ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」
――早くもフィナーレを迎える春のGIシリーズ。締めくくるのは上半期のグランプリ、GI宝塚記念(6月15日/阪神・芝2200m)です。
大西直宏(以下、大西)残念ながら僕自身、宝塚記念は現役時代に縁のないレースでした。それでも競馬学校に入った年(1977年)、研修旅行で現地観戦したレースのことは覚えています。
関西方面への2泊くらいの研修旅行では、栗東トレセン、京都競馬場、阪神競馬場などを見学。当時はまだ、競馬については右も左もわからない少年でしたが、宝塚記念では武邦彦騎手(武豊騎手の父)騎乗のトウショウボーイがゴール板を駆け抜けていく姿がカッコよくて、その印象が鮮烈な記憶として残っています。
――トウショウボーイ、テンポイント、グリーングラスの「3強」がしのぎを削った一戦ですね。そして今年、宝塚記念はその当時の日程に近い6月中旬での開催となります。例年よりも2週繰り上げての施行となりますが、そのスケジュール変更についてはどう思われますか。
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大西 気候変動による近年のことを考えると、6月末には気温30度を超えるような夏日になることもしばしば。そういう意味では、前倒しして行なわれることは、馬のコンディション的には間違いなくいいと思います。
実際、夏場に近い開催で頭数がそろわない年も結構あったなかで、今年はフルゲート(18頭)となるメンバーが登録(※追い切り後にダノンベルーガが回避。レースは17頭立てで行なわれる)。マイナス面より、プラス面のほうが多いように感じます。
――その出走メンバーをご覧になっての、率直な印象を聞かせてください。
大西 頭数がそろっただけでなく、6頭のGI馬が参戦。それなりのメンバーが顔をそろえて、グランプリにふさわしい一戦になったと言えるのではないでしょうか。
各世代のトップクラスがエントリーしていて、その世代同士、世代間での比較も興味深いところ。純粋にレースとしてのワクワク感があって、馬券的な面白みも共存する、見どころ満載のレースと言えますね。
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――好メンバーがそろうなか、中心となるのはどの馬でしょうか。
大西 昨年は阪神競馬場の改修工事により京都競馬場の外回りコースで行なわれましたが、今年は本来の舞台となる阪神・内回りコースでの開催。その点からして、まずは機動力の有無が重要なポイント。さらに、直線の坂に対する適性があるかどうか。加えて、週末の天気は雨予報ですから、道悪での馬場適性もカギになります。
それらを踏まえたうえで目下の充実ぶりを考えると、GI大阪杯(4月6日/阪神・芝2000m)で連覇を遂げて挑むベラジオオペラ(牡5歳)が、総合点はトップクラス。人気(ファン投票第1位)だけでなく、死角の少ない最有力候補だと思います。
――では、そのベラジオオペラを脅かす存在、一発の可能性を秘める穴馬候補を挙げるとしたら、どの馬になりますか。
大西 ドゥラメンテ産駒のドゥレッツァ(牡5歳)ですね。
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クリストフ・ルメール騎手の神騎乗で、3000mの長丁場とは思えない競馬で快勝した一昨年のGI菊花賞(京都・芝3000m)のイメージが強い同馬。近走は勝ちきれないレースが続いていますが、まだまだ見限れません。
そもそも勝ちきれないレースが続いているとはいえ、昨夏から海外GIの英インターナショナルS(5着。8月21日/ヨーク・芝2050m)、GIジャパンカップ(2着。11月24日/東京・芝2400m)、海外GIのドバイシーマクラシック(3着。4月5日/メイダン・芝2410m)と、世界の名だたるGIレースで善戦を続けています。
その実績と経験に裏打ちされた対応力の高さも伊達ではなく、スピードとスタミナの両方を要求される舞台に適性があると見ています。現に、芝2200m戦はこれまで2戦2勝と負けなしです。
ドバイ遠征から帰国後、状態を見極めながらここ1本に絞った臨戦過程には好感が持てますし、帰厩後の追い切りの気配からは出来のよさが伝わってきます。道悪経験こそありませんが、操作性の高さではベラジオオペラと比べても見劣りません。ハイレベルな戦いで培った勝負根性と2200mの距離適性の差から、逆転もある、という見立てです。
今回は、外厩が同じノーザンファーム天栄組のアーバンシック(牡4歳)、レガレイラ(牝4歳)らの陰に隠れた格好にありますが、実力も実績も確か。そのわりに配当的な妙味があるドゥレッツァを、宝塚記念の「ヒモ穴」に指名したいと思います。