マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ニック・デ・フリース組7号車トヨタGR010ハイブリッド(トヨタ・ガズー・レーシング) 2025年WEC第4戦ル・マン TOYOTA GAZOO Racing(TGR)は6月17日、小林可夢偉と平川亮、そしてTGRヨーロッパ(TGR-E)副会長の中嶋一貴の3名が出席した報道向けのオンラインミーティングを開き、二日前の15日までフランスで開催されていた『第93回ル・マン4時間レース』での戦いを報告した。
WEC世界耐久選手権の現マニュファクチャラーチャンピオンであるTGR。同陣営が走らせるトヨタGR010ハイブリッド7号車と8号車は、長く厳しいレースを戦い抜いたが、結果は7号車が6位、8号車は終盤のトラブルで大きくおくれ16位でのフィニッシュに。なお、後述する他車の失格により、それぞれ5位と15位に繰り上がっている。
そんな今年のル・マンを戦い終えたドライバー2名と中嶋副会長がレースを振り返った。
「率直に言ってかなり厳しいレースでした。我々のクルマが一番速いクルマではなかったというのが、今年のル・マンでした」と語るのは、チーム代表を兼務しつつ、マイク・コンウェイ、ニック・デ・フリースとともに7号車をドライブする可夢偉。
可夢偉は、7号車は序盤に受けた接触による影響やコースオフ、ピットロードとフルコースイエロー(FCY)中の速度違反によるペナルティでのおくれなど「完璧とは言えるレースができなかった部分」があることを認めつつ、仮にそれらがなかったとしても上位で戦うのは厳しかったと述べた。
「2025年のル・マンに関しては力不足で、自分たちがしてきたアプローチに足りなかった部分があったと認識しています。結果に関しては非常に悔しいですが、悔しいだけではなく、『まだまだ自分たちは成長できる』というチャンスをもらったと思うので、これをしっかりと受け止めていきます」
平川は、セバスチャン・ブエミとブレンドン・ハートレーとともに8号車をシェア。このクルマはレース中盤にトップを走り、終盤にかけても表彰台を争える位置につけていた。
「ペースは終始はあまり良くなく、どちらかというと淡々とミスなく走るような展開でした。夜中に自分が乗っているときにセーフティカー(SC)が出て一時、運良くリードする場面もあり、その時は『何かあればチャンスがあるのかな?』とも思いましたが、やはりライバルのペースが速く、そこからは後退する一方の苦しい展開になりました」
「最後に自分が乗ってるいるときにトラブルが起きましたが、チームが諦めずにクルマを直してたおかげでレースに戻ることができました。そこではチームの強さを示せたのかなと思います。悔しいレースになりましたが、この借りは来年のル・マンでしっかりと取り返したいと思います」
中嶋副会長は「完敗といっていいレース」と今回のル・マンを総括した。「チームとして自分たちのクルマ、自分たちのチームにまだまだ足りないことがあるということを教えられたレースだったと思います」
「痛みは伴いますが、もっともっと自分たちがこのル・マン24時間の場で成長しなければいけない、成長できることがあるということを教えてもらえたということは、ポジティブな部分かなと思います」
■突然速くなったライバルに「ん?」
15日日曜の16時にひとまずの決着をみた今年のル・マン24時間レースだが、16日の夜になって4番手でフィニッシュした50号車フェラーリ499P(フェラーリAFコルセ)がリヤウイングに係る技術規定違反によって失格となったことが伝えられた。可夢偉はこの結果に対し、ある種の濁しを入れながら次のように語った。
「彼らのクルマに対し我々のGR010はまっすぐの速度が完全に足りていませんでした。その理由が何かというのは分かっていませんが、50号車が失格になったので1台の説明は多少なりともついたなと」
現行のハイパーカー規定ではホモロゲーション登録が行われ、外観の変化などをともなう大きな変更には、一車種に対して5つまで認められている“エボ・ジョーカー”を用いる必要がある。そして、このジョーカーは今季からシーズンの開幕時点で適用されていなければならない決まりだ。
ライバルのトップスピードが優れていたことについて可夢偉は、「空力がいじれないはずなのに突然速くなるというのは、僕らとしても『ん?』となる」部分があることを認めた。
「残念ながらフェラーリの50号車は失格となりましたが、完全に空力に関する違反で失格になっているので、その部分でなにかをやろうとしてきているのではないかという背景を感じています。あくまでも憶測ですが」
話しはトヨタのクルマに戻り、2032年まで延長されることが決まった現行ハイパーカー規定のなかで、TGRが今後どのような方針をとっていくのか、GR010ハイブリッドに代わる新車が登場する可能性はあるのかという質問が飛んだ。
「ホモロゲーションルールによって、クルマに変更できることがある程度決まっており、現状規定だと完全な新車を導入するということは非常に難しいと思います」と直近の世代交代の可能性を否定した中嶋副会長。
「ですので、新車の投入というよりは、いまのクルマをベースにどういった改良を加えられるかということを具体的に考えています。そのタイミングであったり、何をするかということはエンジニアリングチームがつねに検討していて、僕らとしても何もしていないわけではありません」
一方で同氏は、今季開幕戦から続く苦戦や今回のル・マンでの敗戦によって、ある種の見直しが必要となる可能性を示唆した。
「また、いろいろな事情で正しいタイミングを見極めなければいけないのは事実だと思います。今回の結果にかかわらず、いろいろと準備していることはあるのですが、今回の結果を受けて、さらに自分たちの目標値というかレベルを上げる必要があるとも思うので元々やってることに加えて、もっともっと力を入れていかなければならないと感じています」
実際、トヨタGR010ハイブリッドは現行規定でもっとも古いマシンであり、後発のメーカーが続々と現れるなか劣勢に立たされているのが今季の状況だ。また、そのライバルたちも早くから複数のエボ・ジョーカーを導入し、競争力を上げているのも事実。現チャンピオンであるトヨタがこの状況にどう立ち向かうのか、引き続き注目したいところだ。
[オートスポーツweb 2025年06月17日]