金曜ドラマ『イグナイト -法の無法者-』の場面カット(C)TBS 俳優の間宮祥太朗が主演を務める、TBS系金曜ドラマ『イグナイト -法の無法者-』(毎週金曜 後10:00)。今回は本作の撮影監督を務めている佐藤匡氏にインタビューを敢行。“映画的”な映像美が特徴の本作において、「撮影監督」とはどんな役割を担っているのか。佐藤氏が制作現場で挑戦したことや出演者の印象などを語ってもらった。
【写真多数】間宮祥太朗、上白石萌歌、仲村トオルら豪華キャストを一挙紹介!■撮影監督システムで見えた、新たな作品の形
――「撮影監督」とはどういった役割なのでしょうか?
ひと言で言うと、撮影部と照明部のスタッフをまとめるポジションですね。ですが、今回はいわゆる業界の“撮影監督像”というよりは、作品のクオリティを高めるために僕自身が動きやすいようなポジションにしてもらっています。基本的に僕自身はカメラを持たず、モニター前で監督たちと意見を交わしながら、そこで汲み取った監督の「こうしたい」というアイデアをチームに伝えて動いてもらうようなやり方をしています。
Aカメの撮影で入っていた映画「帰ってきた あぶない刑事」(2024年)で、自分がカメラを回しているとどうしてもBカメまで十分に見切れないという反省があったんです。そこから「全体を俯瞰できる位置にいたほうが、クオリティを上げることができるのではないか」と思い、本作ではこのスタイルをお願いしました。
――この“撮影監督システム”は、ご自身にとって初めての試みですか?
そうです。監督の横で直接話しながら調整する今回のやり方は、“純度”が高いんですよね。監督がモニターの前を離れて指示を出したり、トランシーバーで助監督に伝えてからさらに撮影チームに伝えるよりもより監督の意図が明確に伝えられるんです。もちろん、カメラを触りたい気持ちもありますけど、この『イグナイト』には合っている方法だなと思っています。
――映像表現について、映画的な雰囲気を感じます。
自分としては特別“映画的”を狙っていたわけではないんです。むしろ、テレビというメディアに合わせて日々調整していました。視聴する環境やデバイスが統一されていないので、暗すぎると見づらくなってしまいますし、ノイズになってしまう。そこはかなり意識して、さまざまなデバイスで見え方を確認しながら改善するように心がけていました。
“映画的”というところでは、感情に寄り添うアングルや、カメラの動きがそう見せているのかもしれません。ある意味、撮影監督システムだからこそできたことだと思います。
■主演・間宮祥太朗の熱が、スタッフを動かす理由
――法廷シーンの撮影には、どんな挑戦がありましたか?
僕自身リーガルものは初めてだったので、正直どう撮影するか悩みました。原廣利監督がその場の芝居での空気感や臨場感を大切にする「面で芝居を撮りたい」というスタンスの持ち主。細かくカットを割って…など、いろいろと考えたのですが、考えすぎると面白くなくなってしまうので初心に立ち返る作業を何度もしました。
ちょうど法廷シーンの撮影に入る直前に、ステディカム(動きの自由度が高く、移動しながら滑らかな映像を撮影できる機材)を持っているスタッフがBカメのカメラマンとしてチームに加わったんです。「これで芝居を追いかけたらいいんじゃないか」とやってみたら、ものすごくハマったんです。本作らしい、「これが僕らがやりたかった形なんじゃないか」という躍動感が出たなと感じました。
――アクションシーンも印象的ですが、第3話の産廃場での長回しワンカットも挑戦だったとか。
そうですね。山口健人監督から突然「ワンカットで撮りたいんですよ」と言われて、挑戦してみました。現場では何度も動きのリハーサルをして、タイミングや動き、撮り方、色々なハードルがあって大変な撮影だったんですが、カメラマンも諦めずに「やります」と応えてくれて。いざ撮影して、カットがかかった瞬間、みんなが拍手していました。やっぱり挑戦って、チームの空気を変える力がありますね。
主演の間宮さんもそういう撮影に前向きで、全力で取り組んでくれる。その姿勢を見ると、僕たちスタッフも「頑張らなきゃ」と思わされます。
――間宮さんは現場でも“イグナイト”してくれていた?
そうですね。特に、助手やアシスタントの若いスタッフにまで気を配ってくれているのが印象的で、彼らが「間宮さんのために頑張ろう」と言っている姿を見ると、組全体が前向きな雰囲気に包まれているのを感じます。もちろん撮影現場は大変で疲労もありますが、その中でも空気が重くなりすぎないのは、間宮さんの人柄と姿勢があってこそだと思います。彼自身が撮影現場を“イグナイト”してくれていますし、まるで毛細血管にまで血を巡らせてくれているような感覚。僕も間宮さんを尊敬しています。
■1人1人が放つ“役の温度”
――出演者の皆さんの印象的なエピソードがあれば教えてください。
間宮さんはセリフの言いづらさをうまく処理してくれるし、セリフの後の“間”の芝居もすごくうまい。その“間”によって宇崎というキャラクターの色付けをしている感じがします。第2話で宇崎凌が1人グラウンドに残されるシーンとか、彼の中から自然に出てくる宇崎像があって、面白かったです。
(伊野尾麻里役の)上白石(萌歌)さんはちゃめっ気があるけれど、第7話で見せた女性としての葛藤はギャップがありますよね。遊び心も絶妙で本当にすごいです。
(高井戸斗真役の)三山(凌輝)さんは芝居のリズムが独特で、こちらの予想を裏切られるけど、それが気持ちいい。第2話の法廷シーンで、最後にトラックイン(カメラが移動して被写体に近づく技法)した時に、ちょっとだけピクっと笑っていて。そのわずかな動きだけでしっかり爪跡を残してくるので、原監督も「いい!」と興奮していましたね。
ベテラン勢も最高です。(桐石拓磨役の)及川(光博)さんは根っからのエンターテイナー。視聴者の方を楽しませようとするだけでなく、撮影現場でもいかに楽しませようかと考えられているんだなと。第5話はそれが全面に出ていて、最高でしたよね。
(轟謙二郎役の仲村)トオルさんは、映画「帰ってきた あぶない刑事」でご一緒した時にも器が大きいなと感じていましたが、外しの感覚が絶妙なんですよ。逃してはいけないようなアイデアを毎回出してくださるんです。
(浅見涼子役の)りょうさんは「いるだけでかっこいい」人。タイトルバックの映像をイグナイトメンバーの表情のカットにしよう、となったのも第2話のりょうさんからですし。りょうさんの存在感が作品全体を締めてくれています。
■原監督との再タッグで見えたチームの進化
――原監督とは同級生で、卒業制作もご一緒されたそうですね。本作で、改めてタッグを組んでみていかがでしたか?
とてもやりやすかったです。長年の関係もあって、率直に意見を言い合える関係性なので、撮影現場でも「それはちょっと違うんじゃない?」みたいにフラットに話ができることが強みですね。そうしたやりとりを他のスタッフが見て、「監督に意見を言っても大丈夫なんだ」と感じてくれたのか、全体的にオープンな雰囲気になっていたのも良かったなと思います。
そうした枠にとらわれず、監督自身も柔軟に受け止めてくれる。そういう意味でも、非常にありがたい関係性です。
――お2人の関係性が、撮影現場全体の空気にも反映されているのですね。
そうかもしれません。撮影部や照明部をはじめ、みんなが本当に一生懸命取り組んでくれていて、僕自身はむしろ楽をさせてもらっているくらい。撮影現場も、映像も、日々成長しているのを感じていますし、その積み重ねが作品に表れていればうれしいです。まさに、チーム全員で育ててきた『イグナイト』だと思います。
――最後に、終盤に向けての見どころを教えてください。
撮り方も、トーンも、作品として日々成長しています。宇崎をはじめ、ピース法律事務所のメンバーたちも、回を追うごとに変わっている。第9話以降は特にその変化を感じてもらえると思います。
これまでは1話完結でしたが、これからは“面”での『イグナイト』が始まる感覚です。本当の意味で“点火”する瞬間がやってくるので、ぜひ注目してもらえたらうれしいです。