3514日ぶりの頂点/初優勝は記録ずくめ/トヨタの低迷に驚くフェラーリ首脳etc.【ル・マン決勝後Topics】

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2025年06月17日 16:50  AUTOSPORT web

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優勝したAFコルセの83号車フェラーリ499P(ロバート・クビサ/イェ・イーフェイ/フィル・ハンソン) 2025年WEC第4戦ル・マン
 6月11日水曜から15日日曜にかけて、フランスのル・マン24時間サーキット(サルト・サーキット)で開催されたWEC世界耐久選手権第4戦『第93回ル・マン24時間レース』は、83号車フェラーリ499Pの勝利によって幕を閉じた。ここでは、今季2025年も数々のドラマが起きた24時間レースを、選手や関係者のコメントで振り返りながら、今大会で達成された記録などを紹介する。

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■中国人、ポーランド人初の快挙

 ロバート・クビサ/イェ・イーフェイ/フィル・ハンソン組が日曜日に勝利を収めたことで、フェラーリはル・マン24時間レースで通算12回目の総合優勝を果たした。これによりプランシングホースは、フランスの耐久レースにおけるもっとも成功したメーカーリストの中で、2位のアウディまであと1勝に迫った。

 フェラーリは、2012年以降の現行WECにおいて、アウディとポルシェに続き、ル・マン3連覇を達成した。この結果、イタリアのブランドは優勝トロフィーを永久に保有する権利を得た。アウディは2012年から2014年まで無敗、ポルシェはもっとも競争の激しかったLMP1-H時代の2015年から2017年までに3連勝を飾っている。一方、トヨタは2018年から5年連続で勝利した。

 黄色いフェラーリことクビサ組83号車は、トップ10圏外から総合優勝を果たしたWEC史上初のマシンとなった。このクルマのスタート位置は13番グリッドだった。AFコルセの勝利は、過去20年で初めてとなるプライベートチームによる総合優勝だ。前回は2005年のADTチャンピオン・レーシング(3号車アウディR8)に遡る。

 クビサ、イェ、ハンソンの3名は、いずれもル・マンで初の総合優勝を果たし、それぞれ2023年と2024年にフェラーリAFコルセのドライバーたちが達成した偉業を再現した。ハンソンはル・マンで総合優勝を果たした37人目のイギリス人ドライバーだが、イェとクビサはそれぞれ中国人とポーランド人として初の総合ウイナーとなっている。

 イェはレース後の記者会見で英語だけでなくフランス語でもインタビューに応じ、14歳でル・マンに移り住み、レーシングキャリアを積むなかで培った語学力を披露した。「プロのレーシングドライバーになるためにここに来た。いつかル・マン24時間レースで優勝するのが僕の夢だった。エッセ近くのアパートに住んでいて、窓からはテルトル・ルージュのレストランが見えた。フランスに来て11年後、まさかフェラーリでこのレースに勝てるなんて当時は想像もしていなかったよ」


■約10年ぶりの勝利を飾る

 JOTAスポーツの共同オーナーであるサム・ヒグネットは、総合優勝を果たしたイェとハンソンを祝福した。ふたりはかつて、JOTAが運営するカスタマーチームのポルシェ963をドライブしており、それぞれ2024年と今年の初めにAFコルセに移籍している。

 ヒグネットは冗談めかしてこう言った。「優勝したドライバーのうち、ふたりにトレーニングを行い、ハイパーカーを初めて体験させたのは私たちだ! それを見るのは本当にクールだね。彼らは私たちの家族の一員だ。彼らの両親にはすでにメッセージを送ったよ!」

 クビサの勝利は、ポーランドのモータースポーツ界にとって記念すべき日の一部となった。もうひとつの快挙は、インターユーロポル・コンペティションとヤコブ・スミエコウスキーのクラス優勝。彼らはLMP2カテゴリーで2年ぶり、2勝目の勝利を挙げた。

 インターユーロポルがVDSパニス・レーシングを破った劇的なレース終盤で、ポーランドチームの43号車オレカ07・ギブソンをドライブしたニック・イェロリーは、ニュルブルクリンク24時間レースとスパ24時間レースでの総合優勝を含む輝かしい経歴に、ル・マンでのクラス優勝を加えることとなった。

 LMP2優勝ラインアップの3人目のドライバー、トム・ディルマンは、WECレースでのふたつの勝利間隔がもっとも長いというユニークな記録を作った。フランス出身のディルマンは、2015年の上海6時間レースでシグナテック・アルピーヌとともにLMP2クラスで優勝した後、3514日間も勝利から遠ざかっていた。これまでの最長記録は3283日でルイス・ペレス・コンパンクが保持していた。


■ライバルのミスのないレース運びを称賛

 フェラーリの耐久レースカー責任者であるフェルディナンド・カンニッツォは、エンジントラブルに見舞われたフェラーリのワークスカー2台を抑え、総合2位に入った6号車ポルシェのドライバーたちの「素晴らしい」レースぶりを称賛した。

 カンニッツォは次のように語った。「彼らはすべてを完璧にこなした。非常に優れた戦略で、3人のドライバーの運転も見事でミスもなく、彼らのパフォーマンスは本当に素晴らしかった。彼らはスティントごとに我々を追いかけてきて、とくにレース後半は目覚ましい活躍を見せた」

 一方、他の2台のポルシェ963はそれぞれ7位と9位(※50号車フェラーリの失格により、6位と8位に繰り上がった)でレースを終え、ポルシェワークスカーの3台すべてがル・マンで初めてトップ10入りを果たした。5号車は序盤にトップを走ったが、パンクと夜明け後のペナルティで後退した。

 カンニッツォは、トヨタが5位以上を獲得するポテンシャルを示さず、最終的に小林可夢偉組の7号車GR010ハイブリッドが6位フィニッシュ(5位に繰り上げ)に終わったレースの後、トヨタのパフォーマンスが相対的に低迷したことに驚きを示した。「トヨタは依然として最大のポテンシャルを秘めたクルマだ。彼らがル・マンであれほど苦労し、結果を出せなかったことに驚いている。明らかにミスを犯したが、その他にも彼らには問題があったのだと思う」

 フェラーリは、ミシュランのミディアムコンパウド・タイヤでのトリプルスティント戦略をほぼ貫いた。カンニッツォは次のように説明した。「我々のクルマでは、ミディアムタイヤが非常に安定していた。とくに曇り空で気温も路面温度もそれほど高くなかったレース開始時のコンディションに適していた。しかし、日曜のレース終盤は晴れたため状況が変わった」

 カンニッツォは、50号車フェラーリがソフトタイヤでのトリプルスティントを試したが、どちらのコンパウンドでもペースは変わらなかったと付け加えた。「ドライバーたちがこのコンパウンドにあまり自信が持てなかったので、ミディアムに戻すことにした」


■ル・マンの残酷さを知る3名が同じ日に

 マンタイ・ファースト・フォームのリヒャルト・リエツ、リカルド・ペーラ、ライアン・ハードウィックの3名は、今シーズン2勝目を挙げLMGT3ドライバーズランキングで首位に立った。92号車ポルシェ911 GT3 Rのクルーは現在81ポイントを獲得し、21号車フェラーリ296 GT3(ビスタAFコルセ)のクルーに5ポイント差をつけている。ル・マン前までランキングトップにつけていたベン・キーティング/ジョニー・エドガー/ダニエル・ジュンカデラ組(TFスポーツ/33号車シボレー・コルベットZ06 GT3.R)は3位に後退。彼らの獲得ポイントは60ポイントだ。

 ジュンカデラは、セーフティクリップが引っかかり左リヤタイヤを取り外すことができず8分間を要したピットストップで2周を失った後、LMGT3クラス7位でフィニッシュし、6位相当のポイントを獲得できたことを安堵した。

 ジュンカデラはSportscar365に対し次のように語った。「ああいったドラマはコントロールできないことのひとつだ。ポイントを獲得できるとは思っていなかったが、その後は素晴らしいレースができた。他のドライバーのミスから恩恵を受け、完璧なパフォーマンスを発揮できた。16ポイントを獲得できたのは、僕たちにとって大きなボーナスだ」

 LMP2プロ・アマクラスのウイナーとなったルイ・デレトラズは、PJ・ハイエットとデイン・キャメロンとともに199号車AOレーシング・オレカをドライブし、父ジャン=ドニ・デレトラズの足跡を辿る、ル・マン初優勝を果たした。このスイス人ドライバーは、2021年に最終ラップでマシンがストップし、あと一歩のところでLMP2クラス優勝を逃していた。当時のチームメイトは、今大会の総合優勝ドライバーであるクビサとイェだった。

 デレトラズは次のように語った。「まず第一に、僕はまだ父の2勝に届いていないので、またここに戻ってこなければならない。この2年間、ル・マンでの優勝を目指して懸命に努力してきた。2021年に起こったことはまだ痛いよ。もちろん、ロバート(・ビサ)と(イェ・)イーフェイの勝利を心から嬉しく思う! 彼らと同じ日に優勝できたのは特別な感じがするね」


■観客数の過去最多を更新!

 フェルディナント・ハプスブルクは、ポール・ループ・シャタンとシャルル・ミレシと組んだ36号車アルピーヌA424で、優勝した83号車フェラーリから2周遅れの10位に終わった後、落胆を隠そうともがいた。

「目標はレースを完走することだけだったが、昨年に比べれば大きな成功だったとはいえ、失敗のように感じている」とSportscar365に語ったハプスブルク。「ポルシェ、フェラーリ、キャデラック、トヨタといったチームと比べると、まだ大きな隔たりがあるように思う。僕たちは彼らに打ち負かされた。それでもチームは決して諦めず、スピリットは高かったが、僕たちは大きな一歩を踏み出す必要がある」

 同じくフランスメーカーであるプジョーのジャン-エリック・ベルニュは、夜間に発生したトラブルの後、93号車9X8のステアリングラック交換を迅速に完了させたプジョー・トタルエナジーズのメカニックを称賛した。「左に曲がることができなくなっていた」とベルニュはSportscar365に語った。「実際には曲がることはできたが、うまく曲がれなかった。チーム、とくにメカニックは素晴らしい仕事をしてくれた。30秒足らずで空力パッケージ全体を交換してくれたし、ステアリングラックは5分足らずで交換が完了した。彼らの仕事は本当に印象的だった」

 ベルニュは、プジョーの2台が12位と17位でフィニッシュしたレースでの全体的なパフォーマンスを「飲み込むのが難しい薬」と表現したが、「受け入れるしかない」と続けた。「本当にタフで、恐ろしい状況だ。でも、この経験こそが将来僕たちをより強くしてくれると信じている」

 AWAレーシングは、オリー・フィダニ、ラース・カーン、マシュー・ベルが駆る13号車シボレー・コルベットZ06 GT3.Rで、LMGT3クラスデビュー戦でトップ10フィニッシュを果たした。このカナダチームは、昨年IMSAウェザーテック・スポーツカー選手権でボブ・エイキン賞を受賞し、サルト・サーキットへの遠征を実現させた。

 フィダニはSportscar365に次のように語った。「人生でここまで来られるとは思ってもいなかった。母国の素晴らしいチーム、そして見守ってくれている家族全員と一緒にこのイベントに参加できたことを心から嬉しく思っている。このレースに参戦し、完走できたことを心から嬉しく思っている! 今年もボブ・エイキン賞をふたたび獲得できるよう、全力で取り組んでいく。来年もまたこの場所に戻ってきたい。多くのことを学んだのでそれを来年に活かし、さらに上の順位を目指したいんだ」

 ACOフランス西部自動車クラブは、第93回大会の観客数が33万2000人に達したと発表した。これは、昨年の32万9000人、そして2023年の100周年記念大会の32万5000人を上回り過去最多となっている。

[オートスポーツweb 2025年06月17日]

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