
「教育番組」というコンテンツをご存じだろうか。
主人公は、フリーターのアザラシ、「タマ」。まさに子ども向け教育番組に登場するキャラクターのような可愛らしい風貌ながら、よく見ると目に覇気がない。社会への不適合感や人生の先が見えない不安感を抱え、時には仲間に包丁を突き刺すなど非道な行いを繰り広げる─。そんな、なんともシュールな展開が反響を呼んでいる。
「いきるのつらい しぬのもこわい」
作者はクリエイター・ももにくす氏で、2024年2月にXで配信がスタートすると、瞬く間に話題となり、現時点でフォロワー数は約34万人に。
今年1月には公式YouTubeで主題歌『きょういくばんぐみのテーマ』を配信。明るくポップな曲調ながら「いきるのつらい しぬのもこわい」「うまくいかない さきがみえない なぜか なみだとまらない」というエッジのきいた歌詞が話題となり、1537万再生(6月3日現在)を記録。現在もTikTokなどで「歌ってみた」動画が多数上げられている。
「東京・池袋で1月に行われたポップアップイベント『教育番組 はじめてのげんじつポップアップ』は連日大盛況でした。また、5月にはアニメ月刊誌『PASH!』が臨時増刊『教育番組 Special Edition』を刊行。『お渡し会イベント』を告知したところ反響が予想外に大きく、参加券は抽選になったそうです」(アニメに詳しいライター)
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この「教育番組」以外にも近年、SNSから誕生したキャラクターが次々と人気に。「仕事猫」「ちいかわ」「100日後に死ぬワニ」「おぱんちゅうさぎ」など、単にかわいいだけでなく、不条理さや残酷なシーン、ブラックユーモアがつきものだったりもする。生きづらさを抱える現代に寄り添うコンテンツが人気を得るということか。
精神科医の山下悠毅先生に見解を聞いた。
現代人の風潮にマッチ
「江戸時代の風刺画や黄表紙のようなものだといえます。『教育番組』の場合、『哲学的なタイトル × 超ショート』という形で構成され、人々がなんとなく問題と感じている事柄について、動画を見ることで『なるほど』や『確かに』などの気づきを与えてくれます。それが共感につながる。
超ショートという構成も、タイパを重視する現代人の風潮にマッチしています」
放送中のNHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』にも登場する風刺画や黄表紙といえば、社会批判や皮肉などを盛り込んだ江戸庶民のための娯楽作品だ。また、人気となっているテーマ曲『きょういくばんぐみのテーマ』についても、
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「江戸時代の農民や町民は厳しい身分制度の中で、盆踊りや阿波踊りなど、皆と同じ踊りをすることでつらい日常を忘れ、所属意識を高めました。
視聴者にも、無意識で同じような心理が働き、上手に自らの心を支えているように思われます」(山下先生)
なお、ももにくす氏は自身のX上で《『教育番組』は作者自身の経験を元に凝った自傷(自慰)行為として発信してたものが偶然沢山の人に共感されて大きなコンテンツになってしまっただけで、『世の中の辛い人達に寄り添ってあげよう』みたいな傲慢な意図はないとだけ言っておきたい それはそれとして皆には幸せになってほしい》とコメントしている。
人間本来の心が求めていたコンテンツのようだ。
山下悠毅 精神科専門医、東京・池袋ライフサポートクリニック院長。近著に『依存症の人が「変わる」接し方』(主婦と生活社)がある
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