【インタビュー】a flood of circle、音を壊し、再構築するという新たなアプローチ 「今度はマキシマムなことをやろうって開き直った」

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2025年06月13日 21:00  ORICON NEWS

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11月9日にはKABUKICHO TOWER STAGEでフリーライブを開催するa flood of circle
 a flood of circleが新曲「KILLER KILLER」をリリースする。きょう13日に東京・Zepp DiverCity TOKYOで行われた全国ツアー『a flood of circle TOUR 2024-2025』の最終公演で初披露されたこの曲を、14日0時に急きょ配信リリースすることとなった。

【写真】2026年の日本武道館公演を目標とするa flood of circle

 前作「WILD BUNNY BLUES/野うさぎのブルース」で徹底的に音を削ぎ落とし、バンドの原点を見つめ直した彼らが次に選んだのは、音を壊し、再構築するという新たなアプローチだ。楽曲制作の背景には、2026年に目標としている日本武道館公演への思いがある。今年11月には新作アルバムのリリースを予定していることも告げられた。

 人気漫画『ふつうの軽音部』で彼らの楽曲「理由なき反抗(The Rebel Age)」が使用されたことをきっかけに新たなファンも増え、今、バンドは追い風を受けた状況にある。佐々木亮介(Vo, G)に新曲の制作背景、バンドの現在地、そしてこれからについて話を聞いた。

■結成20周年となる2026年には武道館公演を

――まず、「KILLER KILLER」をツアー最終日で初披露してリリースするという形を選んだ理由を教えてください。

【佐々木】リリースしたかったのは、そもそも11月に新しいアルバムを出すというのがあって。なんで出すかっていうと、結成20周年となる来年に武道館をやりたいと思ってるんです。まだ日程は決まってはいなく、そもそも取れるかもわからないんですけど。それを目標に11月にアルバムを出してフリーライブをやろうというのを決めた。そこからです。

――「KILLER KILLER」は前作「WILD BUNNY BLUES/野うさぎのブルース」とは違う感触のサウンドですが、今回はどういう方向性で制作を進めたんでしょうか?

【佐々木】前回のアルバムの時は「ロックってなんだっけ?」みたいなことを考えてたんですよ。テクニカルにクオリティを求めて成長するっていうコンセプトじゃないことができないのかなって。成長と違う音楽ってないのかなと考えて「山小屋で録る」という古典的な少年マンガみたいなことをやったんですよ。「虫けらの詩」で最初から最後までギターのコードをひとつしか弾かないような曲もやって。これ以上削ぎ落とせないというところまでやった。で、次に何をしようかなというので困っていて。そのときに、ロサンゼルスのtsubi clubというアーティストがインスタで連絡してきたんですよ。いわゆるハイパーポップ的な文脈の人なんですけど、彼はアニメオタクで日本も好きらしくて。前にNACK5のラジオ番組に出た時に、tsubi clubの「burbank house」という曲をかけたことがあったんです。そしたらそのことをネットで調べたらしく「俺もa flood of circleのことが好きだ!」って連絡がきた。それで「これだ!」みたいにときめいちゃって。「よし!アメリカに行こう!」みたいに思ったんだけど、これがメンバーに全く響かなくて。いきなりそんなこと言われても、みたいな感じになっちゃった。

――それが今回の楽曲制作のきっかけになった?

【佐々木】アメリカに行って録音して、ミックスも自分でやって、破壊的な音響を作るっていうのを妄想したんですよ。だけどバンドだし、それはちょっと難しいから東京で録りましょうってことになって。それで1回「KILLER KILLER」の元になる曲を作って録ったんです。それはロックバンドの音としてはすごい良かったですけど、ちょっと普通だったんですよ。「これでいいのかな」「つまんないかも」って思っちゃって。それで2回くらい歌のレコーディング飛ばしちゃって、メンバーも、いつもニコニコしてるディレクターも笑わなくなってきた感じになってきたところで「やっぱ破壊しなきゃダメかも」って思って。それで録った音源の一部をループさせたり壊したりして。アメリカ行ったらやろうと思ってたことを、一人でやっちゃおうと思ったんですよ。それでようやく見えてきた。山へ行って何もない場所で本当にシンプルなことやるっていうところから、今度はマキシマムなことをやろうって開き直った。それがやっと見つかったのがこの曲ですね。

――遡ると2023年にリリースされた「ゴールド・ディガーズ」には「武道館 取んだ3年後 赤でも恥でもやんぞ」という歌詞がありました。それが2024年のアルバム収録時には「2年後」になっていた。あの曲を書いた時の思いを改めて聞かせてください。

【佐々木】そのちょっと前、『花降る空に不滅の歌を』というアルバムを出した後にドラマーのナベちゃんに呼び出されて、15年ぶりに2人で飲んだんです。その時に「40歳くらいまでこの調子だったら、ちょっとバンドは続けられないかも」って話をされて。あのアルバムあたりから「ロックって何?」みたいな悩みが深まっちゃってどんどん削ぎ落とす方向に行ってたんですけれど、トドメにナベちゃんにそういうことを言われて。で、いい意味で発破をかけられて。自分で自分を追い詰めてる状況をそのまま歌うのが面白いかもと思ったんです。俺にとって武道館って、売れてる若い人が勢いでやるところか、怒髪天みたいに尊敬されてるバンドがやるイメージの場所で。焦りで「武道館やるぞ」って言ってる人はあんまりいないかもって思って。ロックキッズの自分から見たらこれはアリだなと思ったんですよ。その感じで面白がって歌詞に入れたという。もちろんバンドは何より大事なんで、これを続けられるか来年わかると思うんですけれど。それも含めて面白いかなって。

――あの曲で言葉にしたことが物事が転がるきっかけになったという実感はあるんじゃないかなと思うんですけれど。どうですか?

【佐々木】そうですね。その後(『少年ジャプ+』で連載中の)漫画『ふつうの軽音部』でいい感じで取り上げてくれて。それもあって野音のチケットが売り切れたんです。だからイケるんじゃない?って思って。でも、そこでどんな音楽を作るべきかが上手く俺の中でハマってなくて。野音を埋めて武道館をやる。そういう成長戦略みたいなことと、音を豪華にしていくってことが、自分の中でイコールにならなかった。武道館でやりたいことも、ショーアップしたものを見せたいわけじゃなくて。今は照明もつけっぱなしでSEとかBGMもかけないでライブしてるんですよ。それかなって。ロックバンドとして剥き身でやらないと、成長というコンセプトに飲まれるだけになっちゃう。失敗したら解散したり止めたりすることになるわけで。そう思って、山で録音したし、どんどん音が少なくなっていった。武道館でやるという実感と削ぎ落とすという方向性が、ある意味反比例しちゃっていた。そういうのもあって、全然違うことをしようと思ってこうなったという。

――僕は『ふつうの軽音部』での「理由なき反抗(The Rebel Age)」の使われ方はとても素晴らしかったと思うんです。作者のバンドへのリスペクトも感じたし、それをきっかけにa flood of circleを知った新しいファンも増えている。だからインタビューでは絶対そのことに触れるべきだと思っていて。改めて、この状況をどう感じていますか?

【佐々木】嬉しいです。もちろん嬉しいというのが先にある。ライブに来てくれる人がいて、景色が少し変わったので。最近はあの曲は必ずやってますね。ただ、それによってやることが何か変わったかというとそうではない。どんどん剥き身で照明も無しでやってるわけだから。若い人にとってはちゃんとエンターテインメントとしてやってる他のバンドの感じとちょっと合ってないだろうなって気がするんですよ。そこのズレとかをみんながどう思ってるのかなっていう興味はある。

――漫画での使われ方についてはどうですか?

【佐々木】そもそもあの曲はバイトをクビになったときの歌なんですよ。それを上手いこと高校生のシーンに合うようにハメてくれてる。自分としては嬉しい以外はないですよ。それに俺の中では今やっていることと辻褄が合っていると思ってる。今のモードが「理由なき反抗(The Rebel Age)」って曲を書いた時の俺の中では同じような感じで。あれも剥き身な曲なんですよ。

■「曲を壊す」という音楽的な作業をすることで見えてきたポジティブな歌詞

――「理由なき反抗(The Rebel Age)」を書いた時のことを改めて聞かせてもらえますか? バイトをクビになったときの歌ということですけれど、あの曲はどういう思い、どういう衝動で書いた曲ですか?

【佐々木】あの曲を書いた時は2011年で、姐さん(HISAYO)がメンバーに入って、レコード会社を移籍して、今までで一番ポジティブになってきたぞって時で。その後に東日本大震災があって。それもデカかったんですよね。次はどういうアルバムを出すかって時に、削ぎ落とさないといけないと思ってたんですよ。本当のことを言わなきゃいけないって思ってたんです。その流れで『FUCK FOREVER』というアルバムを作って、その中で「理由なき反抗(The Rebel Age)」という曲を書いた。自分がもともと好きだったロックンロールを素直にやっているのもそうだけど、歌詞の面でさらけ出さないといけないと思ってた。それでバイトをやめたというのもあるんですけど。そういうその時のリアルな自分と繋がってる曲ですね。

――10年以上の曲だけれど、今ライブでやってもそこに嘘がないと思える曲だという、そんな実感もあるんじゃないですか。

【佐々木】歌詞では自分のことをずっと書いてるんですけど、やっぱりバイオリズムがあって。あの時期の「本当のことを書かなきゃ」という気分と今はすごく近いんですよね。悩んで書いている。その後のほうがメンバーが固まってもう少し明るい気持ちでやってたと思うんですけど。地震の影響もあったし、暗い気持ちの中どうにかポジティブな方に向かっていくという。その気持ちが一周して戻ってきて、今はしっくりきているという感じかな。

――今回の「KILLER KILLER」のテーマや歌詞の面についてはどうですか?

【佐々木】それも「理由なき反抗(The Rebel Age)」とやっぱり近いところがあって。『FUCK FOREVER』というアルバムでは「Summertime Blues II」とかちょっと暗い話を書いてるんですよ。現実社会は本当は暗いはずだという。そこから抜け出さなきゃという気持ちで「理由なき反抗(The Rebel Age)」を書いた。前のアルバムでは削ぎ落としちゃったから、「虫けらの詩」でも「俺の生き方はこれだけ」というところで歌が終わってて。だからいい、だからポジティブということじゃなくて。「これしかない」で止まってたんですよ。その気分の次にあるものが分からなかった。だから録った曲もつまんなかったんです。でも、そこから「曲を壊す」という音楽的な作業をして、本当に面白いと思ったものを詰め込もうと思って作ってみたら、久々にポジティブな歌詞が書けた。書こうと思えたんです。

――ポジティブな思いを書こうと思ったことからこの曲のテーマが生まれた。

【佐々木】ちょっと前に時速36kmって若いバンドと対バンしたんですよ。そのボーカルのしんちゃん(仲川慎之助)がa flood of circleがめちゃめちゃ好きだって言ってくれてて。話を聞いたら、行き場所がなくて、学校の便所で一人で聴いてたって言うんです。「a flood of circleみたいなバンドいないのかな」と思ってレッド・ツェッペリンを聴き始めたって。めちゃくちゃな順序だなと思ったんですけど、でも正直やっぱ嬉しかったんです。それもあって、学校の便所に一人で居るしんちゃんに向けて歌おうって思ったんですよ。自分も追い込まれてて行き場所がなくなってトイレの中にいるような感覚だったのかもしれない。これ以上削ぎ落とせないって思った後だったから。その反動だと思うけど、嘘じゃない形でポジティブなことを書きたいと思った。それで歌詞に書いたのが、ベランダから見る景色の自由さと危険さというか。それで「飛びたいなら飛べる」と書いた。「冷たい手摺り」と書いたのは、何でもできる可能性って、本当はポジティブだけでもないというのもあって。そこまで書ければ嘘じゃないと思って歌が書けた。どん詰まりだったところから突き抜けて開き直れたみたいな。そういう感じです。

――この曲って、一人称だけではなく、二人称の「君」が出てきていますよね。だから、自分が年長者として、同じような状況にいる誰かに向けて言葉を発しているような曲だと思いました。

【佐々木】そうかもしれない。だから最初はダジャレっていうか、何かを壊す歌だったんで「Killer」にしたんです。でも「Killer」だけだと殺し屋になっちゃう。サッカーで言う「ジャイアント・キリング」みたいに、憂鬱とかそういうものを「Kill」している歌にしたかったんですよね。それで「Killer」の「Killer」になったという。

――11月に新しいアルバムを出すということですが、その制作はどんな感じなんでしょうか?

【佐々木】ちょっとだけ見えてきたようなことがあって。今、思ってるのはとにかくノーブレーキでいくということ。テンション高くとか、そういうことじゃなくて、音楽的なアイデアにブレーキをかけないということ。あとは、嘘じゃない形で、これまでで一番ポジティブなアルバムになるかもしれない気がします。やっぱりこの曲ができた時の快感がすごくあったんですよ。その手応えが今あるから、そのまま突っ走っちゃいたいと思ってます。

取材・文:柴那典

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