TS020オマージュの特別カラーリングで2025年のル・マン24時間レースに参戦した7号車トヨタGR010ハイブリッド ル・マンへの参戦40周年を記念し、1998年のTS020(GT-One)へのオマージュ・カラーをまとって2025年大会に出場したトヨタGAZOO Racingの7号車GR010ハイブリッド。赤と白の鮮烈なカラーリングで走行前から注目を集めたマイク・コンウェイ/小林可夢偉/ニック・デ・フリース組はしかし、厳しいル・マンウイークを過ごすこととなった。
3ステージのノックアウト制となった公式予選では、第1ステージでニック・デ・フリースが脱落。16番手からスタートした決勝では、序盤にピットレーンスピード違反のペナルティを受けたほか、終盤にはFCY(フルコースイエロー)手順違反のペナルティも科せられ、「クリーン」とはほど遠いレースとなってしまった。
また、序盤には可夢偉がミュルサンヌへのブレーキングでタイヤをロックさせ、コースオフを喫する場面もあるなど、マシンとしても乗りづらそうなものとなっている印象を受けた。
■一向に下がらなかったブレーキ温度
厳しい24時間レースを戦い終えた可夢偉は、すべてを乗り越えたさっぱりとした表情で取材に応じた。序盤のコースオフに関しては、ブレーキの不具合が影響していたという。
「今年のル・マンは正直、ブレーキの調子が良くなくて……セブ(セバスチャン・ブエミ)がハイパーポールでやってしまったのもそうだし、決勝の8号車のトラブルもブレーキが関連している可能性があって。僕も最後、左リヤのブレーキがほぼゼロになって、温度がバーンと上がって、ペースを落とさなければいけませんでした」
後述するように終盤にはFCY違反でペナルティを受け、そこからはペースを落として走行することにしたというが、全開で飛ばしているわけではないのにブレーキ温度は一向に下がらなかったという。
なお、不具合が生じていたのはハイブリッドの回生ブレーキではなく、ローター&パッドの物理ブレーキの方。ロックすることでタイヤの表面が傷つき、グリップを失ってトラクションも足りなくなる……という悪循環に陥っていたようだ。
ピットレーンスピード違反については、可夢偉からデ・フリースへ交代した直後のピットロードで起きたもの。これについて、チーム代表も兼ねる可夢偉は次のように説明した。
「僕が降りるときに、エルボー(肘)がバーンと(ステアリングのスイッチに)当たってしまったんですよ。それで多分(リミッターが)解除されてしまって。乗り込んだら必ずスイッチを見ることにしているのですが、見てなくて、そのまま行ってしまった、と」
最終盤の可夢偉ドライブ時のFCY手順違反については、グリーンに戻る際のエンジニアの無線でのカウントダウンが“攻めすぎた”ものであったと可夢偉は明かした。結果的に、完全にグリーンになる前に加速を始めてしまったことが、ペナルティにつながった形だ。目の前には順位を争うライバルが位置しており、ひとつでもポジションを上げることに対して“攻めた”結果ではあるものの、人為的ミスと言えばミスでもある。
■「このクルマで勝負することが限界にきている」
これらの事象とは別に、あるいはその根本には、今回のル・マンにおけるトヨタGR010ハイブリッドが、ライバルに対してパフォーマンスが不足していたことが、苦戦の大きな要因として挙げられる。8号車の平川亮も指摘したように、それはとりわけストレートスピードの面で明確なものになっていた。
「スリップストリームに入っても、横には並べるけど、そこから離されていく。だから僕、(コクピットの窓から)何回も手を振りましたもん。『これ、無理やぞー!』って」と可夢偉は冗談めかすが、今戦を象徴するようなパフォーマンス差が、そのシーンには反映されていた。
前提としては“最高速をそろえる”はずのル・マンのBoP(性能調整)について、結果的にはそうはならなかったことについて、陣営としてはいろいろと思い・勘繰るところはあるようで、ライバルたちがいわゆる“グレーゾーン”を突いてきている一方で、トヨタの取り組み方がそこまで「攻め切れていない」ものになっていた可能性を指摘する関係者もいた。
可夢偉とともにレース直後の取材に同席した加地雅哉TGRグローバルモータースポーツディレクターに2025年のル・マンの総括を求めると、「背景や原因はともかく」と前置きした上で、次のように語った。
「パフォーマンスでは、今回は勝てませんでした。もう完敗です。ドライバーには申し訳なかったですし、やっぱりクルマづくりの考え方からやり直さないと。僕らのクルマは最年長の“おじいちゃん”ですし、このクルマで勝負することが限界にきていることは明確なので……ちょっと次に向けてはしっかりやり直しをしないと、来年も同じことが起こる。このままではダメだということがすごく分かりました」
今回のル・マンウイークでは、ハイパーカー規定の2032年までの延長が発表された。2021年にGR010ハイブリッドがデビューして以降、さまざまなル・マン・ハイパーカー(LMH)、そしてLMDh車両がフィールドには登場しており、それらの車両が勝利を重ねているという現実もある。果たしてトヨタが放つ“次の一手”は、どこまで踏み込んだものになるのか。その将来がとても気になる『完敗の一戦』となった。
[オートスポーツweb 2025年06月17日]