下は避けられないはず。そんななかでフルコースコーションが出れば、作戦力の高い彼らが順位を大きく上げて来ることもあるだろう。レースの折り返し点では、ペンスキーの3人が揃ってトップグループに……ということすら充分にあり得る。
その他にも、注目選手としてはアンドレッティ・グローバル勢のマーカス・エリクソンが自己ベストの予選9番手で、彼は優勝経験もあり(2022年)、好パフォーマンスを見せそう。またエド・カーペンター・レーシングに移ってから初のインディ500を戦う2016年ウイナーのアレクサンダー・ロッシにも注目したい。もうひとり、インディアナ出身のコナー・デイリー(フンコス・ホーリンガー・レーシング)も良いレースを見せそうだ。
今年のインディ500には8人の優勝経験者、3人のルーキーが参戦。さらに、現役ストックカードライバーで2021年チャンピオンのカイル・ラーソンも、アロウ・マクラーレンから昨年に続く2回目の出場をしてもいる。彼はインディ500終了直後にノースキャロライナ州シャーロットに飛んでNASCARのコカ・コーラ600を走る“ダブル”に挑戦する。去年は雨でインディ500のスタートが遅れて実現できなかったが、今年はどうか。
いよいよ迎える200周の決勝レースは、25日(日)の12時(日本時間26日(月)の1時)にスタートする予定だ。
(Report by Masahiko Amano / Amano e Associati)
[オートスポーツweb 2025年05月25日]