※画像はイメージです 見た目ではわからない妊娠初期の女性や障がい者、難病を抱える方への配慮の周知をさせるため、東京都福祉保健局が12年に作成したヘルプマーク。現在は全国の各自治体で配布されており、赤地に白の十字とハートマークが入ったタグをかばんなどに付けている人を見かけたことも多いはずだ。
同時に鉄道や路線バスなど公共交通機関の優先席にもヘルプマークのステッカーが貼られ、席を譲るように呼び掛けている。だが、混んでいる車内ではタグが見えにくく、立ちっぱなしを余儀なくされるケースも珍しくない。
◆よろめいて隣の女性にぶつかり、謝罪するも睨まれた
会社員の内藤聡志さん(仮名・60歳)は、仕事を終えて最寄り駅から路線バスで自宅まで戻る途中、こんな場面に遭遇したという。
「夕方の帰宅ラッシュの時間帯で座席はすべて埋まっており、私を含めて立っている乗客も10人前後いました。私はまだ足腰は丈夫だったので立っているのはそこまで苦じゃなかったですけど、同年代と思われる男性は足の踏ん張りが利かないのかつり革に捕まっていてもバスが曲がるたびに身体が右へ左へと大きく揺れていました」
見ていて心配になるほどで自分が座っていれば座席を譲りたかったが、内藤さんも同じ立っている側。早く席が空いて座れるといいなと思っていた矢先、その男性はカーブでよろめいてつり革から手を離してしまう。そして、隣に立っていた20代と思われる女性客にぶつかってしまう。
その瞬間、彼女は「キャッ!!」と声を挙げ、男性は「すみません、足の踏ん張りが利かなくて……」と弱々しい声で謝罪。それでも女性は納得いかないのか男性を睨んでいたそうだ。
「この2人は隣り合って立っていましたが、もともと密着しているわけではなく多少の隙間はありました。だから、痴漢を疑うようなシチュエーションではありませんでした。これは私の想像ですけど、ぶつかってきたことで単純に腹を立てたのではないでしょうか」
◆高校生が席を譲るが、女性が自分に対してだと勘違い
女性は男性に対して文句を言ったわけではなかったが、虫の居所が悪かったのかしばらく睨んでいたとか。ところが、ここで座っていた制服姿の高校生が突然立ち上がり、「あの、ここに座ってください!」と座席を譲ってくれたのだ。
この言葉にすぐ反応したのは若い女性。座席に向かおうとしたが「ごめんなさい、お姉さんじゃなくてそちらの方(=よろめいた男性)に言ったので……」と一言。一方、男性もまさか自分に譲ってくれたとは思っていなかったのか驚いた様子だったそうだ。
とんだ赤っ恥をかいてしまった女性は、高校生に対しても不機嫌そうな態度を露わにしたが、これを完全に無視。
男性は彼に何度もお礼を言っていたが、高校生も「こちらこそヘルプマークに気づかなくてすみません」と逆に詫びていたほど。そこで内藤さんも男性がヘルプマークのタグをかばんに付けていたことを始めて知る。
「タグがかばんと身体の間にちょうど挟まれていて、見えにくい状態になっていましたが、目を凝らしてみると確かにありました。私だけでなく彼女もここでヘルプマークの持ち主だと悟ったのか今度はバツの悪そうな顔をしていました。喜怒哀楽がハッキリと顔に出るタイプみたいで表情がコロコロと変わっていました(笑)」
ちなみに男性は降りる際にも高校生に「さっきはありがとう」とお礼を述べていたが、女性からの男性への謝罪の言葉は最後までなかった。
◆車内でぶつかっただけでキレていてはトラブルになりかねない
「私は関係ないですよ、と言わんばかりにスマホの画面を見つめていましたね。男性は事情がどうであれぶつかったことに対して謝ったわけですから、彼女も軽く頭を下げる程度でも構わないので謝罪の意思を示してほしかった。
傍観していた私がこんなことを言う立場にはないと思いますが、そこはちょっと残念でしたね」
電車やバスを問わず、満員の車内でほかの乗客が自分にぶつかってくる日常的によくあること。相手の行動が悪意に基づく行為なら話は別だが、このケースではきちんと詫びている。
実際、今回の事例のように相手はヘルプマークの持ち主で、よろめいて踏ん張りが利かずにぶつかってしまうこともあるだろう。
ぶつけられた側が一瞬ムッとしてしまうのは仕方ないが、そこでキレたらそれこそトラブルになりかねない。誰にでも起こりうる状況だからこそ冷静であることを心掛けたほうがいいかもしれない。
<TEXT/トシタカマサ>
【トシタカマサ】
ビジネスや旅行、サブカルなど幅広いジャンルを扱うフリーライター。リサーチャーとしても活動しており、大好物は一般男女のスカッと話やトンデモエピソード。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中。