「伝統にそぐわない」とされた大横綱・白鵬の退職。閉鎖的な協会と“異端の横綱”の対立の果て

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2025年06月18日 08:50  日刊SPA!

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写真/産経新聞社
元横綱・白鵬の白鵬翔さんが6月9日付で日本相撲協会を退職し会見を開催。白鵬さんは現役時代、史上最多となる45回の優勝を果たし、引退後は宮城野部屋で親方を務めた。’24年2月、弟子の暴力行為が発覚。部屋が閉鎖され、1年以上が過ぎても再開の見込みが立たなかったことを退職の理由に挙げた。ジャーナリストの森田浩之氏は、相撲協会の閉鎖性が問題の背景にあるとしながら、土俵上に限らない相撲界へもたらした貢献について語る(以下、森田氏による寄稿)。
◆白鵬が日本相撲協会を退職

どうしてこれほどの人材を手放すことになったのか。

元白鵬の宮城野親方(以下、白鵬)が日本相撲協会を退職した。史上最多45回の幕内優勝を誇る大横綱が角界を去ったのだ。そこに見えるのは、相撲の可能性を模索しつづける元横綱と、古い枠を打ち破れない協会との深い溝だ。

6月9日に行った記者会見で、白鵬は退職の理由について「(部屋の再興が)いつかが見いだせず、また延ばされた。それが大きい」と語った。宮城野部屋は力士の暴力事件のため、昨年3月に閉鎖状態となった。1年が過ぎても協会は部屋の再興に動かず、白鵬は不信感を募らせていった。

もっとも白鵬と協会の関係は以前からきしみ続けていた。観客に万歳三唱や三本締めを促すといった白鵬の現役時代の行動は、協会に警戒心すら抱かせた。白鵬は引退の際に、ルールやマナーを守るという誓約書に署名した上で年寄襲名を承認されている。校則破り常習犯の高校生に反省文を書かせるかのようで、大横綱への敬意のかけらもない。

確かに白鵬は「横綱らしい」とは言えない荒っぽい取り口も見せた。だが彼の「問題行動」は、ただ伝統にそぐわないとされたものが大半だ。逆に言えば、伝統を外れることこそが相撲界では問題なのだ。

◆土俵上にとどまらない数々の貢献

一方で白鵬は、土俵上の大記録にとどまらない貢献も相撲界にもたらしてきた。

野球賭博や八百長問題で大相撲が存亡の危機に瀕したとき、「国技」を支えたのは外国出身の一人横綱である白鵬だった。東日本大震災では、支援者などの力も借りて救援物資をいち早く手配するなど、被災地支援の先頭に立った。

’10年からは少年相撲の国際大会「白鵬杯」を主催している。新横綱の大の里も、中学3年生でこの大会に優勝した経験が「相撲人生の分岐点」になったと語る。しかしこれも、本来なら人材確保のために協会がやるべきことだ。

協会は、相撲の将来にビジョンを持ち、国際的にも知名度のある白鵬と手を携えていくこともできたはずだ。だが「伝統」「国技」「品格」といった言葉でがんじがらめの協会には「異端の横綱」を取り込む度量がなかった。

白鵬は今後、新会社を設立し、「世界相撲グランドスラム」構想を推進するという。「150か国の力人(ちからびと)が待っている。入門したい若者が世界中にいる。サポートしたい」と記者会見で語っている。

新会社のビルは東京・日本橋に建設する計画だ。1階をガラス張りにして土俵を設け、観光地化することも考えている。閉鎖的な協会との摩擦に腐心してきた白鵬の第二のキャリアに、ガラス張りのオフィスはよく似合う。

【森田浩之】
もりたひろゆき●ジャーナリスト NHK記者、ニューズウィーク日本版副編集長を経て、ロンドンの大学院でメディア学修士を取得。帰国後にフリーランスとなり、スポーツ、メディアなどを中心テーマとして執筆している。著書に『スポーツニュースは恐い』『メディアスポーツ解体』など

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