風間俊介さん 現在、NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』の鶴屋喜右衛門で強い印象を残している風間俊介さん(41)。
今年1月クールに放送され、MEGUMIさんとW主演を務めたドラマ『それでも俺は、妻としたい』では、とにかく“妻としたい”という強い思いを持ち続けるセックスレスの売れない脚本家・豪太を演じ、同一人物とは思えないダメ夫ぶりで驚かせました。
現在は、足立紳監督が再構成した映画『劇場版 それでも俺は、妻としたい』が公開中です。
「ちゃんとしろよ」と思いながら豪太を演じていたという風間さんにインタビュー。風間さんが人と関係を築くうえで大切だと思うことや、仕事への向き合い方を聞きました。
◆ドラマ放送時の視聴者の反響に「ほっとした」
――夫婦や親子関係に切り込むエピソードが満載で、ドラマ版は放送のたびに反響がありました。そうしたリアクションを受けてどうでしたか?
風間俊介さん(以下、風間):ほっとしました。ここまでつまびらかに、ある種辛辣な言葉も並ぶ作品ですから、どういう風に受け入れられるか心配や不安に思うこともあったんです。
それがいざ放送されると、多くの方に「おもしろい」と支持していただいた。なので、「ほっとした」が一番正しい気がしますね。
――現在、劇場版が公開中です。クライマックスへの盛り上がり方など、新たに感情が揺さぶられました。豪太の一番身近にいた風間さんですが、個人として豪太や妻のチカ(MEGUMI)を見てどのように感じましたか?
風間:友人に話を聞いていたら、どちらにも言いたいことはあるんだろうなとは思います。
ただ豪太に関しては、別のところに一生懸命になっていることはよく分かったけど、「もう一回ちゃんと真面目に仕事をやってみようか。ちゃんとやっているところを見てもらおうか、家族に」と言いたくはなります。
◆ダメ夫・豪太には「嘘だろ、ちゃんとしろよ」と
――豪太はいろいろと突っ込みたくなる人物ですが、演じている側としては、やはり好きになるものですか?
風間:それは役次第ですね。豪太なんかは、「嘘だろ、ちゃんとしろよ」と思いながら演じていました(笑)。
――そうなんですね(笑)。ご自身とは全く違うタイプでしょうし。
風間:いろんな役がありますけど、説教したくなるタイプというのはなかなかいないですね(笑)。
◆結局、自分の手持ちのカードで戦うしかない
――序盤には、仕事をしていない自分を棚に上げて、仲間内の動向を気にしている豪太の描写がありました。風間さんはずっと活躍されていますが、活躍している近しい仲間を見て羨む気持ちは理解できますか?
風間:僕もいまは忙しくさせてもらっていますけど、全然求められていないときもありましたし、仕事に限らず、大抵の人のことを羨ましいといつも思っています。
――そうなんですか? それでも風間さんの場合は羨ましいと思うだけでなく、豪太とは違って、自分も頑張るということでしょうか。
風間:「ステキだな。羨ましいな」と思う気持ちは、それはそれであったとしても、「自分の仕事を頑張らなきゃ」という部分は、僕の場合、また全く別のエネルギーですね。自分の仕事への活力にはならないんです。
――「求められていないときもあった」とのことですが、「求めて欲しい」と考えていた期間は。
風間:ありましたよ。ただ不思議とそのときも「結局は自分だよね」となりました。周りを見て、羨ましいとは思うんだけど、結局、いまの自分の手持ちのカードで戦うしかない。
トランプの大富豪とか大貧民で、2やエースを持っている人たちを羨ましいなとは思うけれど、「いまターンが来た俺はこれしか持っていない。じゃあ、これで戦うしかないよな。だったら、どうしていこうか」という感じ。それしか考えたことがないです。
◆人生、すべてがケースバイケースだと胸に刻むことが大事
――本作は夫婦の物語が軸です。人と人とが関係を築いていくにはどうしたらいいと思いますか?
風間:結局当人同士のカスタマイズの話だと思うんです。人が変われば内容も変わって来る。
よく雑誌やテレビで理想の夫婦などと語られたりしますが、それもその人とその人には、それが理想というだけ。あなたと誰かだったら、また別の理想の形がありますよと。それが大前提だと認識することが、大事なんじゃないでしょうか。
――では風間さん自身が人と関係を築くうえで大切にしているのは。
風間:人生、すべてケースバイケースだということを、胸に刻もうということです。人が変わればすべて変わる。状況によっても変わります。だから「俗に言う啓発本とか、誰かのライフスタイルをトレースしようとすると破綻するよ」と思います。
◆仕事の選択は、自分でジャッジすると可能性を狭めてしまう
――仕事についてもお聞かせください。独立されて約1年半が経ちましたが、スタンスに変化はありますか?
風間:よく聞かれるんですけど、全く変わっていないと思っています。役を託されて、その作品に向かって進んで行ったり、バラエティや情報番組に出たりと、やっていることが特に変わっていないからかもしれませんが。
――仕事の選択はご自身で?
風間:基本的に、自分で選択する感じではありません。スケジュールの都合でできないことはありますが、作品の内容で僕がジャッジしてしまうと、自分がやりたいものしかやらなくなる。
それだと未知の分野に挑戦できないし、仮に僕が「これは挑戦だ」と思っていたとしても、それは僕の許容範囲内での挑戦でしかありません。
――自分でジャッジすると可能性が狭まる。
風間:それ(自分で選択)は面白くないと考え、10年くらい前からそうしてきています。
もちろん今は僕がジャッジを求められますけど、一緒にやってくれる人たちに「どう思う?」と聞いて、周囲がいいと言うなら「じゃあ、やろう」と。自分で決めると、あまり良いことはないと思っています。
◆浮き草のように、ふわふわと流れていたい
――40代に入られましたが、今後の目標はありますか?
風間:延長になるかもしれませんが、僕は目標を立てるのが嫌いなんです。目標を立てると、そこに向かって進んでいきますよね。僕は人生のなかで、今日たまたま何かが起きて、それを繰り返して「気がついたら、ここに来ていた」というのを楽しみにしています。
行き先を決めずに進むことを繰り返していると、どこかのタイミングで振り返ったときに自分の道筋を見て「へ〜」と思うことがある。それが一番かな。
――なるほど。
風間:浮き草のように流れていく感じ。芸能界だったり人の心に訴えかける仕事というのは、“実”がないものだと思っているので、そういう意味でふわふわしていたい。
「地に足つけてますね」みたいに言われたりするんですけど、この職業をやっている時点で、そんなことないはないですよね。結構、ギャンブラーな人生をやっていると思いますよ(笑)。
――最後に、『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』に関してもひと言いただけませんか?
風間:『べらぼう』は、僕もみなさんと同じく「おもしろいよね」と思って見ています。蔦重(横浜流星)にないものを鶴屋が持っているし、鶴屋にないものを蔦重が持っていると思うので、ふたりは相反すると感じます。
でも、その凸と凹がハマったら、最強に分かち合えるふたりになれるんじゃないかなと思いながら見ています。
<取材・文・撮影/望月ふみ>
(C) 「それでも俺は、妻としたい」製作委員会
『劇場版 それでも俺は、妻としたい』は全国公開中
【望月ふみ】
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi